コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 173

日本の川

2019年10月17日 09時00分

 松尾芭蕉は弟子の河合曽良と共に奥州と北陸の地を旅し、紀行『おくのほそ道』を書き上げた。山形県新庄市の本合海から最上川船下りを楽しんだときに発した句は、作品の中でも特に有名だろう。「五月雨を集めて早し最上川」である
 ▼長雨による増水で急流となった最上川を一行の船は勢いよく下っていく。誰しもその情景が自然と目の裏に浮かぶのでないか。少なくとも句の中身にいささかの違和感も感じまい。ただ、この風情が分かるのは日本人だからこそで、世界には理解できない人も多いという。先進国が集まる欧州や北米の川はたいてい大陸をゆったり流れているため、雨が降ってもたやすく急流に変わることなどないからである

 ▼「みなきわめて暴流にして(略)川といわんよりは寧ろ瀑と称するを充当すべし」。明治政府に招かれ河川改修に当たったオランダ人土木技術者デ・レーケが日本の川を見てそう感想を語ったのもよく知られた話。つまり日本の治水はそれだけ難しいということである。残念ながらその事実を証明する災害になってしまった。宮城、福島両県にまたがる阿武隈川、長野県の千曲川、埼玉県の越辺川―。台風19号の大雨による被害は16日現在、判明しているだけで堤防決壊が7県55河川79カ所、死者は70人を超す

 ▼他にも土砂崩れ、家屋全半壊、床上浸水など、あまりの被害の大きさにその全容はいまだ判然としない。右肩下がりの治水予算だが、滝のような川と戦う日本にはもっと事業費が必要である。国によって事情が違う治水まで世界と横並びにすることはない。


日本ラグビーがベスト8に

2019年10月16日 09時00分

 いったんはソファーの背に深く体をうずめたものの、次第に背筋が伸びていき、さらに体が前のめりになり、ついには立ち上がって歓喜の雄たけびを上げる。先の日曜日にはテレビの前でそんな人が多かったのでないか

 ▼横浜市の日産スタジアムで行われたラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会の日本対スコットランド戦である。日本代表は28―21でスコットランドに快勝し、史上初のベスト8入りを果たした。試合開始後6分でスコットランドのラッセルにトライを奪われたときには頭の中に暗雲が広がりかけた。やはりこの国は倒せないのか―。ところが、だ。ここから日本は猛烈な反撃に出る。17分松島、25分稲垣、そして前半終了間際の39分福岡とトライを重ね、田村のコンバージョンゴールも全て成功。前半で21―7と相手を突き放した

 ▼松島と福岡のスピードも圧巻だったが、強力なタックルを繰り返し、難しいパスをつないで最後に稲垣がトライに持ち込んだ連携プレーには心を揺さぶられた。テレビ中継の瞬間最高視聴率が53・7%に上ったというからこれ以上は蛇足だろう。あとは決勝トーナメントで勝ちを一つ一つ積み上げるのを期待するのみである

 ▼それはそうと今回はラグビーの別の魅力にも気づかされた。選手のジェントルマン精神である。チーム最年長トンプソンが勝利後の会見で台風19号の被災者を気遣い、こう語っていた。「ラグビーは小さいこと。(被災した皆さん)頑張ってください」。災害の大きさに比べて、の意味だろう。日本代表も被災者も全力で応援したい。


セブン&アイの改革

2019年10月12日 09時00分

 どの業種かにかかわらず、商売をしている人なら実感としてお分かりのことと思う。ビジネスの世界で新たな市場を切り開いた先行者には大きな利益もあるが、同時に後を追われる苦しみもある

 ▼創業してしばらくは商品がそこにしかないため顧客を独占できるものの、儲け話には人が群がるのが世の常。まねする者が陸続と現れ、そちらの方が安く新鮮で品質の良い商品を提供するようになっていく。下克上である。そこで方向転換できれば先行者にも活路が見いだせよう。ところが既に大量の資本を投下している上、強い成功体験もあるためなかなか考えは変えられない。頑固な老艦長を頂く巨大艦船の悲劇である

