コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 166

リクナビに価値あり?

2019年12月07日 09時00分

 常に他の人より先に価値あるものを見つけられたら、商売で大成功間違いなしなのに―。誰もが願うそんな夢をショートショートの名手星新一さんは、風刺を効かせてこんな一編に仕上げた。「価値検査器」という話である

 ▼エヌ氏が老博士から形見として小型の懐中時計をもらう。実はそれが万能価値検査器だった。物でも人でも器具を押し付けるだけ。針が右に振れると価値あり、左なら価値なしと即座に分かる。それからというもの、エヌ氏の人生はまさに順風満帆。店を開くときには優秀な従業員を採用でき、商品の仕入れも失敗知らずなのだから当然だ。業績はうなぎ上りである。私的にも結婚に当たり最高の伴侶を選ぶことができた

 ▼企業も現実にそんな便利な万能価値検査器があれば、喉から手が出るほど欲しいだろう。AI(人工知能)でそれに類するものを用意し、〝これをどうぞ〟と裏から企業に差し出したのが就職情報サイト「リクナビ」を運営する「リクルートキャリア」(東京)である。独自のアルゴリズムで就職活動生の内定辞退率を算出し、データをこっそり企業に売っていたのだ。採用の歩留まりを良くしたい企業にとっては価値のある資料だろう

 ▼ただ、個人情報を勝手にいじられ、企業に渡された就活生にしてみればたまったものではない。政府の個人情報保護委員会は4日、同社に2度目の改善勧告をし、データを購入した37社を行政指導。うち34社の名前も公表した。エヌ氏は最後に、自分に価値があったわけではなかったことに気付かされたが、さてリクルートは…。


ぺんてる争奪戦

2019年12月06日 09時00分

 普段よく使う文房具の中で、ボールペンほど好みの分かれる道具はないのでないか。手に直接触れ、書き心地がじかに感じられるだけに細かな違いも気になるからだろう

 ▼インクの濃さや粘度、軸の剛性、ホールド感、デザイン、安さ―。どれも少しずつ違う。文具コーナーで試し書きをしながら延々と悩んでいる人がいるのもよく見る風景である。長時間一緒に過ごす相棒を選ぶのだ。慎重になるのもやむを得ない。字を消せる「フリクションボール」(パイロット)や油性なのに書き味の良い「ジェットストリーム」(三菱鉛筆)など近年は話題の商品も多いが、筆者が長年愛用しているのはぺんてる「エナージェル」だ。実に滑らかで書きやすい

 ▼そのぺんてるに今、深刻な引っ掛かりが生じているという。文具最大手のコクヨと2位のプラスがぺんてる株を巡り、熾烈な争奪戦を繰り広げているのだ。机の上でノートとペンが争っているようでおかしいが、もちろん当事者たちにとっては笑いごとではない。ぺんてるの筆頭株主であるコクヨが出資比率を38%から50%に高めようとしたのが発端という。ぺんてるの経営手法に不満があったらしい。独立性を維持したいぺんてるはプラスに支援を依頼。この動きに危機感を強めたコクヨが、今度は敵対的買収に乗り出したというわけ

 ▼ここまで事態がもつれると、せっかくの各社の高いブランド価値にも傷が付きかねない。買収にせよ資本提携にせよ今後も長く付き合う大事な相棒を選ぼうというのだから、関係者はもう少し慎重に話を進めてもよかった。


国際学習到達度調査

2019年12月05日 09時00分

 文章の読み方には「アルファー読み」と「ベーター読み」の2種類があるそうだ。言語学者の外山滋比古氏が『「読み」の整理学』(ちくま文庫)で説明していた

 ▼既に知っていることを読むのがアルファー、まだ知らないことを読むのがベーターである。例えば自分で実際に見た野球の試合について書かれた文章を読むのが前者、見たことも聞いたこともない知識に触れるのが後者である。難易度は後者の方が高い。アルファーは誰でも楽に習得できるが、ベーターはそう簡単でないと外山氏は言う。鍵は幼児期だ。おとぎ話など物語をたっぷり聞いて育つと抽象化や類推の概念が身に付き、未知の物事でも理解しながら読めるようになるという

