長い会議で、ずっと一緒に話し合っていた同僚が突然、「ちょっとすみません」と言って目の前から姿を消します。トイレかなと思っていると、なかなか帰ってきません。ようやく戻ってくると、その雰囲気でピンときて、「タバコ?」とたずねると、ばつが悪そうにうなずきます。なんで私が気付いたのかというと、非喫煙者である私は、タバコの臭いに敏感だからなのです。会議中なのに、喫煙したい衝動が急に湧いてくるらしく、そわそわしていました。衝動を抑えられないのですから、もう立派な依存症です。
喫煙が習慣になり、依存症といえるほど、タバコなしでいられなくなるのは、タバコに含まれているニコチンのせいだとされています。タバコを1本吸うとニコチンは速やかに吸収され、脳に到達します。そして、ニコチンがさまざまな神経細胞を活性化し、脳活動が活発化します。これが爽快感や前向きな気持ちを作ります。
しかし、喫煙が習慣化すると、今度はニコチンがなければ、脳の活動が低下して、イライラ、そわそわして、集中力が失われます。ニコチンを摂取して初めて脳の活動が元に戻るということになってしまいます。
1本のタバコで摂取されたニコチンは、30分程度で消失すると報告されているので、長い会議だとニコチン切れとなり、脳の活動が低下して、いろいろな禁断症状が現れることになるのです。
喫煙習慣とは、周りから影響を受けて喫煙を開始し、ニコチンによる爽快感などにより、喫煙を続けることです。しかし、喫煙を続けるうちに、ニコチンがなければ脳の活動が低下してしまう状態となり、禁断症状が現れます。そこで症状から逃れるために喫煙をやめることができなくなると説明されています。タバコなしでは普通に生活できないとなれば、立派な依存症です。
長年の喫煙習慣は、肺がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がんなどのさまざまながんを引き起こし、動脈硬化を進めるので、虚血性心疾患、脳卒中の発症リスクが飛躍的に高くなります。そして、タバコの煙は肺の細胞に慢性的な炎症を引き起こし、これが収まらないため、肺の組織が次第に破壊され、呼吸が困難になってきます。
これを慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼びます。喫煙を続けても、運よくがんや脳卒中、虚血性心疾患にならない人もいますが、COPDは必発です。禁煙外来で病気としての治療をお勧めします。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)