コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 288

ことしの夏は暑く

2017年05月26日 08時58分

 先の日曜日、第43回洞爺湖マラソンが開かれた。当方も湖畔を一周駆け抜けたランナーの一人である。景色が良い上にボランティアら地元の温かさも感じられる大会で、走っていて実に気持ちがいい

 ▼ただ今回は終盤30㌔すぎから、給水所に水がなくなる事態もあったようだ。いつも寒いくらいなのに今回は例年になく暑かった。ランナーの水分補給が予測を上回ってしまったのだろう。天気読みは難しいものである。顔を左に向けるとたっぷりの水をたたえた洞爺湖が見えるにもかかわらず、飲む水がないというのも皮肉なもの。軽口はさておき、熱中症による脱水は死につながる危険な兆候である。対策は二重、三重に考えておく必要があろう

 ▼どうやらことしの本道は暑い夏になるらしい。札幌管区気象台がおととい、3カ月予報を発表した。気温の出現確率は、6月と7月が〈平年並〉と〈高い〉共に40%、8月が〈平年並〉30%、〈高い〉50%だという。来月から厳しい暑さに悩まされる日がありそうだ。104歳の現役美術家篠田桃紅さんが随想「りの字」に、暑さに負けない工夫を記していた。それは食事で五つの「り」を実行すること。揚げ物はからり、煮物とゆで物はさらりと仕上げて喉をするり、全体はきりりと引き締めた味付けで、ぴりりと利くものを添える―。なるほど箸が進みそうである

 ▼ついでにこれも付け加えさせていただきたい。「飲み物をごくり」。喉が渇く前から塩分とともに十分な水分補給をお忘れなく。ことしの夏はマラソン同様、長丁場になる。備えは万全に。


テロ準備罪法案

2017年05月25日 09時28分

 役に立たないものや、形ばかりで中身のないものを例えた言葉に「絵に描いた餅」がある

 ▼『三国志』由来の故事成語「画餅」からきているのはご存じの通り。「名は地に画きて餅を作るが如く、啖うべからざるなり」がその一節である。つまり名声などというのは土の上に描いた餅のようなものだから、真に受けるべきでないというのが元の意味だ。名声に関しては意見も分かれようが、餅なら絵など話にもならぬ。きのう、新聞の各紙を眺めていて大いに考えさせられた。これは本物の餅と絵に描いた餅くらい別の話なのではあるまいかと。ご覧になったろう、英マンチェスターで起きた自爆テロの記事と、「テロ準備罪法案」が衆院を通過した記事が1面に並んで載っていた

 ▼一方の「テロ」からは胸を押しつぶされそうな重さを感じた半面、もう一方の「テロ」からは片仮名2文字分の重さしか感じなかった。どちらかが絵に描いた餅だったのだろう。現実と法案の違いだけでは、その落差を説明できない。国会議員の多くは、まだテロを真に受けるべきものでないと考えているのでないか。だからこそ政府与党は説明責任を甘く見、民進党など法案に反対する野党は政権攻撃の道具に使おうとする

 ▼日本でもオウム真理教のサリンテロがあった。今回の英国のテロでは8歳の子どもを含む22人が犠牲になったという。運用に課題が残されているとはいえ、準備段階で組織的犯罪集団を処罰できる法案の検討自体はおかしなことではない。国会はいつまで絵に描いた餅の議論ばかり続けているのか。


北朝鮮の脅し

2017年05月24日 09時30分

 猫のトムとネズミのジェリーが追い駆けっこをする米国のアニメ『トムとジェリー』に、「恐怖の白ねずみ」の話しがあったのをご記憶だろうか

 ▼ざっとこんな内容だった。研究所から爆弾を飲み込んだ白ネズミが逃げ出したと聞いたトムは、家の防備を固める。その時ジェリーは誤って白い塗料をかぶり、全身真っ白になっていた。そんなこととはつゆ知らず、トムは爆弾白ネズミが出たと勘違い。恐怖におののく。それからどうなったか。普段の仕返しとばかり、ジェリーは爆弾白ネズミのふりをしてトムを脅す。わざとトムをいたぶり、怒ったトムが不用意に手を出そうとすると、〈そんなことをして爆発してもいいのかな〉とからかうのである

