コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 155

AIで手塚治虫新作

2020年03月09日 09時00分

 短歌を一首紹介したい。「シャンプーの髪をアトムにする弟 十万馬力で宿題は明日」笹公人。兄弟が風呂場でにぎやかに過ごす様子が目に浮かぶ。ただ、現代短歌といえども漫画の主人公を歌に詠み込むのは難しい。それだけ「鉄腕アトム」が多くの人に知られているということだろう

 ▼アトムに限らない。「ジャングル大帝」「ブラックジャック」「火の鳥」と手塚治虫の漫画を上げていけば枚挙にいとまがない。誰でもお気に入りの漫画が一つや二つあろう。1989年2月に亡くなって既に31年たつが、いまだ人気は衰えを見せない。「漫画の神様」と呼ばれるゆえんである。残念なのはもう新作が読めないこと、と思っていたら最近新たに興味深い動きがあった

 ▼AI(人工知能)技術を使って手塚漫画を生み出す、キオクシア(旧東芝メモリ)の「TEZUKA2020」プロジェクトである。もし手塚先生がまだ生きていたら今どんな漫画を描いているだろうか。そんな想像を現実化する試みという。ばかなことを、が大方の見方でないか。発想や構成の妙が求められる漫画でできるわけがない、と。ところがAIはやってのけたのである。物語や登場人物を学習し新作の骨格を作り上げた

 ▼完成した「ぱいどん」が雑誌『モーニング』(講談社)13号に掲載されている。読んだが正直なところ物足りない。実際は後工程をほぼ現役のプロに頼らねばならなかったそうだ。道のりは遠い。とはいえ手塚先生は技術を愛した人。空の上でこう言っているに違いない。「面白い。どんどんやりなさい」。


双葉町避難指示解除

2020年03月06日 09時00分

 ニセコ町出身で今は仙台の出版社「荒蝦夷(あらえみし)」を率いる土方正志さんという人がいる。阪神淡路や奥尻など被災地で取材活動をした後、学生時代を過ごした東北の姿を伝えたいと2000年に会社を立ち上げた

 ▼最近、著書『瓦礫から本を生む』(河出文庫)を読み、土方さんを知った。東日本大震災で自らが被災し、一度は「終わりかと覚悟」したが、地域の声を伝えるために再び立ち上がったという。中に大災害を経験したからこその叫びがあり、心を揺さぶられた。「なにかが失われたら、なにかが生まれなければならない。いや、なんとしても生み出さねばならない」「災厄に負けぬための、それがひとつの道なのではないか」

 ▼津波被害に加え福島第一原発事故まであった福島県の人々もきっと同じだろう。この決定を聞き、「さあここからだ」と何かを生み出すため思いを新たにしている人も多いに違いない。4日、全町避難が唯一続いていた双葉町の一部地域で、避難指示が解除された。JR常磐線双葉駅周辺や線路、道路など限定的ではあるものの、町復興に向け意義は大きい。14日には町内で途絶していたJR常磐線も全線開通するそうだ。広域交流の要が復活を遂げるのである

 ▼これからも曲折はあろう。ただ、土方さんは「復興に公式などない」という。「そこにはただ善かりかるべき明日を幻視する試行錯誤のみがあり、その日々はこれからも続く」のだと。できればわれわれも共に「善かりかるべき明日」の方を見ながら、被災地の背中をそっと押してあげられるといい。


雪解け

2020年03月05日 09時00分

 脳裏に穏やかな情景が浮かび、心がしんとする詩でないか。雪国の人ならお分かりになろう。「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ/次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ」。三好達治の「雪」である

 ▼太郎と次郎の家がもし北海道にあれば今冬は、その情景を見る機会も幾分少なかったはず。札幌管区気象台が2日、昨年12月からことし2月までの本道の降雪量は、平年比58%で記録的少雪だったと発表した。札幌も2月は連日の雪かきに悩まされ、いよいよ帳尻を合わせにきたなと天をにらんだものの、実際は平年比73%の334cmにとどまったという。1月に大雪が降ったオホーツク海側も56%、日本海側も55%と、1961年の統計開始以来最も少なかったそうだ

