コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 245

エネルギー戦略

2018年04月12日 07時00分

 小学生の時、冬になると学校ではクラスごとに回り番を決め、大きな石炭庫までストーブ用の石炭を取りに行ったものだった。1960年代のことである

 ▼家も同様で、秋の終わりには物置に一冬分の石炭が運び込まれた。地域によって違いはあろう。筆者は空知地方出身のため石炭が身近な資源だったのである。照明やテレビは電気、煮炊きはガス、暖房は石炭。それが当時の家庭の一般的なエネルギー構成だった。資源エネルギー庁によると、家庭での消費割合は65年の電気23%、ガス27%、灯油15%、石炭35%から2011年の電気51%、ガス30%、灯油18%、太陽光等1%、石炭0%へと大きく様変わりしている。電気依存度が高まっているのは多くの人の実感するところだろう

 ▼家庭に限らない。現代はあまねく電気仕掛けの世の中である。それ故将来にわたって電気の安定確保は極めて重要。経済産業省の有識者会議が10日まとめた50年までの長期的エネルギー戦略提言案はその道筋を示すものだった。提言の柱は太陽光や風力など再生可能エネルギーの主力電源化。脱原発依存や温室効果ガス削減を実現するにはそれしかないらしい。ところが15年の電力量は再エネが全体の5%足らず。主力のLNG44%、石炭32%には遠く及ばない

 ▼さて、あと30年あまりで主力と呼べる2桁割合を確保するだけの技術革新と制度改善を期待できるかどうか。何とか主力電源に引き上げられたとしても、電気代が驚くほど跳ね上がってしまうなら、石炭を物置から運び出す時代に逆戻りしたくなるかもしれない。


伝えられぬ国会質疑

2018年04月11日 07時00分

 童謡詩人金子みすゞは代表作「星とたんぽぽ」で、「見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ」と歌っている。題名でも分かる通りみすゞは、昼の星や春が来るまで隠れているたんぽぽの根を思い描いた。ところで「見えぬけれどもある」ものはもちろんこれだけではない

 ▼おとといも一つ、そんな例にお目にかかった。それは国会の参議院決算委員会での質疑。叙情性のかけらもなく恐縮ではあるが。最初に質問した自民党の西田昌司議員が、経済再生とデフレ脱却のための財政出動について安倍首相に答弁を求めたのである。この一連のやりとりを新聞やテレビで見てつぶさに知っている、という人はほとんどいないのでないか

 ▼マスコミは財務省の決裁文書書き換えや陸上自衛隊のイラク派遣日報隠蔽(いんぺい)問題にばかり注目しているため、報道する価値なしと判断したのに違いない。これでは質疑そのものがなかったように見えるが、実際はあったのである。しかも重要な内容を含む。首相はこう答えた。「公共事業に悪いイメージを持つ人はいるが、インフラ整備は未来への投資で次の世代に引き渡す資産」「借金をすると必ず次の世代に負担になるとの考えはやめた方がいい。未来を切り開くことを考えねばならない」

 ▼忘れてならない基本だろう。日本はこれまで計画的な財政出動でインフラ整備を進め、未来を先取りしてきた。過度な緊縮財政ゆえに今それをためらえば、疲労劣化した日本を次の世代に残す羽目となるのは確実。これこそしっかり議論すべきことなのだが。


登竜門

2018年04月10日 07時00分

 古代中国の故事を元にした言葉の一つに、今でもよく使われる「登竜門」がある。竜門とは文明発祥の母体となった黄河の上流にあるとされる激しい急流。そこをさかのぼることのできたコイは竜になると信じられていたため、成功するには越えねばならぬ難関を意味するようになったとか

 ▼この故事が日本に伝えられて庶民の「節句のぼり」の風習と結び付き、「こいのぼり」に形を変えたのはご存じの通りである。端午の節句にはまだ1カ月ほどあるが、気の早い店が飾り始めたのを見たからかもしれない。北海道日本ハムファイターズの黒からエンゼルスの赤へと、まとう色を変え勢いよく米メジャーリーグの急流を登っていく姿が伸び伸びと空を行くこいのぼりのイメージと重なった。大谷翔平選手のことである

