コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 335

人々の願い

2016年06月03日 09時09分

 ▼世界で初めて自動車の大量生産に成功し、米国に一大自動車王国を築いたヘンリー・フォードは「汽車のように速く、そして馬のようにどこへでも走れる乗り物が欲しい」と願っていたそうだ。広大な国土事情に加え、時代の要請もあっただろう。結果としてそれが経済産業発展の原動力にもなった。馬車から自動車、鉄道と、どうやら人間はより高性能な輸送交通手段を求めずにいられない生き物らしい。

 ▼最近、この輸送交通分野で斬新な技術の発表が相次いだ。幾つか紹介したい。まず「ハイパーループ」である。真空に近い金属チューブの中を磁気空中浮上式の車両を走らせるもの。最高速度が時速1100㌔というから途方もない速さ。SF小説の世界のようだが年内には米国で試験走行が始まるらしい。中国では自動車を下に通行させたまま、道路をまたいで走る大型バスが開発されたそうだ。バス型のガントリークレーンを想像すると分かりやすい。なるほど発想の転換だろう。

 ▼スイスでは物流網構築が進む。都市の地下に自律型の貨物路線を張り巡らせる計画だ。地上の物流拠点まで運べば自動で目的地近くに送ってくれる優れものである。こうした新たなインフラは生活を大きく変える力を持つ。フォードもそうだったが、人々の「より便利に」の願いがそれを強く後押しする。安倍首相は1日の記者会見で「しっかりと内需を支える経済対策」の実行に力を込めた。成否は人々の願いをうまくすくえるかどうかにかかっていよう。安倍政権の正念場である。


増税再延期

2016年06月02日 09時04分

 ▼視聴者の期待をたがえず、着地をぴたりと決めるテレビドラマの筆頭といえば、『水戸黄門』(TBS)の名が挙がるのではないか。当方になじみ深いのは東野英治郎の黄門様だが、連綿と続いているところを見ると、時代を超えた人気があるのだろう。物語の展開は毎回ほぼ同じ。黄門様一行が旅の道中で悪政や暴力に苦しむ民衆と出会い、その原因となっている代官や悪徳商人を懲らしめる流れである。

 ▼結末は分かっているものの、「この紋所が目に入らぬか」の決めぜりふで悪人どもがひれ伏すとやはり胸がすく。お家芸ともいえる名シナリオあればこその長寿番組だろう。さてこれは誰がシナリオを書いたのか。安倍晋三首相が消費税増税再延期へと向かう道中記である。まず伊勢志摩サミットで各国首脳に世界経済危機回避のための協調合意を取り付け、次いでオバマ大統領の広島訪問で政権支持に弾みをつけた。その上で間髪入れずの増税再延期と衆参同日選見送り表明である。

 ▼これだけでは出来レースと見られても仕方がない。そこで麻生太郎副総理兼財務相と谷垣禎一自民党幹事長にご登場願い、首相に異を唱え、熟慮の末、容認する一幕を設けたのでないか。結果として増税推進派のガス抜きにもなり、再延期の道筋を確かなものにできた。役者もそろい、根回しをお家芸とする自民党らしいシナリオだ。まあこれも一つの見方にすぎないが。ともあれ再延期を歓迎する人は多い。大切なのはこのドラマの結末が、誰もが喜べるものになるかどうかである。


JR北海道

2016年06月01日 09時00分

 ▼国にはそこならではの文化や習慣があるため、他の国から見ると随分滑稽に思えてしまうことも少なくない。『世界の日本人ジョーク集』(中公新書)で読んだのだが、インドにこんなジョークがあるという。列車の遅れが常態のインドではそれに目くじらを立てる人などいない。ところがある日、列車が定時に発車し多くの人が乗り遅れた。怒って抗議する人に駅員は答える。「今のはきのうの列車です」

