コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 82

みずほ銀行が金融庁管理に

2021年09月24日 09時00分

 米人気ポップ歌手ブリトニー・スピアーズさんが2008年から13年もの間、成年後見制度で実父に生活を管理されていたニュースには驚かされた。ブリトニーさんは現在39歳である

 ▼違法な薬物の乱用、破天荒な生活、暴力行為など精神的に不安定で危険な状態にあることがその理由らしい。本人が6月に法廷で、ほとんどの自由を奪われているとして実父の後見人解任を訴え、広く世間に知られるところとなった。一挙手一投足を監視され、好きなこともできないとなれば絡みつく縄を振りほどきたくもなろう。それぞれに言い分はあるようだが、ブリトニーさんの身から出たさびであることは間違いなさそうだ

 ▼システム障害が相次ぐみずほ銀行と持ち株会社のみずほフィナンシャルグループに対し、金融庁が異例の直接管理に乗り出すと聞き、ブリトニーさんの騒動を思い出した。こちらもあまりに不安定で危険な状態が続くため、いわば後見的な制度を適用することにしたのだろう。情けない話でないか。民間銀行は信用が第一。1年に何度もトラブルを繰り返すなど前代未聞である。ATMの不具合からインターネットバンキングの障害、果ては店舗窓口の取引停止まで。もう三度を超えたから顧客も仏の顔はしていまい▼金融庁もみずほを一人前とは認めないと断じたわけだ。放っておけば金融市場に悪影響を及ぼすのだから当然である。民間銀行が当局に首根っこをつかまれ、あれこれ指図されるのは屈辱に違いない。これも身から出たさび。後見人の下でしっかり信頼回復に努めてもらいたい。


米価減額ショック

2021年09月22日 09時00分

 小説家の浅田次郎さんには53年間通い詰めた食堂があるという。神田神保町すずらん通りのその〈キッチン南海〉がコロナ禍真っただ中の昨年、閉店した。浅田さんは「おのれの人生の一部分が、消えてなくなるような気がした」そうだ。エッセーに記していた

 ▼出会いは15歳の夏。すきっ腹を抱え、金もなく通りをぶらぶらしていたとき、手持ちの金でぎりぎりライスカレーが食べられる〈南海〉を見つけたらしい。有名作家になり、収入が増えても足繁く通い続けた。頼むのは決まってカツカレーだ。会話はない。黙々と食べ、「ごちそうさま」とだけ言って店を出る。そんな人生の一部が永遠に失われた。似たような経験をしている人も多いのでないか

 ▼閉店までいかなくとも、外食産業はコロナ禍で苦境に立たされている。さらにそのあおりを食っているのが米農家だ。相次ぐ緊急事態宣言による外食需要の低迷で在庫が積み上がり、全国的に米価の下落が続いているのである。北海道産米も例外ではない。JAなどが生産者に支払う仮渡し金が2021年産米も減額になるという。2年連続だが、減額幅はことしの方が大きいようだ。経費は変わらないのに収入は減っていく。このままでは窮地に陥る農家も出よう。本道はじめ新潟、秋田といった一大産地ほど影響は深刻である

 ▼浅田さんは食べ終えてスプーンを置き「ごちそうさま」を言う。その言葉の意味は「天の恵みにごちそうさま」だそうだ。外食産業は天の恵みと人をつないでいる。いつまでも断ち切ったままにしておくわけにはいかない。


本道男性の家事・育児力

2021年09月21日 09時00分

 北海道の女性は強く、自立しているとの評判をよく聞く。比べたことはないが、道産子男性の一人としても特に異論はない。未婚率や喫煙率が47都道府県中、常に上位にいるのもそれと無縁ではなかろう

 ▼『札幌学』(岩中祥史、新潮文庫)はその辺りの事情を、「歴史の浅い北海道は、本土と違い『男性優位』という考え方がほとんど根づいていない」と解説する。男女の区別なく働いてきた開拓時代の名残である。男性から三歩下がっておとなしくしていては厳しい自然を克服することなどできなかったのだろう。「周囲の評判や過去の前例にとらわれない柔軟さ」を持ち、「思ったことをどんどん口にする」のも当たり前というわけ
 
