中年以降の男性に特有の体臭があることは、昔から指摘されていました。そして、それは皮膚表面に分泌される皮脂や汗に含まれる特有の成分に起因することが分かりました。そこで、この体臭のことを加齢臭と名付けたのです。その臭いは、青臭い脂の臭いで、ろうそく、チーズ、古本の臭いに例えられています。
こうして臭いのたとえを並べてみると、さほど問題にはならないような感じも受けるのですが、昨今は、香料、化粧品、ボディ洗浄剤から洗濯用洗剤にいたるまで、加齢臭対策と銘打った商品が続々出てきて、やはり、一般的には加齢臭はない方が良いものととらえられているようです。
加齢臭を生じる物質をノネナールといいます。人の体内に存在する脂質の一種が皮膚上の雑菌により分解されて生じるものです。この分解が中年以降に盛んになると考えられています。実は、その後の研究で、閉経後の女性でもノネナールが増加することが明らかになりました。おじさんだけの話ではなかったのです。
中年になっても加齢臭がほとんどない人もたくさんいるので、加齢臭は少なくできるものであると理解されています。加齢臭が強くなる原因として挙げられているのは、シャワーで流すのみの体洗い、たばこ、二日酔い、などです。とくに石鹸を使わないのはだめで、やはり、頭や体をよく洗い流して、ノネナールが生じる隙を与えないのが得策のようです。
とりわけ、愛煙家において加齢臭が強くなるという指摘があります。しかし、たばこの成分とノネナール発生の間の因果関係は全く分かっておりません。愛煙家は「たばこ臭い」に決まっています。たばこを全く吸わない人には、すぐに分かるのがたばこの臭いなのです。なので、たばこの臭いと加齢臭が一緒になると、他の人により不快な感じを与える危険性はあります。
一方、二日酔いの原因であるアセトアルデヒドは、ノネナールの原料になりうるということも、分かっています。したがって、深酒は加齢臭を強くする危険性があるのです。
中年以降に飲酒喫煙をしているのは、当然ながら男性の方が女性より圧倒的に多いわけで、加齢臭といえばおじさんという誤解が生じるのは、無理からぬところなのかもしれません。加齢臭が気になるあなた、とりあえず禁煙してみてはどうでしょうか。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)