 ▼「六花豊年の兆し」という言葉がある。六花とは雪の結晶のこと。大雪の年は作物が豊かに実るとの意味だ。似たような話はよく聞く。その伝でいくとことしは記録的不作となるが、現実には関係がないのだとか。ひとまず安心である。どうやらまだ農業技術の発達していない昔、雪の多い年は用水に不自由せず豊作を期待できたため生まれた説らしい。今は雪解けの早い方が準備も作付けも適切な時期にでき望ましい。農家の方々は早くも体がうずうずしているのでないか

 ▼札幌管区気象台の1カ月予報によると、今月は日本海側、太平洋側共に気温が高く、降雪は少なめの見通しだ。「雪解音しきりとするや昨日今日」保坂加津夫。雪解けが一気に進む。雪と一緒に新型コロナウイルスも消えてくれると、もっとうれしいのだが。


楽天の送料無料

2020年03月04日 09時00分

 世の中には口がうまい人というのがいるものである。落語「つぼ算」に登場する兄貴のような人物がその典型だろう。子分に頼まれ一緒につぼを買いに行くのだが、この店の主人とのやり取りが面白い

 ▼子分が欲しいのは二荷入りのつぼ。ところが兄貴は3円に値切らせた上で一荷入りのつぼを買う。子分は「違う」と文句を言うものの、兄貴は「まあ見ていろ」と余裕の表情。少し歩いて慌てたふりで店に引き返す。間違えたから二荷のつぼと替えてくれというのだ。快諾した主人にまず一荷のつぼを3円で下取らせ、さっき払った3円と合わせて6円だとして清算完了。主人の「毎度あり」の言葉に見送られ意気揚々と引き揚げる。物と現金をごっちゃにして言いくるめたわけだ。端的に言って詐欺である

 ▼三木谷浩史楽天社長の最近の発言でこの噺を思い出した。運営する「楽天市場」で全店送料無料を打ち出し、利益が削られるためできないとする出店者に「価格全体で調整すればいい」と指南したそうだ。つまり送料を上乗せして商品価格とし、客には送料無料をうたえということらしい。それが嫌なら出店者が送料を負担せよ、と強制しているようなもの。詐欺ではないが誠実でもない

 ▼公正取引委員会は先週、楽天の送料無料制度に独禁法違反(優越的地位の乱用)の疑いありとして緊急停止命令を出すよう東京地検に申し立てた。当然である。それに「よそで5000円の商品が当店では6000円。ただし送料は無料」の口車に乗せられて買う客がどこにいよう。つぼ屋の主人じゃあるまいに。


報道の事実誤認

2020年03月03日 09時00分

 新型コロナウイルス拡大の危機感から鈴木知事が「緊急事態宣言」を出し、道民に外出自粛を要請した先の土日、皆さんはどう過ごされたろうか

 ▼どの地域も中心街やレジャー施設は閑散としていたようだ。一方で思わぬ混雑に見舞われていた場所も中にはあった。スーパーやドラッグストアである。紙が不足するとのデマが流れたため、その影響で多くの人が箱ティッシュやトイレットペーパーの確保に走ったのだ。紙不足ならまだかわいい方かもしれない。もっとたちが悪いのはテレビのワイドショーや一部メディアの間違った情報だ。訳知り顔の「識者」の妙な話を繰り返し伝えている。ある人は「検査を増やさないのは感染者数を少なく見せ掛けるため」と陰謀論を展開。またある人は「厚生労働省が北海道で検査の妨害をしている」と断じる始末だ

 ▼こうしたデマが大手を振って歩く状況を見過ごせなくなったのだろう。国立感染症研究所が1日、「報道の事実誤認」に反論する文書をまとめ、公表した。デマを明確に否定した上で、一部報道は「緊急事態において昼夜を問わず粉骨砕身で対応に当たっている」関係者を不当に扱い、国民に誤解を与え、対策に悪影響を与えていると批判。言葉は丁寧だが行間に怒りがにじんでいる

 ▼今のところ日本では感染者は周囲にほとんどうつしていない事実が分かっている。問題は密集空間だ。心配な人まで検査で病院へ殺到する事態になると中国の武漢同様、感染爆発が起ころう。紙はまだしも医療関係者が疲弊して消えてしまってからデマを嘆いても遅い。


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