コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 81

値上げ

2021年10月04日 09時00分

 朝食はパンかご飯か。時折話題に上るテーマである。ご飯なら焼き鮭か卵焼きに納豆、みそ汁、パンならバターかマーガリン、ジャムにハムエッグ、コーヒーといったところだろう

 ▼農林中央金庫の〈昭和世代と平成世代の「食」習慣〉に関する2019年の調査では、普段の朝食にどのような物を食べているかとの問いに72.4%がパン、58.7%がご飯と答えたそうだ(複数回答)。特に20代女性にパン派が多い。今や大きな勢力を持つそんなパン派にとっては、いささか腹立たしい変化でないか。この10月から小麦やマーガリン、コーヒーなどパンには欠かせない食品類が相次いで値上げされたのである

 ▼佐藤りえさんのこんな短歌を思い出した。「一人でも生きられるけどトーストにおそろしいほど塗るマーガリン」。今まで通りマーガリンに寂しさをぶつけていては、お金がどんどんかさむことになる。いち早くコロナ禍を脱した海外の国々で経済が持ち直し、需要がにわかに高まっているためだという。マーガリンは原料となる大豆や菜種など油脂類が中国で、コーヒーは外出制限が緩和された欧米で品薄となり、価格が高騰しているそうだ。9割を輸入に頼る小麦は主産地の米国やカナダでの不作が響き、「政府売り渡し価格」が19%も引き上げられるのだとか。出るのはため息ばかりなりである

 ▼それぞれ事情があるのだから上がるのは仕方ない。ならば食後の一服くらいはいつものように楽しみたいという人もいよう。おあいにくさま。紙巻きたばこも1箱当たり20円の増税である。世知辛い。


自民党総裁選

2021年10月01日 09時00分

 ハードボイルド小説作家として名高い大沢在昌さんは、面白い作品を書くには強いキャラクターとプロット(構想)が大切だという。『小説講座 売れる作家の全技術』(角川書店)に記していた

 ▼まず読者が感情移入できる個性的な主人公を作り上げ、同時に強烈な印象を与える敵役と魅力あるヒロインも用意する。次にプロットだが、「読者にどんな楽しみを提供するのか」を意識することが何よりも重要らしい。その楽しみを象徴するのが「変化を読ませる」こと。〝この物語はこれから一体どうなるんだろう〟と「ハラハラドキドキ」させられたら成功だそう。こちらのプロットも相当才ある人が考えたのでないか。かなり多くの人の心をつかんだようだ。自民党総裁選のことである

 ▼とにかく4人の候補のキャラクターがよかった。菅政権で実行力を見せつけた若干あくの強い河野太郎氏、保守本流を体現する姿に勢いのあった高市早苗氏、未来を担う子どもに目を向ける身近な政治を説いた野田聖子氏。それと総裁の座を勝ち取った岸田文雄氏である。岸田氏は一見地味で押し出しも弱いが、他の候補と並ぶと安定感が際立っていた。男女2人ずつで皆党改革を訴え、自由に政策論議をさせたのも「変化を読ませる」演出に違いない

 ▼野党はじだんだを踏んだろう。菅政権は追い込んだものの、世間の注目をほとんど奪われた。とはいえ誰が作ったのであれプロットの効果もここまで。これからは岸田氏自身の力量が試される。どんな物語を書くにせよ、国民を意識することだけは忘れてほしくない。


横綱白鵬引退

2021年09月29日 09時00分

 中国の故事に「木鶏(もっけい)の話」がある。聞き覚えのある人も多いのでないか。紀元前9世紀、周王朝時代の逸話である。ざっとこんな内容だった

 ▼闘鶏の名人が王に頼まれ鶏の訓練を始める。10日後に王が様子を尋ねると、名人は「空威張りしていけません」。また10日して聞くと、「敵を見ると興奮してだめです」。さらに10日、「強くなったが相手を見下すところが良くない」。王は辛抱強く待ち続けた。もう10日たち王が問うと、名人からようやく合格のお墨付きを得た。いわく「敵の姿を見ても声を聞いても動じません。まるで木彫りの鶏。この風格を前に、敵は戦いを挑むことさえできないでしょう」

