コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 336

火星最接近

2016年05月27日 09時11分

 ▼日本書紀に、舒明天皇在位のころ彗星が現れ、以来、大洪水や宮殿火災、飢饉(ききん)といった異変が次々起こったと記されている。今は異変と彗星を結びつけようものなら一笑に付されるだけだが、当時は因果関係が信じられていたのだろう。1週間ほど前のこと。夜にふと空を見上げると、月の下で、普段は見掛けない大きな赤い星がひときわ強く輝いていた。一瞬、頭に浮かんだのは「何か凶事が」

 ▼そんなばかなとすぐに打ち消したが、これでは昔の人を笑えない。妖しくも美しい光にすっかり幻惑されてしまったようだ。ところで後で調べてみると、その大きな赤い星は火星だったのである。では、なぜいつもと違って見えたのか。天文ファンならお分かりだろうが、今月31日、火星が地球に最接近するため大きく明るく見えているのだという。「スーパーマーズ」と呼ぶらしい。およそ2年2カ月ごとに起きているそうだ。当たり前だが凶事のしるしなどではなかったのである。

 ▼火星といえばタコのような火星人が攻めてくる物語を記憶にとどめている人もいよう。現在は人類の移住先として有望視されているだけに、多くの人にとっては少し身近な存在になっているのでないか。谷川俊太郎さんの詩「二十億光年の孤独」を思い出す。「人類は小さな球の上で/眠り起きそして働き/ときどき火星に仲間を欲しがったりする/火星人は小さな球の上で/何をしてるか/僕は知らない」。31日には夜空を見上げ、火星人が何をしているか観察してみるとしようか。


夢あるわこうど

2016年05月26日 09時05分

 ▼ことしも4月20日から本紙3面「はばたけわこうど」で、建設業界に飛び込んできた若者たち18人を紹介した。まだ読んでいなければ、ぜひ目を通していただきたい。どの栄養ドリンクより元気が出ること間違いない。佐藤香純さん「早く現場に出たくてわくわくしてます」、浜田啓太さん「選んで良かったと思える人生を目指し、前へ」、佐藤健児さん「覚悟して選んだ道」。目は真っすぐ前を見ている。

 ▼皆、目標もしっかりと持っているようだ。塩島由妃さん「歴史に残るような大きな工事を担当したい」、島岡崚太さん「重要なインフラである道路を支えたい」、中屋秀平さん「地元に貢献する」。頼もしい限りである。希望に燃える若者たちの存在はうれしいものだ。一方で先日、気になる報に触れた。本紙21日付に載った日本建設産業職員労働組合協議会のアンケート結果である。45%の人が「建設業に魅力を感じない」と回答したという。長時間労働や低賃金がその理由らしい。

 ▼若い世代ほど転職を考える傾向にあるというから事態は深刻だ。若者の熱い想いに応え切れていないということか。経営者らも頭を抱えていよう。もっとも、業界だけの責任でない。生活を支えるインフラの維持や災害時の対応で地域を守る建設業の重要さが、いまだ社会に十分理解されていない問題も大きいだろう。入社前、業界について調べた島崎涼太朗さんはこう考えたそう。「自分が入ることで、少しでも状況が変われば」。若者の夢を、夢だけに終わらせていいわけがない。


出生率1・46

2016年05月25日 08時44分

 ▼大統領のところに、予告もなく大勢の子どもたちが面会にやって来た。小松左京にそんな書き出しで始まるショートショート「見すてられた人々」(剄文社)がある。表敬訪問ではなかった。子どもたちは最後通告を突き付けるため来たのだ。「今すぐ、世界中のおとなが集まって、本当に世界をよくするための話し合いをひらいてください」。大統領は「大切なことだ」と口にするが何もしようとしない。

 ▼子どもたちはどうしたか。ついに実力行使に出るのである。世界から姿を消したのだ。残されたのは老いゆく人々ばかり。今の日本の事情を考えれば、こんなSFも現実と重なるようでヒヤリとする。きのうに続き子どもの話題だが、きょうは少しばかり明るい出来事について触れたい。2015年の合計特殊出生率が1・46に上がったことである。厚労省が23日発表した人口動態推計で明らかにした。1・45を超えるのは、1994年以来21年ぶりだというからうれしいではないか。

