コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 334

ニホニウム

2016年06月10日 09時22分

 ▼生まれてきた子どもに名前を付けるのは、うれしいと同時に少なからず責任の重さを感じるものである。「新涼や命名札に光満つ」(三原信子)。秋の句だが、命名の晴れやかな喜びが伝わってくる。この報に触れ、同じように誇らしい気持ちになった人も多いに違いない。理化学研究所が発見し、日本に命名権が与えられた原子番号113の新元素に、「ニホニウム(Nh)」の名前が付けられるそうだ。

 ▼国際純正・応用化学連合が8日公表した。インターネットを通じて5カ月の間世界から意見を募集し、問題がなければ正式決定する段取りらしい。検証に耐え、元素周期表に掲載が確定した新元素は、日本はもとよりアジアでも初めてというから快挙である。これからは学生も周期表の暗記に張り合いが出るのでないか。それにしてもこの元素113は、1兆分の1cmの亜鉛とビスマスの原子核をぶつけ、100兆分の1の確率でやっと融合が成功するのだという。いやはや科学とは。

 ▼命名は、「日本」と「ium」を組み合わせたものだが、元素名について物理学者の寺田寅彦はかつて『柿の種』(岩波文庫)にこんなことを書いていた。元素は原子番号だけで完全に確定できるのに「一種の『源氏名』のようなものを付けて平気でそれを使っている」。それは人間の「煩悩」だとし、源氏物語なら「桐壷」と付けてもいいはずだと面白がっていたらしい。なるほどもっとも。ただ、生まれたての新元素への命名は煩悩というよりも、子煩悩と呼ぶ方がしっくりくる。


花の詩画展

2016年06月09日 09時17分

 ▼詩人で画家の星野富弘さんの「花の詩画展」がことし7月、19年ぶりに札幌市内で開かれる。星野さんの名前を知らないまま、その作品に触れている人も少なくないはず。というのも日本自動車連盟(JAF)に加入していれば毎月届く情報誌「ジャフメイト」に、「風の詩」と題する詩画が連載されているからである。表紙を開けてみれば「ああこれか」と気付くだろう。ちなみに6月号の絵は矢車草だ。

 ▼ご存じない人もいると思うが、星野さんには首から下の運動機能がない。中学校教諭だった24歳の時、部活動指導中に事故で頸髄(けいずい)を損傷したのである。絶望から脱し、わずかに動く口に筆をくわえて文や絵を描き始めるまで2年かかったという。「ジャフメイト」4月号にはレンギョウの黄色い花の絵にこんな詩が添えてあった。「わたしは傷を持っている でもその傷のところから あなたのやさしさがしみてくる」。温かい言葉の中にハッと気付かされるものがある。

 ▼花の詩画集『鈴の鳴る道』(偕成社)にも印象深い一文があった。クチナシの白い花の上にこう書かれている。「鏡に映る顔を見ながら 思った もう悪口をいうのはやめよう 私の口から出たことばを いちばん近くで聞くのは 私の耳なのだから」。今月初めにヘイトスピーチ解消法が施行されたが、その対象となっている人たちにもぜひ熟読玩味をお薦めしたい。「花の詩画展」は大丸藤井セントラルで来月5日から17日まで。会場では自分に向けられた詩画を見つけてほしい。


都知事の詭弁

2016年06月08日 09時24分

 ▼京都を舞台にした奇想天外な小説を数多く書いている森見登美彦の作品には「詭弁論部」なる学生サークルがよく出てくる。「魂の半分が屁理屈でできている阿呆たちの牙城」(『四畳半王国見聞録』新潮社)であるらしい。例えばこんな具合だ。ある部員が自身の間違いを認めず言い張る。「部員は常に真実を語る。でも正真正銘の真実というやつは、世間一般の常識とは逆さまになっちゃうものなのだ」

