コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 247

国会での茶番劇

2018年03月29日 07時00分

 童話『クマのプーさん』を書いたA・A・ミルンは、警察の訪問を受けた日のことをエッセイに記している。突然だったがいずれ逮捕される日が来るとは思っていたそうだ

 ▼自分は悪い事をしたように見えやすいと自覚していたからである。自意識過剰な人なのかもしれない。「メロドラマの主人公は劇のどこかで不当告訴に遭うことになっている」とも述べていた。実は窓の閉め忘れを指摘に来ただけだったのだが。さてこの人は悪い事をしたようには見えないものの、いんぎん無礼な態度が少々あだになったか。佐川宣寿前理財局長のことである。いわゆる「森友文書」書き換え疑惑の主人公としておととい、国会の証人喚問に呼ばれた。本人としては不当だと考えているのでないか

 ▼もっともこちらは心揺さぶられるメロドラマでなく、演技がまるでかみ合わない茶番劇といったところ。佐川氏が「刑事訴追の恐れがあるためお答えできません」と言えば、野党が「疑惑は深まった」と息巻く。話にならない。ともあれ、もういいかげんにしてほしい。この1年の国会の機能不全は目に余る。「森友」にせよ「加計」にせよ、野党は一地方の民事案件を安倍首相の首を取れるとばかりに政治利用して大騒ぎ。国内の深刻な課題や目まぐるしく動く国際情勢には頬かむりだ

 ▼安倍政権にもおかしな点はあろう。だからといって政治を停滞させていては重要案件が全く前に進まない。国会議員は与野党とも大いに反省すべきである。もうすぐ年度替わり。国の新年度予算もきのう成立した。そろそろ潮時だろう。


ヒーローに自分重ね

2018年03月28日 07時00分

 若者が「ししゃも」について話すのを聞いて、「あれおいしいよな」と口を挟んだらきっと笑われる。十中八九、最近流行の女性3人組みバンド「SHISHAMO」のことだろう。等身大の生活を歌って共感を得ているようだ

 ▼ヒットした曲の一つ『明日も』にこんな歌詞があった。「良いことばかりじゃないからさ/痛くて泣きたい時もある/そんな時にいつも/誰よりも早く立ち上がるヒーローに会いたくて」。働いていても学校に行っていてもつらいことや苦しいことはいくらもある。そんなときに精いっぱい頑張っている人を見ると、元気や勇気をもらえると伝える内容だ。実感としてよく分かる。最近なら韓国の平昌五輪から休みなく活躍を続けるスポーツ選手がぴったりこよう

 ▼ジャンプ女子の高梨沙羅選手もその一人。24日にはワールドカップ(W杯)第14選で今季初優勝し、男女を通じW杯歴代単独最多となる通算54勝の快挙を成し遂げた。翌25日にも勝利を挙げ、55勝まで記録を伸ばしている。スピードスケート女子の高木美帆選手は18日にW杯今季日程を終え、全種目での総合優勝に輝いた。さらにノルディックスキー複合の渡部暁斗選手も同じ18日、日本人としては23季ぶりとなるW杯総合優勝を決めている。五輪出場選手に限らない。記録を塗り替える選手が毎日のように現れこちらの気持ちに活を入れてくれる

 ▼歌の主人公たちは繰り返し自らにこうエールを送っていた。「ヒーローに自分重ねて/明日も」。重ねられるヒーローがこんなにもたくさんいる今の、何と幸せなことか。


貿易戦争

2018年03月27日 07時00分

 高度成長期にユーモア交じりのサラリーマン心得を語り、人気を博した作家に山口瞳がいる。紳士の条件にも一風変わった持論があったようだ。『礼儀作法入門』(新潮文庫)でこう主張していた

 ▼「私は『鴨』になりたくない。そうして、いつでも、若い人に向かって、君が男なら、『鴨』になってはいけないと呼びかけたい気持ちになっている。男はギャンブルに強くなければいけない。勝たなくてはいけない」。いかにも日本が好景気に沸いていた昭和中期の雰囲気をよく伝える言葉ではないか。今の若者にこんなことを熱く語った日には、「うざ」がられた上に要注意人物として警戒されること間違いない