 ▼セブン&アイ・ホールディングスも流通業界では先行者だっただけに、苦しい事情があったのだろうか。10日発表した構造改革によると、イトーヨーカ堂33店舗で他企業との連携や閉店を検討するほか、そごうと西武では5店舗を閉鎖。セブン―イレブン約1000店舗も閉鎖、移転するそうだ。そんなあれやこれやで2022年度までに、自然減も含め約3000人を削減するのだとか。一消費者としては寂しい気持ちがないわけでもない。ただ、昔は栄華を誇ったとしても、今の店舗が時代に遅れているなら足が遠のくのも当然だ

 ▼ことしは24時間営業に抗議するコンビニ店長の反乱と、キャッシュレス決済「セブンペイ」大失敗もずいぶん世間を騒がせた。経営陣が批判されるのも仕方あるまい。改革はかつての先行者が挑戦者としてやり直す決意の表れだろう。今度は追う立場である。


ノーベル化学賞に吉野彰氏

2019年10月11日 09時00分

 日本代表の連勝で連日盛り上がりを見せているラグビー・ワールドカップ日本大会だが、ルールに関しては今回初めて知った人も多いのでないか

 ▼誰もが最初に覚えるのはたぶん、前にボールを放ってはいけないというルールだろう。前へのパスはもちろん、落とすのも反則だ。キックで一気に進む戦術もあるが確実性には欠ける。選手たちは基本、後ろに展開する仲間に次々とパスを渡しながら地道に前進していく。トライを決めるのは一人でも、後ろにはそれを支える多くの人がいるわけである。ノーベル賞も同じに違いない。ことしの化学賞がリチウムイオン電池を開発した旭化成名誉フェローの吉野彰氏に贈られると決まった。吉野氏も家族や会社、同じ志を持つ研究者に支えられてここまできたようだ

 ▼今回は電池の基本構造とプラス電極を考案した米国の教授2人と共に受賞している。吉野氏は1985年にマイナス電極の素材として特殊な炭素材料が有効なことを発見し、商品化と普及に道を開いた。その結果がモバイルICT時代の到来である。持ち歩けるパソコンやスマホは、生活や仕事の在り方を変えてきた。今後も電気自動車や再生可能エネルギーの蓄電にと、応用領域の拡大は続く

 ▼これで日本人の受賞者は27人。24人が科学分野だ。08年以降はほぼ毎年である。吉野氏はサラリーマン研究者。日本の科学、産業界のすそ野が広いからこその快挙だろう。ただ、受賞者が皆指摘するように、政府の科学分野へのてこ入れは弱い。後ろに広がるウイングがボロボロになる前に手を打たねば。


国会の代表質問

2019年10月10日 09時00分

 激動の19世紀後半から20世紀初頭にかけて、世界を動かしていた人物たちは何を考えていたのか。その肉声を集大成した『インタヴューズ』(文藝春秋)という本がある。本編もさることながら、序文に書かれたある種インタビューの本質に触れる一節が面白い

 ▼識者のこんな意見が紹介されているのである。「彼(インタヴュアー)は、嘘つきと偽善者を作りだす潜在能力において、他のだれにも引けを取らない」。インタビュアーは事前に想定した通りの物語に仕立てようとし、答える側は自分に都合のいいことしか話さない。そう言いたいのだろう。これまで多くの人にインタビューしてきた者として耳が痛い

 ▼今回の国会の代表質問を見て、その意見を思い出した次第。例えば7日の枝野立憲民主党代表の質問である。台風15号を巡る政府の対応や関西電力役員の金品受領、あいちトリエンナーレへの補助金不交付など、どれも最初から政府は責任を果たしていないとの結論ありきで話が出来上がっていた。安倍首相の答弁も案の定、通り一遍のものでほとんど耳に残らない。枝野氏は質問後の会見で「日本語が理解できてないんじゃないか」とやゆしていたが、インタビュアーとしての力不足を自覚した方がいいのでないか
 
 ▼一方で林自民党幹事長代理は政府をほめるだけで、安っぽいCMを見せられている気分になった。こちらも到底有能なインタビュアーとはいえまい。国会の小さなコップの中でいがみ合っているからこういうことになる。国民は物語を聞きたいのではない。事実を知りたいのだ。


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