コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 90

冷たい麺

2021年07月19日 09時00分

 日本人が麺類大好き民族であることに異論を差し挟む人はいないだろう。ラーメンからそば、うどん、そうめん、スパゲティまでこれほど多くの種類の麺をいつでも気軽に食べられる国は他にない

 ▼作家でエッセイストの椎名誠さんは、『麺と日本人』(角川文庫)でその理由の一つをこう考察していた。「その食べ方と食べる習慣、食べる技術によるものが大きいと思う」。要は〝すする〟という動作のことである。欧米人はすする動作ができず、その上、無作法で下品な行為と考えているそうだ。気の毒な話でないか。やはりずるずると勢いよくすすり上げてこそうまいのである。麺類に関してはもう一つ、それぞれに温と冷があるのも日本の食文化の豊かさを証明していよう

 ▼「冷やし中華はじめました」(AMEMIYA)というコミックソングもあったが、最近はラーメンをはじめそばやそうめんも冷たい方を食べる機会がめっきり増えた。体とは何と正直なものか。気づけば本道もすっかり真夏である。各地の気温が30度を超える日も少なくない。札幌管区気象台が発表した17日からの1カ月予報によると、全般に気温は平年より高めに推移するそうだ。特に30日までは晴れる日も多く、厳しい暑さが続くらしい

 ▼朝晩も気温が下がらないため寝不足で体力が落ち、熱中症に陥る心配もある。まずはしっかり食べることを心掛けたい。「冷麦の窪む氷を置きにけり」今瀬剛一。冷たい麺を冷たい汁につけてずずっと。栄養の付く副菜も添えて。暑さにやられてもこれなら喉を通る。日本人で良かった。


ながらスマホで事故

2021年07月16日 09時00分

 先週木曜日の午後7時半頃、東京都板橋区の東武東上線踏切で31歳の女性が電車にはねられ死亡する事故があった。女性は線路の上に黙って立っていたそうだ。どうしてそんな危険な所にいたのか

 ▼警視庁が事故と自殺の両面で捜査を進めると、意外な事実が浮かび上がってきた。事故を招いたのは、いわゆる〝ながらスマホ〟だったというのである。女性は自分から見て、出口側の遮断機の内側手前で止まっていた。警報音が鳴った時もスマホを見ていたため既に踏切内にいることに気づかず、そのまま歩き続けて入り口側遮断機の手前で止まったと思い込んだらしい。そんなばかな話が、ともいえないようだ

 ▼『スマホ脳』(新潮新書)によると「脳には切替時間が必要」で、「集中する先を切り替えた後、再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかる」そう。つまり一瞬でもスマホに集中すると、自分では周りの状況に注意を移したと思っても、心はしばしスマホに残ったままなのである。実際、他のことをしながらでも、少しならスマホを見ても大丈夫と考える人は多いのでないか。何かあればすぐに対処できるさ、と。ただ、それは時と場合による

 ▼例えば〝ながら運転〟は違法だが、車や自転車の運転中、一瞬ならとスマホを注視する人がいまだにいる。ところが脳の仕組み上、以後数分は外部の新たな刺激に反応できない可能性があるのだ。これはかなり怖い。踏切事故のときも他の通行人はほとんどスマホを眺めていて、誰も声を上げなかったのだとか。現代のホラーだろう。


腐食の原因

2021年07月15日 09時00分

 昭和の脱獄王と呼ばれた実在の人物の一生を描いた吉村昭の『破獄』(新潮文庫)に、日本有数の監視態勢を誇る網走刑務所の独房を破った驚くべき手口が記されている

 ▼無期刑囚佐久間清太郎は、鍛冶工場で特別に作られた「絶対にはずせぬ」鋼鉄の手錠を常時はめられていた。堅固な房の中で佐久間はどんな策を練ったのか。食事に付くみそ汁を毎日少しずつ手錠と視察窓の金具にたらして腐食を早めたのである。その間、1年もかかっていない。サビが進み、緩くなったとみると一気に手錠も窓も壊し、看守の隙を突いて逃げ出したのだった。佐久間の悪知恵もさることながら、塩分の腐食力もなかなかあなどれない

