コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 80

聞き取りづらい

2021年10月12日 09時00分

 昨今は役所や病院をはじめスーパー、コンビニなど、どこへ行ってもすんなり言葉の通じないことが多くなった。公用語が突然ラテン語に変わったわけではない。新型コロナウイルス対策のためのアクリル板や透明ビニールシート、マスクのせいである。うなずく人も多いのでないか

 ▼とにかく相手が何を言っているか分からない。音は聞こえるものの、言葉として耳に届かないのだ。聞き返すこともしばしばである。滑舌の良い人ばかりでない上、大きな声もご法度のご時世だ。何度かやりとりをしてやっと聞き取れたと思ったら、「ポイントカードはお持ちでしたか」だったりして。マニュアル通りの丁寧な接客が思わぬストレスを生むこともある。もどかしい状況でないか

 ▼どうやらそんな意思疎通の難しさを、日々感じている人がたくさんいるようだ。文化庁が先月公表した2020年度『国語に関する世論調査』でも、〈生活の変化とコミュニケーションに関する意識〉として特に一節が設けられていた。それによるとマスクを着けている者同士で会話するときは「声の大きさに気をつける」と答えた人が最も多く、74.1%いたそうだ。「はっきりした発音で話す」の57.5%がそれに続く。「相手の表情や反応に気をつける」「身ぶり手ぶりを多く使う」といった答えもあった。皆苦労しているのである

 ▼今はコロナも下火だが、シートやマスクに囲まれた生活は当分続く。「マスクしてパントマイムの別れかな」坪井つる。情景を想像すると妙に和む。大切なのは文句より工夫ということだろう。


ガソリン高騰

2021年10月08日 09時00分

 小説家で脚本家の平岩弓枝さんは運転免許を持っていないが、車には愛着があるという。運転するのは専らご亭主である。ここ30年ほどは大きさや安全性が気に入り、トヨタ自動車のランドクルーザーに乗っていたそうだ

 ▼娘夫婦と孫の4人も「スープの冷めない範囲に住んで互いに助け合って生活している。家族の団欒にもランクルは大きな役割を果たしてきた」のだとか。エッセー「マイカー三昧」に記していた。そしてこう続ける。「六十年間、私たち家族と生活や喜怒哀楽を共にした車たちは、単なる機械とか乗物というよりはもっと身近かな私たちの体の一部としか思えない」。共感する人もたくさんいるのでないか。日本人と車との関係は深い

 ▼それだけに、この事態に困惑している人は多かろう。ガソリンの価格が高騰しているのである。資源エネルギー庁が6日発表した全国のレギュラーガソリン平均価格(4日時点)は1㍑当たり160円。当方も先日給油に行き、あまりの高さにびっくりした。160円台になるのは2018年10月以来、3年ぶりだという。しかも本道はこれから冬で灯油の需要期に入る。道経済産業局の調べでは、4日時点の全道平均が99・8円。前年の同じ時期より20円ほど高い。懐も寒い冬になりそうだ

 ▼海外の経済活動再開で原油が品薄になったのが原因らしい。コロナが下火になり、そろそろ家族や仲間とお出掛けにというところでこの仕打ちである。一般の人だけでなく物流や産業の関係者にとっても頭の痛い問題だろう。しばらくは車三昧とはいかなそうだ。


ノーベル物理学賞に真鍋淑郎氏

2021年10月07日 09時00分

 一般相対性理論や光電効果など数多くの物理現象を解明した理論物理学者アルバート・アインシュタインを語る上で欠かせない一本の数式がある。質量とエネルギーの関係を示す「E=mc₂」だ

 ▼世界で最も有名な数式とも呼ばれるため、ほとんどの人は目にしたことがあるのでないか。Eがエネルギー、mが質量、cが光速度を指す。物質とエネルギーは等しく、置き換え可能である事実を簡明に記述したものだ。たった5文字に宇宙の全てを集約したのである。複雑な自然現象をこうした簡明な数式で表すのは世界中の科学者の憧れに違いない。5日にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎米プリンストン大上席研究員(90)にもそんな優れた才能をほうふつとさせる逸話があった

