コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 134

寿都町と高レベル放射性廃棄物

2020年08月19日 09時00分

 古代ギリシャの哲学者ソクラテスが「悪法も法だ」と理に反した裁判結果を受け入れ、極刑に処されたのはご存じの通り。批評家の東浩紀氏がエッセー「ソクラテスとポピュリズム」で、そのあたりの事情について分かりやすく触れていた。東氏流に言うとこうだったという

 ▼「ソクラテスにむけられた非難は要は、おまえはなんか怪しい、嫌なことをいう、みんなの空気に水を差す、だから死ねというものである」。犯罪の確たる証拠があったわけではない。うわさによる大衆感情の暴走が招いた悲劇だったのである。昔は知的水準が低かったからと笑ってはいられない。今でもこういった例は世間に幾らでもある

 ▼先週、寿都町が高レベル放射性廃棄物最終処分場の文献調査に応募を検討しているとの報が流れた時の周囲の反応もそうだった。内容を精査することもないまま、すぐに各方面から非難や反対の声が上がったのである。道も特定廃棄物に関する条例を盾に暗に撤回を要請したようだが、拙速だろう。地層処分技術は現在、国際的にほぼ確立されている。残された問題は適地だ。10万年の管理を想定しているとはいえ、毎時1500シーベルトある放射線量は1000年でおよそ1000分の1に下がる。天然のウラン鉱山の危険性と比較考量できる範囲でないか

 ▼何より既にある核廃棄物をどうにかする必要があろう。調査も許さないというのは、科学的でも論理的でもない。感情の暴走である。できるだけ多くの地で調査し確かめるのが良策だ。でないと日本に適地があるのかないのかさえ分からない。


静岡で国内最高気温

2020年08月18日 09時00分

 経験したことはないが、京都の夏はかなり暑いらしい。その地を舞台にした森見登美彦氏の幻想小説『四畳半タイムマシンブルース』(角川書店)にこんな一節があった

 ▼「京都の夏、我が四畳半はタクラマカン砂漠のごとき炎熱地獄と化す。生命さえ危ぶまれる過酷な環境のもとにあって、生活リズムは崩壊の一途をたどり、綿密な計画は机上の空論と化し、夏バテが肉体的衰弱と学問的退廃に追い打ちをかける」。四畳半に暮らし、京大で学んだ森見氏の実感だろう。日本ではここしばらく、多くの人が同じ炎熱地獄に苦しめられている。京都を含め関東から九州にかけての広い範囲で厳しい暑さが続いているのだ。コロナ禍が収まらない中でのこの暑さ。まさに「生命さえ危ぶまれる過酷な環境」でないか

 ▼きのうは静岡県浜松市で午後0時10分に、国内最高気温に並ぶ41・1度を観測した。宮崎県児湯では39・7度、長野県飯田で39・5度、くだんの京都も38・4度まで上がった。聞くだけでめまいがする。太平洋高気圧が列島を覆い、たまったままの暖かい空気を強い日差しがさらに熱するというのだから猛烈な暑さにならないわけがない。日本気象協会によると、21日ころまで高気圧の勢力は衰えないそうだ。地域によっては40度を超える日がまだあるらしい

 ▼本道もきのうは、最も暑い時期を上回る気温が続出した。道産子にはゆるくない。先の物語で主人公の「起死回生の打開策」はクーラーだった。熱中症予防に迷わず活用したい。コップ一杯の水と適度な塩分をこまめに取ることも忘れずに。


玉木雄一郎国民民主党代表

2020年08月13日 09時00分

 義理堅い人柄や数奇な運命に翻弄(ほんろう)された一生に心を動かされてのことだろう。戦国武将の一人、浅井長政の人気は今も高い。劇的な最期もまた長く記憶にとどめられる理由である

 ▼こんないきさつがあったという。美濃の斉藤道三を討ちたい織田信長が長政に同盟を持ち掛け、長政はこれを受諾。ところが協力関係は長く続かなかった。利用した揚げ句、天下取りを狙う信長があっさり裏切ったのである。信長は長政の本拠地小谷城に攻め入った。長政は豊臣秀吉の数度にわたる降伏勧告を退け、籠城して徹底抗戦。攻撃が激しさを増し家臣が次々と逃げ出す中、最後まで雄々しく戦い、城と共に散ったそうだ

