卵は殻に覆われています。その殻は外側の硬い部分と、その内側に張り付いている柔らかい薄皮の部分に分かれています。この殻に包まれ、産まれてから20日でひよこが誕生します。この間、ひよこが育つために呼吸をしなければならないので、外側の硬い殻には無数の小さな穴(気孔)が開いています。
こうしてひよこは呼吸をするのですが、この穴だけだと、卵に細菌などが付着すると容易に侵入して、感染症で死んでしまいます。そこで、細菌の侵入を防ぐために、内側に薄皮が張り付いているのです。
では、呼吸はどうなるのかというと、酸素は薄皮を通過することができるので問題ないのです。この巧妙な構造のおかげで、親鳥のお腹の下で20日温めてもらい続ける間、ふんなどで殻が汚れても問題なくひよこが生まれるのです。
酸素は通すけど細菌は通さないという優れた性質を知ってか、知らずか、薄皮は傷口をふさぐ、ばんそうこうのような使い方が、昔からなされていました。薄皮の内側は白身で、粘り気があるため、傷口にぺたりと貼り付けるわけです。傷口の保護だけでなく、治りも早いといわれます。現代での傷パッドと全く同じ効果が得られるのです。
でも、割りたての薄皮を他のどこにも触れさせないで、きれいに洗浄した傷に手早く付けなければならないため、結構難しいものです。傷パッドを買ってきた方が手っ取り早いかもしれません。
そして、細菌が入らないということは、腐敗しないということです。食用としての卵も殻により守られているのです。食用の卵は産卵されるとすぐに、殻の外側をきれいに洗浄、消毒され、ケースに入れられるので、それ以後、外側からの汚染、感染はあり得ません。
それでも賞味期限が指定されているのは、きわめてごくまれに、母鳥の体の中で殻を作る前に細菌に汚染されることがあったからです。
でも、感染した細菌は賞味期間中に増えて病原性を持つことはありません。これが賞味期間の根拠です。しかし、冷蔵庫で保存し、殻に傷がなければ、もっと長い期間安全に食すことが可能なことは、いろいろな研究から明らかになっています。
北海道は鳥インフルエンザが例年になくまん延し、大量の親鳥が処分され、卵の供給不足に陥っています。卵を無駄にしないために、冷蔵庫で丁寧に保存して、少々の賞味期限越えで廃棄なんてことはせずに、有効に使いましょう。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)