コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 339

ホームはどこ

2016年05月03日 09時10分

 ▼英国の昔話で「三びきの子ぶた」といえば、知らない人はいないだろう。子ぶたの3兄弟が幸せに暮らすため、それぞれ自分の家を造る話である。この昔話がいまだ愛されているのは、古今東西を問わず、マイホームを持って幸せにとの願いがあるからか。さて長男はワラ、次男は木の枝で家をこしらえたのだが、オオカミにあっけなく吹き飛ばされ、食べられてしまう。昔話は得てして残酷なものである。

 ▼ここで終わっては身もふたもないが、昔話は最後にしっかり者が登場する。この話も例にたがわず、三男の子ぶたが吹き飛ばされないよう、れんがで家を造り、オオカミを返り討ちにして「めでたしめでたし」。知恵を使って安心のマイホームを手に入れたというわけ。ところで、ホームをどうするのが一番良いのか、頭を悩ませているのは「三びきの子ぶた」だけでないらしい。北海道新幹線の終着となる札幌駅のホームをどこに置くか、そんなこともなかなか決まらないのである。

 ▼国交省から認可を受けていた在来線転用の3案についてJR北海道は先頃、全て「実施は不可能」と表明した。ここにきてワラも木の枝もれんがも吹き飛んでしまったわけ。在来線輸送への影響がその理由という。道や札幌市は現駅直結を前提にまちづくりや観光戦略を進めてきただけに不満を隠さない。駅西側に新設する案も取り沙汰されているが、さて。ともあれ、お互い不信感を募らせていても仕方ないだろう。協力して少しでも早く知恵ある四男の子ぶたを見つけた方がいい。


毒舌家

2016年04月29日 09時30分

 ▼アイルランドの著名な評論家ジョージ・バーナード・ショーはかなりの毒舌家としてよく知られている。1931年、『リバティ』の取材で当時の英国経済について尋ねられた氏は、富の分配の観点からこう答えたそう。「プロの強盗どもにうまい汁を吸わせた後の富を街頭に放り出して、最も腕力のある強欲なハゲワシどもが奪い合うのに任せている」。その通り、と大喝采する庶民の姿が見えるようだ。

 ▼ショーが今も高く評価されているのは、毒舌が正確な社会分析から導き出された警句になっているからだろう。独善的で無責任な放言なら、昨今話題のヘイトスピーチと変わらない。歴史の審判にも耐えられないはずだ。さて、ただのヘイトスピーチなのか優れた警句なのか、よく分からないのが米大統領選共和党指名候補争いで首位を走るドナルド・トランプ氏の発言である。日本から見ていると差別・排他主義者のようだが、26日にあった北東部5州の予備選でも圧勝したという。

 ▼米国民だって愚かでない。支持が広がっているからには米国の抱える問題を鋭く突いているのだろう。ただ西側超大国の指導者に必要な、世界の安定に貢献しようという意志はお持ちなのかどうか。ショーは英国の未来を聞かれると、その問いは時期遅れで「問うべきなのは、人類文明そのもの」がこの難局を切り抜けられるかだと一蹴した。今のところ得意の毒舌で喝采を浴びるトランプ氏だが、それが薬に変わらない限り、毒はいずれ自身や社会の体力を奪ってしまうに違いない。


連休は美術館

2016年04月28日 09時38分

 ▼内閣官房参与として芸術文化政策の立案に関わった経験を持つ劇作家・演出家の平田オリザ氏は、消費不況を乗り越える手段についても一家言あるようだ。『芸術立国論』(集英社新書)に書いている。「モノ」が幸せをもたらしてくれない今、人々が切実に求めているのは「美しい自然環境や人生を豊かにしてくれる芸術作品」だとし、そういった文化を広範に創造することで経済を活性化すべきという。

 ▼なるほどその通りかもしれないと納得したのは、先日行った道立近代美術館の横山大観展が相当なにぎわいだったからである。生々しい話で恐縮だが、これなら芸術が消費を動かす力になるというのも決して大げさでない。さすが近代日本画の巨匠と感心した。今回はきらびやかで豪華なびょうぶ「紅葉」や輝く富士を描いた「神国日本」など、島根県の足立美術館が所蔵する名作50点を公開している。筆者のような門外漢が見ても圧倒されるのだから、愛好家にはたまらないだろう。