 ▼それを思い出したのは、分党を発表した玉木雄一郎国民民主党代表の11日の記者会見を見たからである。立憲民主党との合流を進めるための手続きとはいえ解党はいわば負け戦。悲壮感が顔からにじみ出ていた。ただ、玉木氏自身は合流には参加せず、党と運命を共にすることにしたという。立民に野党共闘を持ち掛けられ、気付けば家臣を奪われていたといったところか。くせ者ぞろいの党をついにまとめきれなかった玉木氏らしい話である。とはいえ当初から基本政策が一致しない中での合流は野合と断じていた。一国一城の主として筋は通したのでないか

 ▼長政に一首がある。「けふもまた尋ね入りなむ山里の花に一夜の宿はなくとも」。宿はないが、きょうも花を探しに山へ向かうと歌っている。玉木氏もそのつもりだろう。首相の揚げ足取りに終始しない、骨太の野党を見たい。


周庭氏ら逮捕

2020年08月12日 09時00分

 社会主義になる前のチェコスロバキアで活躍したジャーナリスト、カレル・チャペックに「わたしはなぜコミュニスト(共産主義者)でないのか」の一文がある
 
 ▼世界初の社会主義国ロシアを誕生からつぶさに観察した末の結論だろう。こう記していた。「コミュニズムを示す究極の言葉は『支配すること』であって、けっして『救うこと』ではない。その偉大な標語は『権力』であってけっして『援助』ではない」。チャペックは語を継ぐ。共産主義者は社会に問題があると必ず「それは社会秩序の責任だ」と叫び、革命の旗を振る。ところが行き着いてみると、人々は以前にも増してがんじがらめに縛られているのだ。最近の香港を見て、あらためてそれが事実だと気付かされた

 ▼香港警察がおととい夜、2014年の香港民主化運動「雨傘運動」のリーダー周庭氏や民主派紙の創業者黎智英氏ら10人を国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕したのである。中国が善人の仮面を外し牙をむきはじめたらしい。6月30日に施行された国安法は国家分裂、政権転覆、テロ、外国勢力との結託で国家の安全を脅かした者を処罰する。ただ執行に当たり厳密な規定はない。中国では法律の上に共産党が君臨する。いかようにも拡大解釈できる点に当初から懸念が示されていた
 
 ▼チャペックの批判が今も痛烈に響く。「事態が悪ければ悪いほど、コミュニズムにはそれだけ好ましい」。社会の混乱を民主主義の責任にして共産党支配をさらに強められるからだ。多くの人がなぜコミュニストでないのか、よく分かる。


あつまれ どうぶつの森

2020年08月11日 09時00分

 創業は1889(明治22)年にさかのぼるというからなかなかの老舗である。玩具やコンピューターゲームの製造・販売を手掛ける任天堂のことだ。このところ業績が絶好調らしい

 ▼6日発表したことし4―6月期の連結決算は、営業利益が前年同期比5・3倍の1447億円に達したという。4―6月期としては過去最高だそうだ。新型コロナウイルス感染拡大で苦境に陥る企業も多い中、うらやましい話でないか。絶好調の理由はまさにその新型コロナにあるようだ。いわゆる〝巣ごもり消費〟で家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」が飛ぶように売れているのである。品薄状態は今も続き、抽選で当たるくらいしか買う手立てはないらしい

 ▼なぜそんなに人気なのか。皆の狙いはゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)をプレイすることにある。自分のアバター(分身)を作り、気に入った無人島を住みやすいように改良したり、動物たちと交流したりしながらのんびり暮らすゲームである。どこで珍しい魚や昆虫を捕まえられるか住民と情報交換し、タヌキが経営する商店で新しい道具を手に入れる。ときには海岸で昼寝をしたりして。もちろん撃ち合いや戦闘、カーチェイスはなしだ。実にのんびりした世界である

 ▼あつ森ファンに聞くと、もう一つの自分の生活がそこにできていくようなのだとか。外に目を向ければ世間はコロナ一色。マスクをしろだの自覚が足りないだのギスギスしていて窮屈極まりない。現実逃避を助けてくれる任天堂の好業績はまだしばらく続きそうである。


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