 ▼ところが海の向こうにこれを現在も地でいく人がいた。他でもない。米国のトランプ大統領である。貿易相手国にこれ以上「かも」にされるのはまっぴら御免とばかりに、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の高関税を課す輸入制限措置を発動したのだ。主な対象国は中国、ロシア、そして日本である。発動が伝えられると株価は世界中で一斉に下落。各国から保護主義を強める米国への批判と貿易戦争を危惧する声が続出した。トランプ氏との蜜月を演出していた安倍首相にとっては腹に一撃食らったようなものだったろう

 ▼今回の強硬策は11月の中間選挙対策との見方が強い。負けると任期後半は死に体に陥るため必死である。『トランプ』(文藝春秋)に氏のこんな答えがあった。「勝つためなら何でもする」。仕事について聞かれた時のことだ。紳士というよりは、やはり要注意人物の方か。


140年の電灯

2018年03月26日 07時00分

 日本の治安が諸外国に比べて良い理由の一つには、人家のある所なら全土ほぼくまなく街灯が整備されていることも挙げられよう。「夜陰に乗ずる」のが悪事をたくらむ者の習性。道々を照らす明かりは物言わぬ用心棒である

 ▼きのう25日はその街灯の先駆けとなったアーク灯が日本で初めて実験的に点灯されて140年の節目だった。「電気記念日」はこの日を記憶にとどめるため日本電気協会が定めたものである。街灯の第1号はそれから4年後の1882(明治15)年、銀座2丁目の大倉組(現大成建設)事務所前でともった。東京電灯の発起人の一人大倉喜八郎が実演と宣伝を兼ねて設置したという。市民と電気との出会いである。夜の街を昼間のように照らす電灯に、見物に集まった人々は大いに驚いたらしい

 ▼光から動力へと電気の応用は一足飛びに進んだ。今ではあって当たり前。ただし肝心の発電は東日本大震災で福島第1原発が事故を起こして以来、迷路に入ったまま出口を見つけられずにいる。今月は関電大飯、九電玄海と原発再稼働が相次いだが、北電泊をはじめまだ多くの原発は止まったまま。天候に左右される太陽光や風力はベース電源として使えず、火発は地球温暖化や老朽化におびえながらフル稼働を続ける

 ▼一方で電気自動車への傾斜が強まるなど需要は衰えを知らない。若葉は次から次と出てくるのに根や幹は枯れるに任せているようなものだ。140年前と変わらず石油資源に乏しい今の日本にとって生命線は電気である。そろそろ本腰を入れて発電の問題に取り組まねば。


ある教育講演会

2018年03月23日 07時00分

 学校には少しおかしなところがある、と思うことが大人になってから度々あった。絵本作家五味太郎さんもそうだったらしい。『さらに・大人問題』(講談社)でこんな話を紹介している

 ▼子どもの事件が相次いだことを受け、ある中学校が悩み相談室を設置した。ところが誰も相談に来ない。学校はせっかく作ったのだからと「不良」の生徒を強制的に呼び付け指導を開始。県には設置の効果ありと報告したという。五味さんはこう嘆く。「気の毒なのは、そんなキャッチバーみたいなカウンセリングルームに引っかかってしまった生徒たちです。『せっかくですが、ご遠慮します』とは言えない立場なので、ただ大人たちにもてあそばれてしまいます」

 ▼それと本質が変わらないように見えるのは筆者だけだろうか。前川喜平前文部科学事務次官が名古屋市立中の全校一斉総合授業で講演した一件のことである。大人相手の講演なら誰に気兼ねすることもないが、授業では生徒が遠慮したくともそうはいかない。前川氏といえば文科省の組織的天下りに主導的役割を果たし、国家公務員法違反で同省を追われた人物である。昔の話ではない。ほんの1年前のことなのだ

 ▼学ぶべき価値ある人生を歩んできた人は世に数多くいよう。なのになぜよりにもよって法を破り、社会的公平を踏みにじった前川氏を生徒の前で語らせねばならなかったのか。一人の親として理解に苦しむ。今回の件では政治家や文科省の教育現場への介入も懸念されているがもっともだろう。ただその前に、かの現場の鈍感さを深く憂う。


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