うそも方便というが、同じうそでも罪のあるのとないのと二種類があるようだ。さしずめこちらの噺は罪がないものの代表でないか。落語の「弥次郎」である
▼この男、根っからのうそつきで本当の事を言ったことがない。ある日、ご隠居の家へ出掛け北海道旅行の話を始めた。「宿で茶を飲もうとすると口に運ぶまでに凍りついた」「雨が氷の棒になって降るんで傘はブリキでできてる」。もうめちゃくちゃである。とはいえ周りも弥次郎が言うのはうそだと分かっているからどこか楽しんでいる風がある。本人も面白がらせようと話を練って用意しているのだ。一方で罪なのはついてはいけない場面で出るうそだろう。国会などはその典型かもしれない
▼きのうの衆院予算委員会のことである。立憲民主党の黒岩宇洋議員が「桜を見る会」関連の質問をしている際、安倍首相が黒岩氏に対し「うそつき」と言い放った。黒岩氏が以前、同会の前夜祭で高級店「久兵衛」のすしが出たと発言した点についてだった。国会で「うそつき」の言葉が出るとは穏やかでない。黒岩氏は「そのすし屋が提供したとはひと言も断言していない」といきり立った。濡れ衣なら怒るのは当然だ
▼ところが黒岩氏は言っているのである。昨年11月の第1回追及チーム野党合同ヒアリングで「久兵衛のおすしが出た」と語っていた。映像も残っている。本人はお忘れかもしれないがいささか恥ずかしい。「うそつき」と言い放つ首相も少々大人げないにせよ、言われて仕方のないことをする方もどうか。弥次郎も苦笑いに違いない。