 ▼そんな本道特有の男女の力関係も影響しているのでないか。積水ハウスが先週発表した「男性育休白書2021」で、本道男性の〈家事・育児力〉は47都道府県中41位と判定されたのである。幾つかの指標を使って順位を決めるのだが、特に女性からの評価が著しく低かった。男性が家事・育児に〈幸せを感じているか〉を自己評価する指標では本道も19位と好位置に付けている。一方で女性が評価を決める男性の〈実践数〉では41位、〈時間〉でも39位と及第点にはほど遠い

 ▼夫は頑張っているものの、妻の基準には達していないようだ。ちなみに上位3県は上から沖縄、鳥取、奈良。本道と沖縄は気質が似ているとされるが、家事・育児に関しては対極らしい。本道の女性は子育ても他の人に頼らずバリバリとこなすがゆえに、だめな男性をつくっているのかもしれぬ。


婚姻件数大幅減

2021年09月17日 09時00分

 新型コロナウイルスは一体いつまでのさばるのかと、ほとほと嫌気がさしている人も多いのでないか。終わったらあれをしたい、これもしたいと思い描いている人も少なくあるまい

 ▼詩人の小池昌代さんは、この事態が収束したときの象徴的な風景として「ヒトとヒトとの抱擁」を挙げていた。エッセー「抱擁」に記している。感染拡大を防ぐため人と人との間に不自然な距離を置かねばならないことへの反動だろう。そんな無粋な距離が男女の出会いにも影響しているに違いない。気になる統計を目にした。10日に公開された国の人口動態調査によると、2020年の婚姻件数(確定値)が前年比12.3%減の52万件にとどまったというのである

 ▼地域別でも北海道10.7%減、東京14.1%減、福岡11.8%減など軒並み1割以上落ち込んだ。婚姻件数は近年少しずつ減る傾向にはあったものの、それでも年2―3%程度。単なる延期もあるが、知り合う機会の喪失や先行き不安での諦めも多々あるとみられる。ウイルスは体だけでなく、社会にも深刻な害を与えているようだ。出生数の鈍化に加え結婚も減るとなると日本の未来は暗い。行動制限緩和の話をかたくなに避ける専門家もいるが、早めに検討に入らねば将来世代に禍根を残そう

 ▼小池さんはエッセーで想像を膨らませる。「向こうから、わーっと大きく手を広げながらやって来るヒト。迎え入れるヒト。背中に回された手。肩の上からのぞく顔。一対の人々」。そんな真っ直ぐで温かな感情表現が、何の心配もなくできる日が早く訪れるといい。


45歳定年制

2021年09月16日 09時00分

 普段はぼんやりと生きている人間が追い込まれることでやっと本気を出す。そんな展開が物語にはよくある。カンフー映画界のスター、ジャッキー・チェンの初期の作品などはその典型だろう

 ▼1979年日本公開の『スネーキーモンキー 蛇拳』をご記憶の人も多いのでないか。拳法道場で下働きをさせられているジャッキーが、他流派から一門つぶしの攻撃を受けることで自分の真の実力に目覚めていく話だった。英米には「臆病者を奮起させると悪魔とだって戦える」、日本にも「窮鼠猫を噛む」のことわざがある。洋の東西を問わず、崖っぷちに立たされると人間は眠っていた実力を出せるとの期待があるようだ。ただ、それは幻想に近い。ほとんどの人間は追い込まれるとつぶれてしまうのが現実である

 ▼新浪剛史サントリーホールディングス社長が提言した「45歳定年制」が波紋を広げている。定年を45歳に早めれば、危機感を抱いた社員が若いころからもっと頑張るようになるとの思惑があるらしい。発言は経済同友会が9日に開いた夏季セミナーで飛び出した。46歳からは自らの才覚で生きなさいというわけだ。社員の奮起を促すと言えば聞こえはいいが、体のいい脅しにほかならない

 ▼新浪社長のようないわゆる「プロ経営者」は大胆にリストラをして見かけ上の利益を出し、功ありと評価される例が多い。確かにそれで株価は上がるものの、社会的信用まで得られるのかどうか。新浪氏は翌日釈明したが社員を物や数字で見ている点は変わらない。「窮鼠」だって時には別のものをかむかも。


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