コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 128

フラット化する?

2020年10月02日 09時00分

 世界が平らになる―。米国著名ジャーナリスト、トーマス・フリードマンは2006年発表の『フラット化する世界』(日本経済新聞出版)でそう主張した。平らになるとは互いを隔てていた壁が消えること。国境や経済、人種、年齢、性別などがその壁である

 ▼なぜ消えるのか。理由はIT革命とインターネットの普及にある。簡易なデバイスさえあれば誰もが同じ情報を入手でき、世界に向けて発信もできるのだ。世界の人々は対等な立場で横につながり、風通しのよい関係は既に多くのイノベーション(新機軸)を生み出している。視点を世界から国内に変えても同じこと。このフラット化にやや乗り遅れているのが日本である。菅首相に交代して、ようやく重い腰を上げるようだ

 ▼政府が9月30日、行政サービスのデジタル化を一元的に担うデジタル庁の創設に向け準備室を発足させた。省庁にはびこる無益な縄張り主義を打破し、縦割り行政の弊害をなくすのが目的である。ただ、そこはあくまで入り口。これをてこに次世代通信網整備やスマートシティ建設、企業のICT実装化、IoTとAIの活用といったデジタル社会の実現を大胆に進めるビジョンが首相にはあるようだ。デジタル庁を新たな成長戦略の柱と位置付けている

 ▼日本の場合、民間レベルで進むフラット化を行政に阻害される例が少なくない。首相は各省庁から準備室に集められた担当者を前に、省益や前例主義を捨てるよう訓示したという。いわば準備室は小さな「フラット化した世界」。壁のない世界をどこまで広げられるか。


きょうから酒税見直し

2020年10月01日 09時00分

 最近、無類のビール好きとして知られる椎名誠さんの旅エッセー『あやしい探検隊 北海道乱入』(角川文庫)を読んでいて、こんな一節に目が止まった。「目の前にヒエヒエのビールを出されてひっこんでいるわけにはいかない」

 ▼何が心に引っ掛かったのか。少し考えて、ある事実に思い当たった。そういえば自分はことしに入ってから一度も居酒屋で「とりあえずビール」のひと言を発していなかったのである。もちろん、新型コロナウイルス感染を警戒して全く飲みに出なくなったためだ。会社の歓送迎会は軒並み中止。恒例のさっぽろ大通ビアガーデンも規模が大幅に縮小された。今でも大勢で集まって飲むことには批判的な雰囲気が漂う。これではビールを主力とするメーカーも青息吐息だろう

 ▼外で飲まない分、家で飲む人が増え、近頃はアルコール度数の高い缶酎ハイに人気が集まっているのだとか。どうせならあまりお金をかけず、効率よく酔いたいというわけだ。ビールの肩身はますます狭い。そんな状況の中、きょうからビール系飲料の税金が変わる。酒税法の改正により350㍉㍑換算でビールが7円下がって70円、第3のビールが9・8円上がって37・8円になるという

 ▼本格ビール党にはいいが、庶民としては安くてうまい第3が増えたところを狙われた感がないでもない。6年後のビール系飲料税一本化に向けた経過措置だが、まあ、当局が損になることをするわけもあるまい。他は日本酒が減税でワインが増税。酎ハイは変更なし。さて、きょうの「とりあえず」は何にしよう。


わいせつ教員

2020年09月30日 09時00分

 みずみずしい感性に心が洗われるからだろう。小さな子どもたちが考えた詩を集めた『こどもの詩』(川崎洋編、文春新書)をたびたび読み返している。その中に6歳(当時)の女の子が、引っ越した先で書いたこんな一編があった

 ▼「はるたせんせい さきちゃん おはなや てつぼうや まどのくもや みちや バスや つるやや しんちだんちも みんなげんきですか」。先生や友達が大好きだったに違いない。子どもは純真で、先生を全面的に信頼しているものだ。それだけに先日の読売新聞の独自調査結果には驚かされた。わいせつ・セクハラ行為で懲戒処分を受けた公立小中高校などの教員のうち、約半数が自分の勤務する学校の児童生徒らを対象にしていたというのである

