最近、「座りすぎ」が問題であると認識されるようになりました。デスクワーク、車の運転、電車の中、家での団らんなど、座っている時間は思いのほか多いものです。ある調査によると、日本人が一日で座っている時間は合計7時間ぐらいで、世界で一番長く座っている国民なんだそうです。そして、一日8時間ぐらい座っている人は、がん、糖尿病、高血圧などを発症する危険性が、一日4時間ぐらい座っている人に比べて高いことが分かったのです。座りすぎは危険なのです。
座るということは、体に負担をかけない行為だと信じられてきました。何か仕事をしていて、一息つくときは椅子に座るものです。実際、座っている間は足の筋肉はまったく活動を停止していて、休んだ状態になっています。
でも、この筋肉を全く使っていない状態が、逆に、体に悪影響を与えているのです。10年くらい前から問題視されているエコノミークラス症候群もその一つです。同じ姿勢で長い時間足を動かさないでいると、足の静脈で血液がよどんで血栓ができ、それが肺に詰まって、胸痛や呼吸困難、死の危険性が生じるものです。
座りすぎると、必ずエコノミークラス症候群になるわけではありませんが、危険性はあります。さらに、足の筋肉が活動停止していると、その分、エネルギーを消費しないことになるので、肥満の傾向が強くなり、生活習慣病が起こりやすくなると推測できます。
さらに日々の運動習慣が、脳の活動を活性化させることが分かっていますので、座りすぎは必然的に脳への悪影響を及ぼすと考えられます。実際、座りすぎでは脳の活動が低下傾向になる、すなわち「ぼーっ」となりやすいという研究結果も出ています。
座りすぎは良くないとしても、仕事の時間を減らすわけにもいきません。そこで、対策としては、30分に1回の割合で、トイレやお茶などで席を立つように心がけることです。喫煙自体は勧められませんが、喫煙の時、立ったままでいるというのも一つの方策です。
立っているだけで、足の筋肉はかなり使うことになるからです。欧米ではやりだしているのは、立ったまま仕事をすることです。書類もパソコンも立ったまま。これが意外と仕事の効率も高まるのだそうです。そういえば、欧米のバーは椅子がありませんね。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)