コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 338

熊本補正予算

2016年05月13日 09時04分

 ▼先の連休に、用事があって旭川へ行ってきた。札幌市内から旭川まで高速道路に乗ったのだが、途中から満開のエゾヤマザクラが次々と現れ、思わぬ花見を楽しんだ。雨上がりで空気が澄んでいたため、雪を抱いた夕張山系や樺戸山系も格別に美しく見えた。他にも目に付いて仕方なかったものがある。それは高速道路をまたぐこ道橋である。これまで何度も走っていて、気にしたことなどなかったのだが。

 ▼理由は考えるまでもない。発生からもうすぐ1カ月になろうとする熊本地震の影響だ。一連の地震では九州自動車道のこ道橋6本が大きな被害を受け、このうち「府領第一橋」1本は16日の本震で高速道路上に崩落した。だからである。怖いというほどでないが、運転していて目の前にこ道橋が見えるたび不安がぼんやり頭をかすめた。この橋脚は少々きゃしゃ過ぎないか、もしあの高さから橋桁が落ちてきたら…。取り越し苦労だと分かっていても、報道で見た光景が頭を離れない。

 ▼被災したわけでもない北海道の住民にしてこうなのだから、現地に住む方々の心労はいかばかりか。せめて体だけでも大切にと願うばかりである。昼夜別ない地元建設業者らの頑張りはもちろん、全国各地からも多くの技術者が駆け付け、インフラの応急復旧は随分進んだと聞く。ただ、普通の生活を取り戻すのはこれからだ。政府はきょう、復興に向けた総額7780億円の補正予算案を国会に提出する。編成が早いのは何より。被災者に寄り添う血の通った予算執行を期待したい。


味噌蔵

2016年05月12日 09時08分

 ▼「金があれば馬鹿でも旦那」のことわざをそのまま笑い話にしたような落語に「味噌蔵」がある。味噌屋のけち兵衛は金持ちだが飛び切りのけち。物を食べるから女房はいらない、入費が増えるから子どもができたら災難、という徹底ぶりだ。ある日用事で出掛けると、店の者たちはここぞとばかり飲めや歌えの大宴会。店が心配で早く帰ってきたけち兵衛はカンカンである。その上味噌蔵の火事騒ぎまで。

 ▼何せ節約したいがために、使用人の三食を全て薄いみそ汁とごはんのみにしていたというのだから、恨まれても仕方ない。お金に心を奪われていると、いずれ大切なものを失ってしまうということだろう。タックスヘイブン(租税回避地)を利用している企業や個人の名前が書かれた流出名簿「パナマ文書」公表の報に触れ、この噺が思い浮かんだ。21万件のデータのうち、日本に関連するものも400件ほどあったらしい。大手企業やよく耳にする経営者の名も取り沙汰されている。

 ▼もちろん資金洗浄や脱税は別にして、タックスヘイブンの利用そのものが違法というわけではない。ただ行き過ぎた節税は卑劣とのそしりを免れないだろう。自国には薄いみそ汁とごはんしか出さず裏でため込んでいるのだから。経済学者トマ・ピケティもタックスヘイブンの存在を懸念していた一人だ。『21世紀の資本』では所得格差の広がりを実証し、世界が足並みをそろえて資本課税をするよう提唱していた。さてパナマ文書のお歴々の味噌蔵にも、火の手が迫っているのでは。


五月病

2016年05月11日 09時07分

 ▼日常を抜け出し、普段できないことをたっぷり楽しんだ人もいよう。ことしの黄金週間は2日休めば10連休というところも少なくなかったようだ。一転、連休明けから6月にかけて平日に祝日はない。どうにか1日くらい黒い数字が赤に変わらないかと、恨みがましい目でカレンダーを見詰めている人もいそうである。ただの連休ボケならいいが、新入社員や新入生が息切れを感じているとしたら要注意だ。

 ▼いわゆる五月病が始まる時期である。適応障害の一種とされるが、昔からあったらしい。卒業して世の中が怖くなってしまった知り合いに宛てた夏目漱石の書簡が残っている。1906(明治39)年7月のものだ。この中で「もつと大胆になれ」「千万人といへどもわれ行かんといふ気性を養へ」と勧め、「天下は君の考ふる如く恐るべきものにあらず、存外太平なるものなり」と説いている。神経質だった漱石の言葉と思えないが、自分に言い聞かせていたことだったかもしれない。