 ▼東大大学院気象学研究室で学んでいたとき、先生が出した「大気循環について知るところを記せ」とのレポートの課題に数式を4本だけ書いて提出したそうだ。他の人が文書に図と写真を加え8ページほどを要した課題である。同学の駒林誠氏が『人と技術で語る天気予報史 数値予報を開いた〈金色の鍵〉』(古川武彦、東京大学出版会)で、「大循環を一番先に一番いい方法で解いた」真鍋氏だからこそだと振り返っていた

 ▼1958年に渡米し、60年代後半には早くも二酸化炭素など温暖化ガスが地球規模の気候変動に影響を与えると予測していた。まさしく先駆者。今回の受賞理由は〝地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発〟。氏の生み出した簡明なモデルを武器に今、人類は危機を乗り越えようとしている。


新しもの好き

2021年10月06日 09時00分

 日本人には新しもの好きが多いといわれている。商品でもサービスでも新しいものが出るとすぐに飛びつき、今まで使っていたものにはもう見向きもしない

 ▼例えば車ならメーカーからニューモデルが発表されると、乗り換えたくて仕方がなくなったりする。実は基本性能や機能は従来のモデルと大して変わってもいないのだが、華やかな見た目と宣伝文句で新しさをアピールされると、簡単に心を動かされてしまう。政治学者の京極純一氏は『日本人と政治』(東京大学出版会)で新しもの好きの理由を、明治維新や太平洋戦争敗戦といった価値観の一大転換を乗り越えねばならなかった国民的事情の中に見つけていた。文明開化や民主主義など新しいものは素晴らしいという見方が、人々に根付いていったらしい

 ▼新しいものへの傾倒はまず政治方面から始まったのである。首相交代劇にこれだけ注目が集まるのもむべなるかな。自民党の岸田文雄氏がおととい、第100代首相に指名され、新内閣が発足した。一連の交代劇のさなかに行われた各種世論調査で自民党の支持率が軒並み上昇に転じたのも、新しいものへの期待が高まったからだろう。これを好機と岸田首相も一気に勝負を懸けてきた。衆院選の日程を予想より1週間ほど早い19日公示、31日投開票としたのである

 ▼ニューモデルとして発表した内閣の性能も機能も未知数のまま、新しさだけで買ってもらおうというのだ。宣伝文句通りならいいが、時に選挙は車より高くつく。野党のモデルとの違いも見極めながら、慎重に投票先を考えたい。


本道で赤潮発生

2021年10月05日 07時00分

 本道はきょう、一転して肌寒い気温になったものの、きのうは妙に暖かかった。イソップ寓話(ぐうわ)の「北風と太陽」よろしく、外を歩いていて思わず上着を脱がされた人も多かったのでないか

 ▼もう10月に入っているというのに、最高気温が札幌と帯広で27度、北斗で28度とまるで真夏のような気温。全くどうかしている。そういえばことしは、札幌で観測史上最長の連続18日間真夏日を記録した年でもあった。地球温暖化が進むと、気候の寒暖差が極端になるといわれている。影響が目に見える形で表れ始めているのかもしれない。この出来事も無関係ではないのだろう。主に襟裳以東の太平洋沿岸海域でサケやウニなどの大量死が相次いでいるのだ。原因は赤潮である

 ▼洗剤や肥料などの有機物が海に流入し、富栄養化して発生する赤潮は本道でも過去に例があった。ところが今回は、普段温暖な西日本の海にいるはずの「カレニア・ミキモトイ」という植物プランクトンが引き起こしたとみられている。道などのまとめによるとサケは全体で少なくとも8000匹以上、ウニは釧路や厚岸で80%を超える被害が出ているのだとか。売り上げの中心となる水産物だけに、直撃を受けた漁協の損害額はかなり大きなものになろう

 ▼カレニア・ミキモトイ自体は昔から対馬暖流に乗って日本海を北上してきていた。これまでは本道に到達しても低い海水温に耐えられず死滅していたが、近年は海水温の上昇で生息できる環境が整いつつあるようだ。この暖かさが招かざる客の居心地まで良くしているらしい。


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