社会人には運動不足の人が多いと指摘されてから、相当な年月がたちます。運動不足は肥満につながり、生活習慣病を発症して、生活の質が極めて低下すると考えられています。それならば、病気の予防のために運動を始める人が増えそうな気もするのですが、日常に運動を行う習慣を持っている人の割合はなかなか増えません。運動不足を指摘されている人が運動をしない理由が明らかになっています。「仕事が忙しい」「運動すると痛む部分がある」「運動が苦手」「何をすればいいのか分からない」―の4つです。運動に対する心理的なハードルは意外と高そうです。
そもそも運動不足とはどういう状態のことを言うのでしょうか。運動という言葉は、一般には体育、体操、スポーツで体を動かすこと、という意味で使われています。一方、体の仕組みを研究する生理学においては、体を動かすこと自体を運動といいます。つまり、運動不足というのは、単純に「体を動かしていない」「体を動かす量が足りない」という意味なのです。
体を動かさなければ、消費するエネルギー量が減ります。食事で摂取するエネルギー量が変わらなければ、余ったエネルギーは脂肪となり体に蓄積して肥満となります。運動不足の指摘は、エネルギーが余っていますという意味なのです。
余っているなら、食事の量を減らす方法もあります。しかし、これは我慢を意味しますので苦痛を伴います。そこで、消費を増やす方がいいという考え方が成り立ちます。運動不足を指摘して、より体を動かすようにしようというわけです。
運動というと体育の授業、部活動、スポーツなどを連想して、まとまった時間を使って特定の種目を行うと思いがちです。先に挙げた運動をしない理由の3つまでは、この連想が邪魔しているようです。だとすれば、「なるべく階段を使う」「自家用車の使用は最低限」「5分程度のラジオ体操」「自転車通勤」などは、十分に運動をしていることになります。考え方を変えれば違う世界が開けるようになるでしょう。
また、腰痛やひざの痛みには、運動不足に起因しているものも多いので、少し運動を始めれば、かえって痛くなくなるかもしれません。さらに運動を継続すると気分が持ち上がって前向きになることも、すでに多くの研究で示されています。ほんの少しでいいので体を動かしてみませんか?
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)