コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 289

文春砲の舞台裏?

2017年05月19日 10時00分

 スマホ全盛ゆえ、以前ほど注目度は高くないのかもしれないが、電車に乗るとつい見上げて読んでしまうのが雑誌の中づり広告である。同好の士は案外多いのでないか

 ▼TBSの情報番組『噂の!東京マガジン』にはかつて、各誌の中づり広告を比べ、どれが一番面白いかを決める「今週の中吊り大賞」のコーナーがあった。移り気な車中の客の目を引き付ける工夫がさまざまあり、毎週興味深く見ていたものである。感情を強く揺さぶる言葉ながら、中身についてはよく分からない。かゆい所をつくって、しかも手は届かせないのが中づりのいわばお約束である。元は阪急電鉄創業者小林一三の発案との説もあるくらいだから、乗客に長く親しまれてきた媒体ではあるのだろう

 ▼しかしこの中づり、どうやら乗客ばかりかライバル誌にまで親しまれていたらしい。「週刊新潮」がきのう発売の最新号で、「週刊文春」を発行する文芸春秋の担当者が、自誌の中づりを発売前に不正入手していたと告発したのである。事前に新潮の情報をつかみ、単独スクープを防いでいたという。発売2日前に出版取次会社に渡される中づりを文春が借り、コピーしていたらしい。このところ「文春砲」と呼ばれ波に乗る文春だけに、新潮のやっかみかとも思ったが、取次会社も経緯を認めているとのこと

 ▼事実ならライバル誌の中づりまで「文春砲」の的にしていたわけである。文春は不正を真っ向否定しているためどちらが正しいかはまだ分からない。ただ、しばらくは両誌の間で熱い中づり合戦が繰り広げられそうだ。


陸自機北斗市山中で事故

2017年05月18日 09時31分

 ちょうど90年前の5月に大西洋を単独無着陸で横断したC・リンドバーグは、その後1931年に妻アンと本道上空を飛んでいる

 ▼2人は千島列島から根室に向かっていたのだが、濃い霧のため全く視界がなかったそうだ。緊急着陸を決め、高い山を目印に降下している最中、アンはこう恐れていたという。「あの山より低い山が高潮のような霧に覆われて、わなのように隠れひそんでいないとどうして言えるのか」。アンが手記『翼よ、北に』(みすず書房)にその時の様子を書き留めている。リンドバーグは山腹を巻くように降りていく。相変わらず視界はない。アンは心の中で叫ばずにいられなかったという。「神さま!このままでは、山にぶつかってしまいます!」。気付くと機は無事「武魯頓湾」に着水していた

 ▼残念ながら今回は、そんな幸運には恵まれなかったようだ。陸上自衛隊機が北斗市西部の山中で大破していた事故のことである。当日も低い雲のため視界が悪く、計器飛行をしていたらしい。希望空しく、搭乗していた陸自隊員4人全員が亡くなった。急患を運ぶ任務を帯び、函館空港へ向かっている途中だったそうだ。隊員たちは無念だったに違いない。痛ましい事故である

 ▼技術や計器が進歩した今でも、視界のない中での飛行は危険と隣り合わせということか。ただ緊急事態の連絡がないままレーダーから機影が消えるなど謎も多い。計器の不具合か、天候の急変か、どこかにわなが隠れていたのだろう。空の安全は本道救急医療の命綱である。徹底した原因究明を願いたい。


長州の風雲児

2017年05月17日 09時12分

 幕末の風雲児とも称された長州藩の高杉晋作は、ある経験を契機に攘夷(じょうい)思想は正しいと確信したという。それは幕府貿易調査の一員として清国に渡ったこと。そこで目にしたのは英国に植民地とされ虐げられる民衆だった

 ▼このままでは日本も、と強い危機感を抱いたらしい。その後の活躍は、目覚ましかった。奇兵隊を組織し、欧米の連合艦隊と戦い、第二次長州征伐ではついに幕軍を破ったのである。亡くなったのは1867年の5月17日。きょうは150年目の忌日である。ただ、旧暦では慶応3年4月14日のため、高杉晋作墓所「東行庵」では毎年4月に命日祭を開いているようだ