 ▼きょうの列車が来るのはまだ先だからご安心を、というわけ。これで乗客が喜んだかどうかは分からないが、ダイヤ厳守の日本では考えられない。そんな日本での今回の事態である。乗客が腹を立てるのも当然だ。JR北海道指令センターのシステム不具合で、千歳線と室蘭線の運行が5月30日まで3日間連続して混乱した件である。合計で140本が運休、3万人以上に影響が出たという。仕事や通学、観光など全てに利用される幹線だけに迷惑を被った人は多方面にわたったろう。

 ▼28日に信号やポイントを制御する装置が水に漬かり、異常が起きたそうだ。北海道新幹線という華々しい話題はあったものの、このところJR北海道からは、事故やトラブルばかりが聞こえてくる。足が故障続きでは北海道も元気には走れない。一体どうしたことかと道民も気をもんでいよう。先のジョーク集には旧東ドイツの運行状況を示すこんな場面も記されていた。列車が2時間遅れで到着すると、「駅構内は大きな拍手に包まれた」。JR北海道も拍手が必要になるだろうか。


司法取引

2016年05月31日 08時59分

 ▼米国の犯罪映画には必ずこんな場面がある。被告人「俺が一人でやった。誰の指図も受けてない」。検察官「黒幕はもう分かっている。ただ証拠がない。証言してくれれば君は早く刑務所から出てこられるし、その後の身の安全も保障する」。被告人は同席する弁護士の助言も得て「それなら…」。お決まりの展開である。初めて見たときは、米国では不正な取り調べが横行していると義憤を感じたものだ。

 ▼司法取引というのが裁判での正式な制度だと知ってからも、違和感は消えない。同じ思いを抱いている人は案外多いのでないか。犯罪事実よりも駆け引きが重視されるのかと。ところがその司法取引が2年以内に、日本でも始まることになりそうだ。衆院本会議で先週、刑事司法改革関連法が成立し、取り調べの録音・録画の義務化とともに、法制化されたのである。取り調べを可視化すると、人間関係を基にした供述が得にくくなるため、捜査の新たな武器として導入されたらしい。

 ▼つまり可視化により「かつ丼でも食うか。故郷の母親も泣いてるぞ」式のなだめすかしがやりにくくなるため、「刑を減免するから」といった取り引き条件を捜査過程で提示できるようにするわけである。まさか安易な取り引きに頼るばかりで、丁寧な捜査をなおざりにすることはないと思うが、犯罪も捜査も人間のすること。刑罰が軽減されるとなれば犯罪者は正直にもなればうそもつく。映画ならまだしも現実で義憤を感じさせる判例が生じないか。法の執行者は心すべきだろう。


サミット株価

2016年05月28日 09時20分

 ▼いまや世界に知られるウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)だが設立間もない1889年当時は薄っぺらで、大して読むところもなかったらしい。同紙を育てた人々を描いた『ウォールストリートジャーナル』(講談社)で知った。読者は「その日のできごとを編集なしで逐一だらだらと書いた記事につきあう」しかなかったようだ。情報に飢えた人にとってはそんな新聞でも貴重だったのだろう。

 ▼米国はゴールドラッシュ景気に沸き、投機が活発化していたのだ。そこに目を付けたのがWSJ創業者の一人チャールズ・ダウで、今につながる「ダウ平均株価」を発表して新聞を躍進させたのである。どこの世界にも目先の利く人物はいるということだろう。そのダウ平均ができてからこの5月で120年になるそうだ。構成銘柄は時代に合わせ入れ替わっているものの、一貫して経済の実勢を示す指標であり続けてきた。日本で同様のものを探せば日経平均株価ということになる。

 ▼伊勢志摩サミットが財政出動と金融政策、構造改革の国際版「3本の矢」を進める首脳宣言を採択して閉幕した。株式市場も一定の評価をしたようだ。日経平均はきのう終値で前日より62円高い1万6834円を付けた。3日続伸である。安倍首相は今頃ホッとしているだろう。経済中心の会議後に株価下落では面目丸つぶれだ。首相は早速、財政出動に意欲を見せているというから、ゴールドラッシュとはいかなくとも、ダウに倣って経済躍進の糸口くらいは見つけられないものか。


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