 ▼つまりこれ、別の言い方をすれば読解力だろう。今の日本の15歳のそれが幾分低下しているらしい。経済協力開発機構(OECD)が3日公表した2018年の国際学習到達度調査で明らかになった。国際比較で前回の8位から15位へと大きく順位を下げたのである。本や新聞よりネットの短文を好む生徒が増えた事実をOECDは指摘するが、理由はそんな最近の状況変化だけだろうか。今15歳といえば「ゆとり教育」の時代に幼児期を過ごした生徒たちである。当時の空気が彼らからベーター読みを学ぶ機会を奪ったのでなければいいのだが

 ▼外山氏も言葉の教育は「就学以前において、基礎の教育は完結する」と記していた。とはいえ日本は数学と科学では世界トップレベル。読解力もまだ平均以上だ。間違った政策で将来に禍根を残すことだけは避けたい。


大阪の通り魔事件判決

2019年12月04日 09時00分

 テレビ時代劇では、お白州での裁きが一つの見せ場となっているものが多い。奉行が隠されていた真実に光を当て、黒幕を引きずり出す。悪事の限りを尽くした下手人に対する判決はたいてい「市中引き回しの上打ち首獄門」だった

 ▼つまりは死刑だが、執行される前と後にさらし者にされることで刑の重さが際立つ。悲惨な末路を見せることで犯罪の抑止を狙うとともに、庶民の処罰感情にも配慮していたのだろう。2012年に男女2人が刺殺された大阪・心斎橋の通り魔事件で最高裁は2日、44歳の被告の男に出されていた1審の死刑判決を破棄。2審の無期懲役が確定した。1審が社会常識に照らして刑罰を判断する裁判員裁判だっただけに、割り切れぬ思いが残る

 ▼最高裁が考慮したのは「犯行には覚醒剤中毒の後遺症による幻聴が影響した」ことや、「場当たり的で計画性が低い」こと。どちらも遺族にとって納得できる理由ではあるまい。むしろ身勝手な被告に対し処罰感情が高まるばかりでないか。死刑廃止を目指す日本弁護士連合会が10月に啓発パンフレットを作成していた。そこで死刑制度の問題を次の3点にまとめている。「生命の尊重」「誤判・えん罪の危険」「人は変わりうる」。この事件を通して見るとどこか空しい

 ▼最高裁は判決で「死刑は究極の刑罰のため適用には慎重でなければならない」と述べたという。もっともである。ただ、現行法に規定のある死刑を殊更避けようとの意図がもしあるならそれは釈然としない。庶民感覚を生かす裁判員裁判の理念にも反していないか。


ながら運転厳罰化

2019年12月03日 09時00分

 御年106歳の美術家篠田桃紅さんが以前、12月に入ったときの気持ちを随想にこう記していた。「去年も、おととしも、その前の年も、ずっと前から毎年十二月というと、あっという間に、とおんなじことを繰り返し思ってきたのだ」
 
 ▼どうやらそのあたりの感覚は優れた水墨作家も一般庶民と変わらないようだ。気付けば師走である。ことし一年もあっという間だった、とため息をついている人は多いのでないか。職場では年末までに仕上げねばならない仕事や各種経費の締め、家では本格的な降雪に向けての準備や年賀状、帰省の段取りなど何かと気忙しい。こなすべきことはたくさんあるのに、頭が追い付かないため何にも手が付けられない。それもまたよくある話である
 
 ▼「師走の手何か持たねば落ち着かぬ」林はる。居ても立ってもいられないときは、とりあえず何か手にしてみると少し焦燥感が薄らぐ。とはいえ車の運転中もスマホを肌身離さず持っていて、じっと見つめたりするのはご法度である。スマホやカーナビを操りながら車を走らせる、いわゆる「ながら運転」を厳罰化する改正道路交通法が1日施行された。違反点数は従来の1点から3点に、反則金は普通車で1万8000円になる。ながら運転による事故が増えている現状を鑑みれば当然の対応だろう

 ▼ゲームやSNSに興じながらの運転はもってのほかだが、この時期、仕事の連絡も頻繁に入ってこよう。必ず安全な場所に車を止めてから操作することを心掛けたい。もし重大事故でも起こせばことし一年どころか一生が終わる。


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