コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 171

首里城焼失

2019年11月01日 09時00分

沖縄県那覇市の首里城できのう火災が発生し、建物群の中心を成す正殿と北殿、南殿が全焼した。テレビ各局は朝から一斉に、炎を上げて激しく燃える衝撃的な映像を流していた。あまりの惨状に言葉を失った人も多かったに違いない

 ▼観光名所として知られてはいるものの、琉球民族のアイデンティティーのよりどころとなる場であり、また聖地とも呼ばれる王宮である。沖縄の方々の喪失感と悲嘆はいかばかりか。首里城は太平洋戦争末期の沖縄戦で一度焼失している。日本軍が拠点にしていたため最後の決戦地となったのだ。県民の悲願がかない復元されたのが1992年。去年11月には2年3カ月をかけた正殿お色直し、漆の塗り替えが終わったばかりだったという

 ▼県出身の画家で沖縄文化財の権威山里永吉氏は復元前、「もし首里の街が戦前のままそっくり残っていたら、沖縄は京都、奈良、日光と肩を並べる」と語っていたそうだ(『沖縄史の発掘』)。復元により並びかけたその肩がまた失われた。焼けたのは7棟、合わせて4000m²を超えるらしい。沖縄の歴史と心を取り戻そうと、資料が少ない中で県民や研究者、宮大工、職人らが長年取り組んだ末にやっと成し遂げた仕事だったと聞く

 ▼この春火災に遭ったパリのノートルダム大聖堂を思い出す。世界中が悲しみに沈んだ。ところが片付けや意匠の検討に手間取り、再建は遅れているとのこと。首里城も世界遺産の上に立つ。ここは国が主体的役割を果たすべきだろう。容易ではないが一日も早くふたたび沖縄の心を取り戻したい。


小言ばかり

2019年10月31日 09時00分

 どんなささいなことにも文句を付けずにはいられない人がいる。落語の「小言幸兵衛」はそんな人の日常を面白おかしく描く

 ▼この幸兵衛さん、朝から晩まで小言の出ない時はない。ある日、貸店の札を見て訪ねてきた人がいた。最初は丁寧に対応していたが、家族に美男子の息子がいると聞くと態度が一変。「そんな男がいたら色恋沙汰が起きる」「近所の娘と駆け落ちするに違いない」「揚げ句には心中騒動だ」。勝手に物語を作り、延々と文句を並べる。ついには「そんな奴にうちの店は貸せん、帰ってくれ」。本人は自分の正しさを毛ほども疑っていないから一層たちが悪い。幸兵衛さんはどこにでもいるが、最近はテレビで見掛けた。テレビ朝日の夜のニュースショーである

 ▼28日、番組の途中で「速報」が伝えられた。何かと思えば、河野太郎防衛相がパーティーで「私は雨男」と発言したのだとか。気象災害が続く中で不謹慎だという。「批判を受ける可能性があります」。キャスターの小言である。これだけ聞くと軽率と思う人もいよう。ただ報道されなかったものの河野氏は続けてこう語っていた。「就任後に災害が相次ぎそのたび自衛隊が頑張っている。活動に見合った処遇改善や誇りの持てる自衛隊づくりを進めたい」

 ▼伝えるなら「雨男」よりこちらの方だろう。台風の被災地千葉市の熊谷俊人市長もツイッターで、マスコミが本来の趣旨をゆがめ世論を誘導する弊害を指摘していた。自分だけが正しいと思い、文句ばかり言っていた幸兵衛さんは最後に痛い目に遭う。さて「報道」は。


インフルエンザ流行

2019年10月30日 09時00分

 もしかしてうちのお母さんには超能力があるのかも―。無垢(むく)な心を持つ子どもならそう考えても不思議はない。読売新聞の人気コーナー「こどもの詩」名作選『ことばのしっぽ』(中央公論新社)でこんな作品を見つけた

 ▼田口友哉君(当時小3)の「ねつ」である。「体があついと思って 目をさましたら お母さんが 頭をひやしてくれていた ぼくより先に気づくなんて すごいな」。友哉君もすごい。実際はその前から、お母さんは子どもの機嫌が悪かったり、顔が赤かったりするのを見てどこかおかしいと感じていたのだろう。本道のお母さん、お父さんも、そろそろお子さんの体調変化には注意をしていた方がよさそうだ。例年より1カ月早くインフルエンザの流行期に入った。道が25日、発表した