 ▼症状が深刻なら受診した方がいい。それほどでなければ漱石の助言も聴くべき価値はありそうだ。絵本作家の五味太郎さんが『さらに・大人問題』(講談社)でユーモアに満ちた指摘をしていた。「おもしろくないのに学校に行っている子」は「まずいラーメンなのに食べている子」と同じだというのである。五月病になった本人はひとまず置き、職場や学校の側に「まずいラーメン」を無理やり食べさせる体質はなかったか。本人でなくそちらの側が病んでいる例も実は少なくない。


おせっかい

2016年05月10日 09時35分

 ▼「おせっかい」はいらぬこと、と考える人が今は多いのでないか。かつては近所付き合いの潤滑油として、結構な役目を果たしていた。昭和の名女優沢村貞子の母も、かなりのおせっかい焼きだったそう。随筆集『わたしの茶の間』(光文社)で、母の姿を振り返っている。隣で赤ん坊が泣くのを聞きつけると「何をおいても庭づたいに飛んで行った」。困っている人を見捨てておけないたちだったという。

 ▼おせっかいは時々行き過ぎることもある。ただ助け合って生きていくにはそんな人情も欠かせなかったろう。国際社会も事情は同じなのかどうか。6日に安倍晋三首相とプーチンロシア大統領が首脳会談をした。どうやら安倍首相がお隣のロシアまでおせっかいを焼きに行ったようだ。安倍首相はプーチン大統領に経済協力などを提案したらしい。ロシアは今、ウクライナ侵攻に端を発した西側の経済制裁に苦しんでいる。弱みは見せないものの内心、日本の提案を喜んでいるはずだ。

 ▼孤立を深めるロシアにとって、この時期の安倍首相訪問は渡りに船ではないか。もちろん日本も北方領土問題を前に進めたいとの思惑があってのこと。今回の首脳会談では、「新たな発想に基づくアプローチ」をすることで意見が一致したそうだ。道民として期待感が高まる一言である。外交は言葉一つで劇的に事態が動くことも少なくない。大切なのはお互いの信頼だろう。お隣のために少しおせっかいを焼くくらいでないと、いつまでたっても関係改善など望めないのかもしれぬ。


続く交通事故

2016年05月07日 09時10分

 ▼世界を舞台に活躍する指揮者の小澤征爾さんは若いころ、パリで運転免許証を手に入れたそうだ。『ボクの音楽武者修行』(新潮文庫)に書き留めている。早速運転して演奏会に向かったときのこと。真っすぐ走っているのに、なぜか車が横の草むらに突っ込んでいく。「くたびれた馬じゃあるまいし、草を慕う理由もないはずだ」と思いながら外に出てみると、片方の前輪の空気が半分抜けていたという。

 ▼旅程をある程度自由に組めるドライブは便利なもの。ただ、時に予期せぬ故障や事故に見舞われる。小澤さんは幸い事故に至らなかったが、一つ間違えばという状況ではあったろう。この連休も全国で悲惨な交通事故が相次ぐ。3日に山口県の山陽道でトラックが渋滞の列に追突、4日に福島県の常磐道でバスと乗用車が正面衝突した。どちらも母親と子どもが犠牲になっている。同じ4日には島根県で走行中の車に落石が直撃し女性が亡くなった。想像を絶する出来事に言葉を失う。

 ▼道内でも4日、旭川で乗用車が対向車線に飛び出し、突っ込まれたワゴン車を運転していた女性が亡くなっている。乗用車を運転していた男性の飲酒運転が原因とのこと。いずれの事故も自分や身内が巻き込まれていたとしてもおかしくはない。交通事故の怖さである。連休もあすで終わりだ。ドライブに出掛ける人もいよう。よもやタイヤの空気が抜けているのに気付かぬ人もないだろうが、自分の気は抜けていないか、交通環境に不穏な雰囲気はないか、常に点検だけは怠りなく。


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