コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 170

新語・流行語大賞

2019年11月09日 09時00分

 ことしもユーキャンの「新語・流行語大賞」に30語がノミネートされた。なぜ選ばれたか分からない言葉も毎回あり、選考の基準に疑問も感じるが、まあそこは一企業のイベントである。難しく考える必要もなかろう。自分の情報感度を確かめる一つの目安にはなる

 ▼30語のうち3分の2くらい聞いたことがあればまず十分でないか。例えばノミネートナンバー1「あな番」を知らなくても日々の暮らしに支障はない。さて、と中身を見るとやはりというべきか。「4年に一度じゃない、一生に一度だ。」「ONE TEAM(ワンチーム)」などラグビー・ワールドカップ日本大会に関するものだけで五つもある。あの盛り上がりを思えば、むしろよく五つに絞り込んだものだ

 ▼スポーツがらみの語は他にも幾つかあった。イチローが引退会見で語った「後悔などあろうはずがありません」や、女子ゴルフの渋野日向子プロの愛称「スマイリングシンデレラ/しぶこ」など。スポーツ界が華やかだった証拠だろう。一方で政治の影は薄かった。おととしが12語、去年は3語あったが、ことしは小泉進次郎衆院議員をやゆする「ポエム/セクシー発言」と、あざとい選挙戦術を使った新党の「れいわ新選組/れいわ旋風」の2語のみ。参議院選挙や統一地方選挙もあったのだが…

 ▼去年は五つあった北海道関係の言葉は今回一つもなかった。五輪マラソンの札幌変更を受けた小池百合子東京都知事の放言「涼しい所というなら北方領土でやったらどうか」も長く語り継ぐべきと思ったのだが、リストにはなかった。


立冬

2019年11月08日 09時00分

 人間は太古の記憶を宿しているため、いつまでたっても冬とは孤独で恐ろしい季節だとの観念から抜け出せない―。詩人の萩原朔太郎はそう考えていた。随想「冬の情緒」に書いている

 ▼「先祖たちは、自然の脅威にをののきながら、焚火の前に集つて居た。火が赤々と燃えて来る時、人々の身体は暖まり、自然に眠りが催して来た」。朔太郎はそれを「母の懐中に抱かれて居た、幼なき時の記憶」と重ねるのである。冬のいてつく寒さから幼く弱い体を守ってくれる母を慕うように、「何よりも人々は火を愛した」と朔太郎は記す。それが実感としてよく分かる季節が再び巡ってきた。きょうは二十四節気で冬の始まりを告げる立冬である

 ▼本道も暦に合わせるかのように、このところ一気に季節が進んだ。戸外に出ると冷たい風に思わず身が縮む。「寒いですね」が最近のあいさつ代わりである。6日に札幌の手稲山で初冠雪を確認。旭川の市街地でも雪が降った。そしてきのうはついに札幌で初雪観測である。日本気象協会によると、この週末には12月上旬並みの寒気が流れ込むそうだ。道内全域は厳しい冷え込みとなり、日本海側の広い範囲では平地部でも雪が積もる見込みという。いよいよ冬本番である。仕事など車で出掛ける予定のある人はタイヤ交換が必須だろう

 ▼「深雪道来し方行方相似たり」中村草田男。雪が深くて来た道も行く道も同じに見える。辺ぴな所を車で走っていてそんな状態に陥ったら危ない。ここしばらくは天気を見て、荒れそうなら無理せず家の中で火を愛している方がいい。


11分間の日韓会談

2019年11月07日 09時00分

 幕末のころ、軍艦奉行の勝海舟が尊皇攘夷を掲げて京都に攻め上ろうとする長州と幕府の調停に乗り出したことがある。談判のため単身京都に入った勝が会合場所で待っていると、長州方がやってきた

 ▼血で血を洗う抗争を繰り広げている両者である。刃傷沙汰になってもおかしくない。ところがそうはならなかった。勝は『氷川清話』でこう振り返っている。「談判といっても訳はなく、とっさの間にすんだのだ」。勝のやり方はいつも明快である。胸襟を開いて「赤心(まごころ)」を伝え、相手にとって利のある話を理をもって説く。このときも談判は和やかに進み、交渉はすぐにまとまったという。「正心誠意」を信条とする勝の面目躍如である