 ▼2019年第42週(10月14―20日)に道内220の定点医療機関から256の症例報告があったという。これで1医療機関あたりの患者報告数が流行の目安となる1・00を超え1・16となった。保健所別に最も報告数が多いのは江差の6・00。函館が4・80、渡島が3・57と、現在は渡島桧山地方に流行の中心があるようだ。他では帯広も4・91と多い

 ▼「風邪声の電話に風邪をうつさるる」岩切恵美子。そんなはずはないとはいえ、知らぬ間に拾っているのがインフルエンザである。まずはウイルスに負けない抵抗力をつけるのが一番。湿度の保持や手洗いも忘れずに。それでももし感染してしまったら、それ以上広げないことが大切である。「ぼくより先に」気付いてあげられるといい。


大雨被害続く

2019年10月29日 09時00分

 普段は豪胆で怖いもの知らずの人でも、家族や友人が危険にさらされたときには途端に気弱になる。人情というものだろう

 ▼小説家伊藤左千夫も随筆にこう記していた。「臆病者というのは、勇気の無い奴に限るものと思っておったのは誤りであった。人間は無事をこいねがうの念の強ければ、その強いだけそれだけ臆病になるものである」。自身が1910(明治43)年に東京大水害を経験してそう実感したらしい。左千夫は語を次ぐ。「多くの係累者を持った者、殊に手足まといの幼少者などある身には、更に痛切に無事を願うの念が強い」。台風21号と低気圧による25日の大雨で千葉や福島にまた大きな被害が出た。「臆病」にならざるを得なかった人も大勢いたに違いない。大量の水が一気に押し寄せてきたとき、大切な人を守るために避難すべきか、それともその場にとどまるべきか

 ▼今回は東北と関東の34の河川で氾濫が発生。土砂崩れも相次ぎ、合わせて千葉県で9人、福島県で1人が犠牲になった。死亡した10人のうち、5人は水没した車内に閉じ込められたことが原因という。予想を超える速さで水位が上がったようだ。どれだけ恐ろしく無念だったことか

 ▼この繰り返される災害を「インフラの限界」と片付け、思考停止に陥るべきではあるまい。今こそ「インフラの可能性」に目を向けるべきでないか。気候変動に加え、予算を削り、地域の建設業者を軽んじてきたところにも防災力低下の一因があったのだ。インフラで被害を軽減したい。大切な家族や友人をこれ以上奪われないために。


量子コンピューター

2019年10月28日 08時00分

 山登りを始めた人が最初のころに覚えておくべき知識の一つに観天望気がある。雲、風の動きといった自然現象や生き物の様子などから、これから先の天気変化を予測するいわば経験則である

 ▼「きれいな夕焼けが出ると翌日は晴れる」あたりは誰もが知っていよう。「猫が入念に顔を洗っていれば雨が近い」もよく耳にする言葉である。中には迷信にすぎないものもあるが、科学的に裏付けられ信頼に足る説も多い。実際、十分役に立つ。とはいえ登山では気象庁の天気予報と組み合わせるのが前提である。もちろん気象庁は空や猫を観察して予測しているわけではない。大気の状態や気温、風向、湿度などのビッグデータをスーパーコンピューターで処理して算出しているのである

 ▼降水の有無の的中率は今でも90%近いが、この新技術が実用化されると全ての気象現象をほぼ正確に予測できるようになるかもしれない。IT企業大手「グーグル」が量子コンピューターの超越性を実証したと発表したのである。これまでのコンピューターなら1万年かかる計算を、この量子コンピューターは3分20秒で終わらせたという。従来は順番に実行していた計算を、量子力学の「重ね合わせ」の性質を使うことで同時処理が可能になったらしい

 ▼検証方法に疑義ありとの指摘はあるものの、理論にとどまっていた技術の壁を破った意義は大きい。これが気象予測の精度を飛躍的に高め、警報や注意報をきめ細かく出せる未来になれば、今回のような台風被害もかなり減らせるに違いない。観天望気もお役御免である。


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