 ▼子どものころは大喜びして見ていたが、これが現実となるとまるで笑えない。北朝鮮を巡る問題がちょうど同じ展開になっているのである。相次ぐ挑発に包囲網を狭める国際社会に対し、北朝鮮が〈手を出した国は壊滅的被害を覚悟しろ〉と脅しつけているのだ。最近も反応を楽しむかのように連続してミサイルを発射した。米国は深刻な危機を察して振り上げた拳に迷いが生じ、追い詰めに慎重な中露は相変わらず。北朝鮮にしてみればしてやったりでないか

 ▼『トムとジェリー』は当初から大人も見られる風刺アニメとして作られたらしい。どうりで世相をよく表している。ただ国際問題の答えまでは用意がなかった。本編はトムが本物の白ネズミを蹴飛ばし、全てバラバラになって終わる。現実の脅威に対処するためには、新たなシナリオがなければ。


働かなくていい?

2017年05月23日 09時30分

 さも分かった風に思い付きを話す人は昔からいたようで―。「浮世根問」という落語がある。横町の隠居は物知りで通っているが、どうも言っていることが怪しい

 ▼ある日、長屋の熊がからかってやろうとやって来た。熊「カカアの意味は」、隠居「家から家に嫁いでくるから家家(カカ)」。熊「じゃあ嫁入りは」、隠居「男の目が二つ、女の目が二つで四目入りとなる」。知識が生半可だからどんどん苦しくなる。さてこちらの小話はどうか。受動喫煙防止のため先週開かれた自民党の部会での大西英男衆院議員のやじの一件。三原じゅん子参院議員ががん患者も考慮した対策が必要と訴えているとき、大西氏が「働かなくていい」と言い放ったそうだ

 ▼フジテレビ系「Mr.サンデー」で見たのだが大西氏は当初「そんなことは絶対に言ってない」と反論。次に「そんな趣旨のことは言ってない」と玉虫色に変え、言っていない証拠としてこう主張した。「自分がそんなことを言うはずないから」。やれやれ。きのう、記者会見で患者には謝罪したが、発言は撤回しないらしい。もし長屋の隠居が聞いたら上には上がいると感心するのでないか。自身のHPにも弁明を掲載してはいるものの、どんな趣旨だったかには触れずじまい

 ▼まさかいつかのような「悪いのは騒いだマスコミだ。懲らしめてやらねば」との「趣旨」の開き直りでもあるまいが。ちなみに「根問(ねどい)」とは、「根元まで掘り下げて問いただすこと」をいう。国民が政治家に求めるものはそれである。思い付きの放言でなく。


生物模倣

2017年05月20日 09時30分

 昭和の特撮ヒーローを一つ挙げるとしたら何かと問われたら、『仮面ライダー』(石ノ森章太郎原作)を挙げる人は少なくないだろう

 ▼悪の秘密結社ショッカーに改造されたが洗脳を受ける前に逃げ出し、逆に彼らの世界征服の野望を砕く物語である。特徴はバッタの改造人間であること。跳躍力や走力といった脚力に優れ、ライダーキックが決め技だった。今考えると当時としては実に斬新な設定だったに違いない。「生物模倣」という科学分野があるのをご存じだろうか。生物の特質や能力を解析し、新製品開発に生かそうとする研究である。近年、取り組みが活発になっているらしい。仮面ライダーは時代をだいぶ先取りしていたわけだ

 ▼そのライダーを思い出したのは、東大の研究グループが今週、テントウムシが薄く長い羽を小さくしまい込む仕組みを解明したと発表したからである。こちらは強度を保つ筋や素早く折り曲げるためのばね構造が、人工衛星の太陽光パネルや医療機器に応用できるという。バッタに限らず虫や鳥、動物といった生物は未知の技術の宝庫なのだそう。悠久の歴史に鍛えられた特別な個性を生まれながらに持っているからである。多くはまだ謎だが、解明した一部だけでも随分役に立っているらしい

 ▼『小さな生物たちの大いなる新技術』(ベスト新書)によると、新幹線のパンタグラフ騒音対策にフクロウの羽、建物の外壁システム汚れ防止にカタツムリの殻が活用されるなどたくさんの例があるとのこと。ショッカーならずとも大いに興味を引かれる分野ではないか。


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