コロナ対策で有名な言葉に、「三密」があります。言うまでもなく、密集、密接、密閉の三つを指す言葉です。この三つの状態がそろった所に一定時間過ごすと、コロナ感染が起こりやすくなるという考え方です。実は昨年のコロナ禍の初めに起こったクルーズ船での集団感染や、そのあと各地で発生したクラスターを分析した結果、引き出された結論です。日本が世界に先駆けて提唱し、感染対策を考える上で、非常に重要な観点となりました。
密集は人が密集していること、密接は人と人の距離が近いことで、これらは元々、感染症学で、感染しやすい状況と理解されていました。
一方、密閉は部屋などの空間が密閉状態で、外の空気の入れ替えがあまり起こらない状態を指しています。密閉空間にいると、人と人の距離が離れていても感染する危険性があり、密閉空間に数人がいるぐらいでも危険であるということです。そこで、密閉を避けるために、感染症対策に換気という概念が生まれました。今は、どこでも、換気に気を配っていると思います。
三密になりやすい状況として、飲食、とくに飲酒を伴う飲食店、接待を伴う飲食店が浮かび上がり、実際、クラスターが頻発して、ついに営業自粛要請や酒類提供自粛要請が自治体から出される事態となりました。この施策は一定奏功し、飲食店でのクラスター発生は激減しました。
しかし、今年の春以降、オフィスや事業所でのクラスターが目立つようになりました。果たして、オフィスで三密が起こるのでしょうか?仕事をしている所では、それぞれ机についているので、距離は取れています。また、アクリル板などのついたてもあって、密集、密着は十分に避けられていると思います。そうすると、問題は密閉ということになります。
すでにご存じかもしれませんが、ビルの空調装置は、冷房や暖房が主な目的のため、極力、外気を中に入れないようになっています。空調がかかっていれば密閉は避けられるというのは大変な誤解といえます。空調とは別に外気との換気が必要なのです。
現在、変異型デルタ株がまん延していますが、このウイルスは、感染者から放出されるウイルスの量が数百倍多いとされます。そうすると、1時間に5分程度の換気でも、容易に感染すると思われます。オフィスの換気は最低2カ所同時に。時間も1時間当たり10分以上が必要なのではと考えます。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)