 ▼驚くのは前年と同率の岡山を除き、46都道府県全てで出生率が上昇していることだ。まさか自動車会社の燃費偽装に倣って、厚労省がこっそり鉛筆をなめたわけでもあるまい。ここ数年の経済好転や失業率低下が良い方向に働いたということだろう。ただ、安心はできない。経済を回復すると同時に、子どもが暮らしやすい社会に変えていかねば。大人の都合ばかり押し付けていては、子どもから先の小説の結末と同じこんな言葉を言われかねない。「こんな世界に、住むのはいやだ」


おにぎらず

2016年05月24日 08時24分

 ▼「おにぎらず」と聞いてすぐピンとくる人は、流行に遅れをとっていない人だろう。その正体は、のりにご飯を載せ、好みの具を置き包むだけの簡単料理。握らないため「おにぎらず」である。もともと漫画『クッキングパパ』(うえやまとち作)で25年ほど前に紹介されたものというから、筆者も読んでいたはずだがとんと覚えがない。手軽に作れる上、具も自由に使えて華やかにできることが特長とか。

 ▼最近、再びWebの料理サイトで取り上げられ、瞬く間に人気に火が付いたらしい。今度の週末、道内多くの小学校で運動会が予定されているようだ。その「おにぎらず」もきっと、お母さんやおばあちゃんが早起きして作った弁当に入っているだろう。「空を割る音の溢れし運動会」(戸澤てしほ)。軽快な音楽が流れる中、子どもたちは懸命に跳び、走り、踊る。両親や祖父母の応援もどんどん熱を帯びていく。昼には子どもを囲み皆の笑顔がはじけるだろう。幸せな風景である。

 ▼この幸せは子どもがいるからこそだが、いつまでも続くかというとさほど楽観できない。総務省が先頃発表した人口推計によると、ことし5月1日現在の14歳以下の子どもの数は1604万人(概算値)で、前年に比べ11万人も減っているのである。ピークだった1954年のほぼ半分になり、減少傾向はさらに続いているというのだからいささか深刻だ。そのうち運動会そのものが少なくなり、「おにぎらず」どころか、子どもがいなくて「おにぎれず」になってしまうかもしれぬ。


コルビュジエ

2016年05月21日 08時50分

 ▼その人はある日、こんな質問を受けたそうだ。どうしてあなたは、やること全て上手に成功させられるのか―。答えは「母親が私に言ったからさ。やるならちゃんとやれってね」。その人とは、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエである。一番弟子ともいえるヴォジャンスキーが著書『ル・コルビュジエの手』(中央公論美術出版)に記していた。陽気な楽天家で、冗談を言うのが好きだったらしい。

 ▼そのコルビュジエの設計した上野の国立西洋美術館が世界遺産になるらしい。ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議」が、同美術館を含む7カ国17資産で構成される「ル・コルビュジエの建築作品」を登録するよう勧告したそうだ。名作と名高いロンシャンの礼拝堂も入っている。「地球規模で半世紀以上、建築技術を近代化させ現代社会、人間に回答を示してきた」価値が認められたとのこと。日本にも影響を受けた建築家は多いから、関係者にとっては喜びもひとしおだろう。

 ▼木造建築技術を究めてきた国柄もあってのことか、「ちゃんとやる」ことをしっかり受け継いだ日本の後進たちの活躍は目覚ましい。建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞に、1979年の創設以来6組が輝いている。受賞数は米国に次ぐ第2位だ。コルビュジエは常に自分を厳しく磨き、生きている限り新たな建築を追求した人だったという。泉下にいても、自分の過去の作品が遺産になることより、後輩たちが日々創造する建築を見ることに喜びを感じているかもしれない。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 日本仮設
  • オノデラ
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,487)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,385)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,202)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,095)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (881)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。