 ▼実際にこんな人たちがいたら相当に厄介だろうと思うが、やはり事実は小説より奇なり。どうやら実在したようだ。舛添要一東京都知事のことである。6日に記者会見を開き、政治資金私的流用疑惑についての、いわゆる「第三者」調査の結果を公表した。ざっくり言えば要点は二つ。その一、不適切な使途はあるが違法性は全くない。その二、反省はしているが知事を辞めるつもりはない。沈痛な面持ちの下から、赤い舌がぺろりと出たような気がしたのは勘違いだったのかどうか。

 ▼多くの人が疑念を抱いたのは、政治資金規正法上違法かどうかもさることながら、知事としての資質と人間性に対してだろう。むしろこんな人が首都の知事かと頭を抱える人を増やしたのでないか。伊藤左千夫の『独語録』にこんな言葉があった。「世の中に何が卑しいといって、人の為め人の為めといいつつ、自分の欲を掻く位卑しい事はあるまい」。知事は会見で「都民のため」を繰り返したが、「自分のため」をこれだけ見せつけられた後では詭弁(きべん)にしか聞こえない。


衣替え

2016年06月07日 09時11分

 ▼6月に入って早々、本道上空に真冬並みの寒気が流れ込み、十勝岳温泉など標高の高い所では季節外れの雪に見舞われたそうだ。平地では身を切るような冷たい風が吹き荒れ、雨が降った地域も多かった。この5月は1946年の統計開始以来、最も気温が高かったというのに続く6月はこの天気。いいように翻弄(ほんろう)されている。しまいかけていた冬物を再び引っ張り出した人も多いのでないか。

 ▼札幌管区気象台の1カ月予報によると、今週からようやく穏やかで暖かい天気が続きそうだという。6月といえば衣替え。本州では5月からクールビズも始まっているようだが、本道では冬物の心配がなくなるこの時期がしっくりくる。「子の背伸び出してはしまう更衣」(内田春菊)。世のお母さんたちにとっては、子どもたちからの夏物予算要求に戦々恐々とする時期でもあるということだろう。それはそれとして、薄い夏物に着替えると気持ちまで軽くなるから不思議なものだ。

 ▼こちらもすっかり風物詩になったようだ。いわゆる「就活スーツ」への衣替えである。街で見掛け、そんな時期かと気付いた人も多いのでないか。来春卒業予定の学生に対する企業の採用面接が1日、解禁された。似たようなスーツばかりで個性がないとの批判も聞かれるが、学生としては衣を替えることで気持ちを切り替えているのだろう。それで気合が入るのなら悪くはない。何にせよいい出会いを見つけたいもの。企業を次代に合った衣に替えてくれるのは当の若者たちなのだ。


少年無事保護

2016年06月04日 10時00分

 ▼北斗市の小学2年生が5月28日から七飯町の山林で行方不明になっていた事件は、当の少年が3日朝発見され、無事保護された。本当に良かった。日本中で心配していたようなものだ。皆ほっと胸をなで下ろしたろう。報道によると鹿部町の陸上自衛隊駒ケ岳演習場の小屋にいたとのこと。行方不明当日の夜に歩いてきたという。よく頑張ったものだ。真っ暗な森に寒さ、空腹。さぞ心細かったに違いない。

 ▼親御さんらもこれでやっと一安心だろう。連日の大捜索でも手掛かり一つ見つからなかったのだから、最悪の結果が頭をよぎったとしてもおかしくない。実際、かなり危なかった。まだ詳しいことは分からないが、今回は幸運が重なったようだ。早い段階で偶然小屋を見つけ、そこから動かなかった。どちらの条件が欠けても生存は難しかったろう。筆者も山歩きには慣れているが、地図とコンパスなしで初めての山に放り込まれたらまずお手上げである。静かに救助を待つしかない。

 ▼しつけのつもりで置き去りにしたことは軽率だったに違いない。さりとて一方的に責めるのもどうか。落語でも「火事息子」など勘当噺は多いが、大体は親の愛情あればこそのものだ。勘当でなくとも、悪さで家を閉め出された人は少なくないはず。今度の件もそれ同様、父親は危険などないと思ったのだろう。ただ、親なら誰でも覚えがあるように、子どもはときに大人が想像もしない行動に出る。どこまで目配りできるのか、悩ましい問題だ。ともあれ今は少年の無事を喜びたい。


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