 ▼あすから黄金週間である。仕事で忙しい人もいようが、近場の美術館なら何とかなるのでないか。たまには日常を離れ芸術に触れてみるのも悪くない。連休中も函館美術館「フランス近代美術をめぐる旅」、旭川美術館「つかまえる風水森をめぐるイメージ」、帯広美術館「篠山紀信展 写真力」など各地で楽しみな展示がある。家族らと経済活性化に貢献してみるのもまた一興である。


新エンブレム

2016年04月27日 08時47分

 ▼陸軍の軍医でもあった森鴎外は、1884(明治17)年から5年間、衛生学を学ぶためドイツに留学した。当時の経験に想を得た小説を幾つか残しているが『うたかたの記』(90年)もその一つ。主人公が街で出会った花売り娘に心を奪われる話だ。娘の顔を見た瞬間の心の揺れをこう表現している。「濃き藍いろの目には、そこひ知らぬ憂ありて、一たび顧みるときは、人の腸(はらわた)を断たむとす」

 ▼鴎外はドイツ女性の美しい目を読者に伝えるため、日本の伝統色である藍色を採用したのである。小説の出来事に近いことがあったとしても不思議はない。そのとき故国の青く澄んだ海を思い出し、吸い込まれるような気になったのかも。こちらの作品も藍色の目に見えないだろうか。25日にようやく決まった東京五輪・パラリンピックの新エンブレムである。既に発表されていた4候補から選ばれたのは、藍色だけを使って日本らしさを強調したデザインのA案「組市松紋」だった。

 ▼製作したのはデザイナーの野老朝雄氏。五輪とパラリンピック、二つのエンブレムは45個の同じピースで組み立てられているそう。「平等」の意味を込めたらしい。最初は地味に思えたが、眺めているうち、色鮮やかな他案にはない「わびさび」の美しさが見えてきた。白地に藍色はよく映える。日本手拭いにも合うだろう。外国客にも喜ばれるのではないか。五輪の準備は波乱続きだが「藍より青し」の例えもある。このシンボルの下に結集し、大会を期待以上の色に染め抜きたい。


春の一日

2016年04月26日 09時06分

 ▼先の日曜日、春の陽気に誘われ、近所の琴似発寒川沿いの遊歩道と西野緑道を歩いた。函館では同日、五稜郭公園のソメイヨシノが開花したが、散歩しながら眺めると札幌もあと一息のよう。ただ紅梅が幾本かまぶしいくらい鮮やかに咲いていて、目を楽しませてくれた。河川敷からは親子連れや仲間同士でピクニックに興じる歓声が響く。焼肉のおいしそうな香りも漂う。暖かで穏やかな春の一日である。

 ▼同じ春の一日ではあるが、暖かで穏やかどころでなく、熱く激しい場所もあったようだ。衆院の補欠選挙が行われた北海道5区である。自民党が候補擁立を見送った京都と違い、こちらは与党陣営と野党陣営の正面対決。双方が次々と幹部を送り込む総力戦の様相を呈した。当のボクサーより、互いのセコンドやコーチの方がさかんにパンチを繰り出していたようだ。結果、花を咲かせたのは自民党新人の和田義明氏。町村信孝前衆院議長の「弔い合戦」で後継ぎとして面目を保った。

 ▼和田氏にはぜひ新風を期待したいが、さて今回の補選、夏の参院選の前哨戦として通常ならもっと騒がれたはず。そうならなかったのはこの週末、国民の関心が熊本地震の被災者に集まっていたからだろう。余震はなかなかやまず、大雨にも見舞われた。捜索活動は困難を極め、住民の避難に乗じた空き巣や窃盗事件まで発生しているそうだ。被災者らの心労はいかばかりか。少し前まで現地の人も穏やかな春の散歩を楽しめていたろうに。一日も早く、そんな日が戻ってくるといい。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • web企画
  • オノデラ
  • 東宏

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,396)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,289)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,258)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,101)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (920)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。