 ▼子どもたちから疑われない立場であることを悪用して行為に及び、さらにばれないよう権威を利用して口止めまでするというのだから卑劣極まりない。何より信じていた先生に裏切られた子どもたちの心の傷がどれほど深いか。保護者で作る団体がおととい、子どもへのわいせつ行為で教員免許を失効した場合は、再取得を不可とするよう求めた陳情書を文部科学省に提出したという。もっともな訴えでないか

 ▼性犯罪に1編を割いた2015年版犯罪白書も性犯罪の再犯率が際立って高い実態を明らかにしていた。仮釈放中より満期釈放後の方が再犯事例は多いそうだ。失効しても3年たてば再取得できる現行の教員免許法はどうみても甘い。わいせつ教員を利するのでなく、先生が大好きな子どもを守る制度でなければ。


はんこを使うな 

2020年09月29日 09時00分

 シルクロードは紀元前2世紀頃から近世に至るまで、ユーラシア大陸を横断するように西と東を結んでいた。1980年に放送されたNHK特集「シルクロード」を見て、壮大な旅にロマンをかきたてられた人も多いのでないか

 ▼ヨーロッパ、中近東、インド、中国と続く大街道の東側終着点が日本である。運ばれた交易品は金や織物、果物など実体のある物から、学問や宗教、哲学といった文化まで多岐にわたった。最近話題のはんこもその一つなのだという。紀元前3300年頃のシュメール時代に生まれ、日本には推古朝の時代に遣隋使が持ち込んだ。商業文化が花開いた江戸時代に広く庶民に普及したらしい。『ハンコの文化史』(新関欽哉、PHP研究所)に教えられた

 ▼終着点で行き場を失ったからか、はんこ文化は日本で異様な発達を遂げる。はんこなしでは仕事も暮らしも成り立たない。そんな不自由な制度を徹底させてしまった。ばかばかしいと感じたことのない人は、一人もいないに違いない。河野太郎行政改革相が就任早々、全府省に対し、行政手続きではんこを使わないよう要請した。これまでさんざん見直しの声が上がっていたにもかかわらず、実現できなかったことである。歯に衣着せぬ河野氏ならではの突破力だろう

 ▼以前見たサラリーマン川柳(第一生命)にこんな一句があった。「回覧が一巡するのに三ヵ月」。コロナ禍の中でもはんこを押すためだけに役所に出る例がかなりあったという。令和の時代に入ってまで、シュメールの知恵に頼り切りというのもどうかしている。


カズJ1最年長出場

2020年09月28日 09時00分

 男の数え42歳は大厄といわれ、古くから凶事や災難に遭いやすいとされてきた。真偽は定かでないが、社会的な立場や責任、身体的な衰えといった変化が顕著に現れるころだからとの説をよく聞く

 ▼ただ体に関しては近年、健康寿命が延びたこともあり、50歳を新たな厄とみなす考えも出てきているらしい。なるほどそうかもしれないと納得する人も多いのでないか。今の時代、42歳といえばまだ気持ちは若者だろう。ところが50歳の坂を越えるとそうはいかない。独自の身体論でも知られる斉藤孝明治大文学部教授もエッセーに、「50歳というのは、思っている以上に節目の年齢だ。実際に迎えてみてわかった」と記していた。無理が利かなくなってくるというのである

 ▼だとすると、この人の体は一体どうなっているのか。サッカー元日本代表FWのJリーガー「キング・カズ」こと三浦知良(横浜FC)が、先週23日の対川崎フロンターレ戦に53歳6カ月で先発出場し、J1最年長出場記録を打ち立てたのだ。スポーツニュースでプレー映像を見たが、赤いキャプテンマークを左腕に巻いて走る走る。ゴールこそ決められなかったものの、好機を見逃さず絶妙のパスを出し、得点にあと一歩まで迫った

 ▼普段から厳しいトレーニングを欠かさず、体重もグラム単位で管理していると以前何かで読んだ。確かに、「レジェンド」というだけで試合に出られるほど甘い世界ではあるまい。とはいえキング・カズも50歳を超えた一人の男。その彼が次々と常識を覆していく姿を見ると、厄も落ちる気がして心強い。


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