 ▼藩校明倫館では飽き足らず松下村塾に学び、江戸の昌平黌(こう)に留学までした英才である。そんな人が「尊皇攘夷」の御旗を掲げて西洋式の軍隊を組織し、幕府に立ち向かった。しかも明治維新の1年前に長らく苦しんでいた肺結核に倒れ28歳でこの世を去っている。これほど劇的な人生もないのでないか。自分の名前は晋作に由来していると語るこの人も、同郷の偉人と自分の人生を重ねるときがあるのかもしれない。山口県を郷里とする安倍晋三首相のことである

 ▼どうやらそろそろ、主戦場に戻ろうとしているらしい。先日、自民党総裁として、2020年に改正憲法を施行する意志を表明したのである。「おもしろきこともなき世をおもしろく」との意図があったわけでもあるまいが、この急な号砲には政界も大揺れだ。改憲の実現はさておき、平成末の風雲児の異名だけは決まりかもしれぬ。


外国人観光客

2017年05月16日 09時29分

 毎週末のジョギングで、札幌市西区にある石屋製菓の「白い恋人パーク」前を通るのだが、いつもそこだけ異国の雰囲気がして面白い

 ▼理由は風景でなく言語。地下鉄宮の沢駅と「パーク」をつなぐ道を、ほとんど中国系の人々であろう外国人観光客が大声で話しながら歩いているのである。思えば道庁赤れんが庁舎や狸小路など市内ではそんな場所が随分と増えた。道内の他の観光地も状況は似たようなものだろう。1年間の道内観光総消費額が1兆4298億円に上ると聞けば、あちこちに小さな異国が現れるのもうなずける。道が先週発表した「第6回北海道観光産業経済効果調査」(2014年10月から1年間)で、そんな結果が出たそうだ

 ▼もっとも、外国人観光客はそのうち3705億円と4分の1程度。ただ04年の第4回調査に外国人観光客はほぼ存在しなかっただけに、この先まだまだ伸びが期待できる大型ルーキーを獲得したようなもの。外国人向けのサービス充実が急務とされるゆえんである。経済波及効果も初めて2兆円を超えたそうだ。同列に比較できるものでないのは分かっているが、トヨタ自動車の17年3月期営業利益が約2兆円。いかに大きな産業なのかが実感できる。訪れる人が本道の魅力を認めてくれた結果だろう

 ▼同じく道がまとめた16年度「観光客動態・満足度調査」で、外国人観光客の目的の上位は自然観賞や温泉・保養だったそう。良いところに目を付けているようだ。いろいろな言語の小さな異国が、これからも道内各地にどんどんできるのを楽しみに待ちたい。


死亡労災多発

2017年05月13日 09時20分

 少し前のこと、母子家庭に暮らす女子高生の生活をテレビが伝えているのを見た。番組名は覚えていないのだが彼女には小学生の弟と妹がいて、家計を助けるためアルバイトを2つ掛け持ちしながら弟妹の世話もしているということだった

 ▼母親も生活費を工面するため朝早くに家を出て、夜遅くに帰る働き詰めの毎日らしい。決して楽とはいえない暮らしぶりと彼女のけなげさには、ため息が出た。現代の話である。厚生労働省の「ひとり親家庭等の現状について」(2015年)によると、母子世帯の平均年間就労収入は181万円で一般世帯の4割弱。就業率は高いものの、非正規の仕事が多いため収入は低いそうだ。仕事を掛け持ちしてやっと生活できるわけである。子どもが小さければなおさらだろう

 ▼相対的貧困率は54.6%と、実に半分以上の世帯が貧困という現実。母子世帯になる理由のほとんどは離婚だが、死別も8%程度ある。大黒柱を突然失うことでもたらされるのは悲嘆だけではないのだ。道内で死亡労災が多発している。中でも建設業での発生が目立つ。道労働局の統計では、16年に全産業で77人(前年比21人増)が死亡。このうち建設業が30人(5人増)を占めたという

 ▼新たに母子家庭をつくってしまった例もあったのでないか。悲しみに暮れながら生活の心配も。残された家族には酷な話である。同局は先頃、関係団体と死亡労災撲滅に向けた緊急共同宣言を表明した。来月30日まで集中的に対策を実施するそうだ。無事でいることは家族を守ること。今一度胸に刻みたい。


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