 ▼この「木鶏」を心のよりどころにして精進に精進を重ねてきたのが、おととい日本相撲協会に現役引退を申し出た横綱白鵬(宮城野部屋)である。「いつか〝木鶏たりえる〟ことを目指して」と『勝ち抜く力』(悟空出版)に記していた。強さだけでなく、相撲道を極めようとした力士だろう。横綱昇進は2007年。在位は歴代最多の84場所だ。ことし7月、6場所連続休場明けの名古屋場所で全勝し、優勝を45回に伸ばした。こちらも歴代1位である

 ▼東日本大震災の後は物資の支援や被災地への慰問の先頭に立ち、国内外の子どもを招く「白鵬杯」では後進を育てる取り組みに力を入れた。品位がないと批判する声もあるが、至らぬ部分だけを拡大しすぎてはいなかったか。目指してたどり着いた先は血の通わぬ木鶏ではなかったろう。むしろ人間味あふれる姿にファンは魅了された。


そばにいてくれるだけでいい

2021年09月28日 09時00分

 子どものころ聞いた歌なのに今でもよく覚えているのは、低音の甘い歌声と印象的な始まりの一節のせいだろうか。往年の名歌手フランク永井さんの『おまえに』(岩谷時子作詞、吉田正作曲)のことである

 ▼歌い出しはこうだった。「そばにいてくれる だけでいい 黙っていても いいんだよ 僕のほころび ぬえるのは おなじ心の 傷を持つ おまえのほかに だれもない そばにいてくれる だけでいい」。交わす言葉は多くなくとも、そばに寄り添ってくれる人がいるだけで生きることはずいぶん楽になるとの実感が伝わる。どんな時代、世界でも変わらぬ真理だが、そんな人と人との温かな交流を阻んだのが新型コロナウイルスだった

 ▼結果はご存じの通りだ。感染による重症や死亡も深刻だが、自殺の増加も著しい。警察庁の今月のまとめで、ことし8月までに自殺者が1万4207人に達した事実が明らかになった。10年続いた減少基調が崩れ、増加に転じた前年をさらに6.2%上回っている。やはり前年同様、女性の自殺が目立つ。特に第4波が広がりだした4月は前年同月比36.3%増。加えて子どもや若者の間で増えているのも特徴だ

 ▼「感染での医療崩壊は騒がれ対策もされるのに、心を病んだ人は見過ごされ、ずっと〝医療崩壊〟状態だ」。おとといの『Mr.サンデー』(フジテレビ)で、大空幸星NPO法人〈あなたのいばしょ〉理事長が言ったそんな言葉に胸を突かれた。「そばにいてくれる だけでいい」。かの歌のように頼れる人が当たり前にいる社会に早く戻さねば。


台湾と中国がTPPに参加申請

2021年09月27日 09時00分

 優れた発想はあっても製品化する力の弱い中小零細企業と、そのアイデアだけ手に入れようと暗躍する傲慢(ごうまん)な大企業との戦いを池井戸潤さんは好んで小説のテーマに据える。『陸王』(集英社)もそうだった

 ▼老舗だが零細の足袋製造会社「こはぜ屋」が、裸足感覚で走れる最先端ランニングシューズの開発に乗り出す話である。小回りの良さを生かして試作を重ね、斬新な原型品を作り上げるのだが―。うわさを聞きつけた世界的スポーツメーカーが横やりを入れてくるのである。最初はこはぜ屋をひねりつぶそうと、それが無理と分かると今度はアイデアだけ奪おうとした。読者が応援するのは当然、頑張っているこはぜ屋である

 ▼環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を巡る台湾と中国のつばぜり合いも、やはり台湾に肩入れしてしまう人が多いのでないか。小さいながら自由経済と民主主義を信奉する台湾と、統制経済と大国の論理を掲げて横暴に振る舞う中国とを同列には並べられない。中国は世界経済に貢献したいというが、実は米国に対抗するためアジア太平洋地域で主導権を握りたいだけだろう。巨大な経済力を武器にTPPルールを中国寄りに変えてしまおうとの意図もうかがえる。「羊の皮をかぶった狼」だ

 ▼台湾の加盟は他国の脅威にならず、自国の生きる道をも広げる。案の定、中国は台湾の参加には猛反発。先の小説で銀行の担当者はこはぜ屋の社長にこう助言する。「最初から可能性を狭めて考えないほうがいいですよ」。小さい者には往々にして一発逆転がある。


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