 ▼それを再認識させられる出来事が最近もあった。ことし2月に三重県鈴鹿市の交差点で信号機の鉄柱が根元から折れた事故を調べていた三重県警察本部が先日、原因は〝犬の尿〟だとする調査結果をまとめたのである。犬の尿に含まれている塩分などが腐食を加速させた可能性が高いそうだ。柱の耐用年数は50年なのに、23年で倒れたため不審に思い検証したという。すると柱から他の所の8倍、地面からは42倍の尿素が出た。仁義なき犬の縄張り争いを象徴する柱だったらしい

 ▼実はこの犬の尿による腐食、以前から道路インフラ関係者には知られていた。通行人が倒れた柱に当たりけがをした事例もある。小まめな点検が理想だが、何せ数が多い。飼い主に協力を、といっても犬の散歩には柱がつきもの。看守のように常に誰かが監視しているわけにもいかない。頭の痛い問題である。


太陽光発電コスト

2021年07月14日 09時00分

 米国で綿花産業が一大躍進を遂げた経緯は、先住民の土地収奪と黒人の奴隷労働を抜きに語れない。1850年代には、アフリカなどから強制的に連れてこられた黒人約320万人が働いていたとされる

 ▼特に南部で顕著だった。先住民をだましたり強制的に追い出したりして大規模プランテーション(農場)を開き、そこで黒人を牛馬のようにこき使ったのである。安価な綿の輸入で英国の織物産業は大いに潤った。昔の話だからと歴史に閉じ込めてしまうわけにいかない。同じ構造の生産方式を持つ国が今もあるからである。危惧されている製品の一つが太陽光発電パネル。米通信社ブルームバーグによると、主要部品ポリシリコンの世界シェアのほぼ半分を中国新疆ウイグル自治区の工場で占めるという

 ▼ウイグルについては国連人権理事会がことし3月、「中国が強制収容や奴隷労働を行っている」と懸念を表明していた。米国は人権侵害を重く見て、綿に続き太陽光パネルも輸入禁止品目に追加している。それが気になったのは経済産業省が12日、2030年時点の電源別発電コスト試算を発表したとの報に触れたからだ。大規模太陽光が原子力を逆転し、初めて最安になったというのである

 ▼常時発電可能な電源と気象に左右される電源を単純比較するのもどうかと思うが、何より強制労働が安価の背景にあるとされる太陽光パネルを使って最安と評価するのがふに落ちない。パネルの8割は中国などからの輸入だ。日本のエネルギーがウイグル族の血と涙で作られるのを喜ぶ人はいないのでないか。


西村経済再生相の暴走

2021年07月13日 09時00分

 最先端の小型エンジン技術を持つ下町の中小企業佃製作所の挑戦を描いたTBSドラマ『下町ロケット』(池井戸潤原作)のGPS農機編を見ていた人はご存じだろう。大手の帝国重工が競合するベンチャー企業に協力する下請け企業数十社に圧力をかけ、相手の事業を妨害する回があった

 ▼帝国とも取引がある下請けをベンチャーと付き合うなら今後一切発注はしないと脅したのである。下請けは一斉に手を引いた。その結果、ベンチャーの製品は生産停止に追い込まれる。自分の手は汚したくないが目的は果たしたい。そのため裏から手を回したり、からめ手から攻めたり。昔から実際によく使われてきた手ではある。まさかそれを国が、コロナ禍で最も苦しんでいる業界に仕掛けるとは思わなかった

 ▼西村経済再生担当相が8日、酒類提供を続ける飲食店が休業要請に応じない場合、融資元の金融機関が働き掛けを行うよう要請したのである。ただの思いつきでなく、金融庁に文書まで用意させていたらしい。発表と同時に多くの人が激しく反発した。菅首相も「承知してない」と政府内の混乱を露呈。要請は翌日に撤回された。西村氏はツイッターで「感染拡大を抑えたい強い気持ちが伝わらなかった」と弁解したが、謝罪はなし

 ▼法的な裏付けもない政策目標を達成するのに、金融機関に圧力をかけるよう無理強いする卑劣なやり口に国民はあぜんとしているのだが―。それが横暴との自覚もないようだ。先のドラマで世間に下請け工作が知られた帝国重工は一気に信用を失った。西村氏も同じだろう。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • オノデラ
  • 日本仮設
  • 川崎建設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,478)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,303)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,188)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,088)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (839)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。