 ▼こちらの電撃会談も時間はわずか11分とずいぶん短かったようだが、成果はどうだったのか。東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議のためタイのバンコクを訪れていた韓国の文在寅大統領が安倍首相に声を掛け、予定にはなかった対話が実現したそうだ。いわゆる「従軍慰安婦」問題や「徴用工」訴訟を巡り、悪化する一方の日韓関係である。日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)失効も23日に迫り、米国から責められる文氏としては事態を打開する必要があったのだろう

 ▼ちなみに勝がまとめた先の合意は、幕府と長州の対立が激化の一途をたどる時代状況の中では役に立たなかった。今回も文氏がいくら言葉で「赤心」を語り、安倍首相が日韓関係の重要性を認めたとしても、韓国が日韓請求権協定を順守しない限り関係の改善は望めまい。


ラグビーW杯終わる

2019年11月06日 09時00分

 これまでそばにいてくれた人が今はもういない。心にぽっかりと穴が開いたような―。ガールズロックバンド「プリンセス プリンセス」の『M』(作詞・富田京子、作曲・岸谷香)は、そんな喪失感を情感豊かに歌い上げた名バラードだ。聞いたことのある人も少なくないだろう

 ▼曲はこう始まる。「いつも一緒に/いたかった/となりで/笑ってたかった/季節はまた/変わるのに/心だけ/立ち止まったまま」。こういった大切な何かを失う寂しさを俗に「〇〇ロス」と呼ぶ。それでいくと現在は「ラグビーロス」である。ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会が終わった。日本代表史上初のベスト8進出、そこで日本の前進を阻んだ南アフリカ代表の優勝

 ▼スポーツは筋書きのないドラマといわれるが、こんな劇的で見応えのある大会もそうはあるまい。見事なチームプレーと壮絶なぶつかり合い。もっと見ていたかったし、応援もしていたかった。W杯は終わったのに心は立ち止まったままである。ラグビーがこんなに胸躍る競技だったとは、と認識を新たにした「にわか」ファンも多かったらしい。当方もその一人である

 ▼試合だけではない。キャンプ地の地域住民と各国代表との交流、カナダ選手らの台風被災地でのボランティア活動、地元の熱意で実現した釜石鵜住居復興スタジアムと公式戦。心を動かされた出来事は枚挙にいとまがない。どうやら開いた心の穴には、それを埋めて余りあるくらい素敵な記憶が詰め込まれたようだ。ラグビーと過ごした44日間のなんと幸せだったことか。


国語に関する調査

2019年11月05日 09時00分

 夏目漱石の『吾輩は猫である』では、野良だったネコが住みついた家の主人苦沙弥先生らを子細に観察する。社会規範やしがらみにとらわれないネコの辛辣(しんらつ)な視点が面白い

 ▼ある日はこんなやり取りがあった。友人が「苦沙弥君などは道楽はせず」と言うと先生の妻が、読みもしない本ばかりたくさん買うくせに、支払いとなると知らんぷりだと文句を並べる。ネコが見ると、「妻君は憮然としている」。文脈から察するに、このとき妻君は夫に対しかなり腹を立てていたと思われる。漱石はそれを表現するのに「憮然」の言葉を使ったのだ。ところがこれは誤用らしい。本来の意味は「失望してぼんやりとしている様子」。文豪の漱石が勘違いしているくらいだから、一般の人が間違うのも当たり前だろう

 ▼文化庁が先週発表した2018年度「国語に関する世論調査」によると、「憮然」の意味を正しく理解していた人は28.1%だったそうだ。音の響きで怒っているように感じる人が多いらしい。どちらの書き方が良いかとの問いにも意外な答えがあった。「一つ、二つ、三つ」(23.6%)を「1つ、2つ、3つ」(66.3%)が圧倒していたのだ。「一つ」に慣れた者としては違和感が強い。ただ多数派からするとこちらの方が古めかしく感じるのかも

 ▼「歌は世につれ世は歌につれ」とは昭和の歌番組でよく聞いたせりふだが言葉も同じ。時代を反映して言葉の使い方や意味が変わり、その言葉がまた時代に影響を与える。まあ観察しているとしよう。ときにはネコのような辛辣な目で。


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