今年の夏は、すでに気温が高い状態が続いていて、熱中症の多発が心配されています。熱中症といえば、めまい、頭痛、立ちくらみが主な症状で、激しい発汗、強いのどの渇きなども、よく知られた症状です。
しかし、これらの症状がほとんどではなくて、体のだるさや頭痛と体温上昇のみが出ているという場合もあります。この場合、発汗やのどの乾きが少ないため、熱中症と気が付かない危険性もあります。いや、むしろ夏風邪(ヘルパンギーナ)や、RSウイルス感染症、そして依然として流行している新型コロナ感染症の可能性があるのです。
熱中症もウイルス感染症も体温が上昇します。通常、体温上昇というのは、37・5度以上になった場合を指します。熱中症で体温が上昇するのは、高温や多湿により体からの放熱がうまくいかなくなり、熱が体内にたまってしまい、体温が上昇するためです。これを医学上では「うつ熱」といいます。「熱がこもっている」という意味です。
一方、ウイルスを代表とする病原体による感染症での体温上昇は仕組みが異なります。この場合は、病原体に対抗するために発動する免疫反応に伴い、脳中の体温調節中枢が変調して、体温を一定に保つ目標値が高くなってしまう現象です。
目標値に合わせるためこれまで以上に体で熱を作り出し、体温を上げるので、「発熱」と呼ばれます。一般の方々は、発熱を体温上昇と同一視してしまいがちですが、本当は区別しなければなりません。
現在、北海道では、夏風邪と呼ばれるヘルパンギーナと、本来冬に流行(はや)るRSウイルスがまん延しています。基本的に乳幼児の感染症ですが、一部、親御さんに流行しています。さらに、新型コロナウイルスはオミクロン株のXBB変異種が流行し続けています。
この先、ノロウイルスによる感染性胃腸炎、細菌性食中毒が増えることが予想され、これらも発熱が起こることがあります。これに加え、熱中症のうつ熱による体温上昇を訴える患者さんが増えることが予想されます。
発熱とうつ熱を見分けるのは、医師でないと難しいと思われます。したがって、体調不良を感じたら、とりあえず体温を測ってみて、体温上昇があった場合、すぐに病院に連絡していただくのが肝要と思います。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)