 ▼現地時間1日に投手としてマウンドに立ち、開幕初登板で初勝利。続く3日、4日、6日の3試合では打者として連続本塁打を記録し、8日には再び投手に転じて12三振を奪い2勝目を挙げた。試合映像を見ると、米選手は手前で鋭く落ちる大谷選手のスプリットにまるで歯が立たないようだ。力まず軽々と本塁打を放つバッティングも見事というほかない。いやはやこれほどとは

 ▼この活躍に興奮冷めやらぬ人も多かろう。泣く泣く米国に送り出した本道のファンならなおさらである。ただし試練はこれから。他球団は徹底して研究、攻略をしてこよう。まあ、心配はいるまい。まだ若い上に勉強熱心。どれだけ伸び代があるか想像もつかない。竜になってもさらに成長は続くのでないか。


イラク派遣日報

2018年04月07日 07時00分

 年配の方はよく覚えておいでだろう。時事問題を織り込みながらウクレレをかき鳴らして笑いを取った漫談家牧伸二さんの決まり文句は「ああやんなっちゃった ああ驚いた」だった

 ▼国民の心境も今、それに近いのでないか。財務省の決裁文書書き換え問題の熱も冷めやらぬうち、今度は陸上自衛隊のイラク派遣日報隠蔽(いんぺい)疑惑が出てきたという。政府はおたおた、野党は息巻きで国会の開店休業が続く。今回焦点になっている日報は、昨年2月に当時の稲田朋美防衛相から探すよう指示され、調査の結果、存在しないと陸上幕僚監部が正式に報告していたものである。ところが翌月には既に見つけていたのに、ことし3月までだんまりを決め込んでいたらしい

 ▼安易に忖度(そんたく)だ何だと言うつもりはないが、防衛行政の根幹を担う組織として実にお粗末というほかない。立憲民主党など野党6党は官僚の隠蔽体質を一斉に批判。政府の対応次第では国会審議も拒否し徹底抗戦する構えという。真相解明は当然だが、それにしてもである。この1年、国会が正常に機能し、本当に大切な問題が話し合われたことがあったのだろうか。国会議員は国民を代表して国のために働く人とばかり思っていたが

 ▼牧さんの歌はもう聴けないため、せんえつながら当方が勝手に新ネタを作らせてもらった。ウクレレを想像して口ずさんでいただければ幸いである。「政府は問題見ないふり 野党は逆転の倒閣夢見 官僚はいつも身内を見 国民はまたも馬鹿を見る ああやんなっちゃった ああ驚いた」。


入場料6000円

2018年04月06日 07時00分

 価値は相対的なものだとあらためて考えさせられた。京都高島屋で一体12万円以上する限定人形100体が一人の男性客に買い占められた先月の一件のことである

 ▼その後ネットで再販されていると分かったため最初から転売目的だったとの見方が有力らしい。要はもっと高くても欲しい人はいたということだろう。人形の写真を見たが当方は興味がないため1円でも買わない。価値は人によって随分と違うのである。では、この6000円を国民はどう見るか。高い、それとも安い? 自民、公明の両党がカジノを含む統合型リゾート(IR)の入場料を1回6000円とすることで合意したそうだ。自民案の5000円に対しギャンブル依存症を懸念する公明は8000円以上を主張。結果、6000円で折り合ったのだとか

 ▼バナナのたたき売りじゃないんだから、と苦笑した人も多かろう。もっともどう設定しようとギャンブルに関心のない人は一銭も出さないし、依存症なら幾ら高くても払うに違いない。作家沢木耕太郎が若き日のカジノ経験を『深夜特急1』(新潮文庫)に記している。元来ギャンブルなどしない氏だが、マカオを旅した際、軽い気持ちでカジノに足を踏み入れたらしい

 ▼どうなったか。「五ドルで充分遊ばせてもらったのだからそろそろ切り上げて帰ろう。そうは思うのだが、意志とは反対に体がいうことをきかない」。瞬く間に数百ドルが消えたそうだ。依存症対策は入場料や回数制限だけで済むことではあるまい。軽く見ているなら、政府の価値も大いに下がることになろう。


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