コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 246

見つけた宝物

2018年04月05日 07時00分

 子どもは宝物を見つける天才である。道端でキラキラ光る金属の破片を拾ったり、林の中でチャンバラにぴったりの枝を発見したり

 ▼ヤンソンの『たのしいムーミン一家』(講談社文庫)にも、海岸で宝探しを楽しむこんなシーンが出てくる。「みんなは、どんなものが流れついているかと、てんでにさがしにかかりました。これは、このうえもなくおもしろい仕事でした。とてもおかしなものが見つかるからです」。台湾の小学生が先月27日、海岸で見つけた海藻と貝殻にびっしり覆われた物も、一見何だか分からない「とてもおかしなもの」だった。貝などをはがしてみると正体は防水ケースに入ったカメラ。長らく海に漬かっていたはずだが、どこも壊れていなかったそうだ

 ▼ニュースでご覧になった人もいよう。ここからの展開が素敵なのである。大切な思い出を返してあげたい―。そう考えた児童と担任教師は、中の画像とともに経緯をフェイスブックに投稿。その日のうちに持ち主が見つかったという。それは東京都在住の女子大生。石垣島でスキューバダイビングをしている際に、誤って流してしまったのだとか。驚いたことに2年半前の事らしい。海流は真っすぐ台湾に向かっていないというが、どこをどう運ばれたものか最終的に200㌔離れた優しい子どもたちの足元に漂着したのである

 ▼女子大生の思い出が詰まった宝物が海で発見されて子どもたちの宝物になり、そこから温かな交流の宝物が生まれた。宝物がどんどん増えていく。ムーミン谷でもこんな不思議な話はめったにあるまい。


日高晤郎さん死去

2018年04月04日 00時00分

 あの独特の節回しで歌うエンディング曲「街の灯り」がもう聴けなくなるなんて―、と悲しく思う人はかなり多いだろう

 ▼STⅤラジオ土曜日の名物生放送番組『ウィークエンドバラエティ 日高晤郎ショー』のパーソナリティー日高晤郎さんが3日、悪性腫瘍により亡くなった。74歳だったという。病気など、お得意の毒舌でやっつけてしまいそうな人だっただけに意外の念が強い。あまりにも早過ぎるのでないか。ショーが始まった1983年から昭和天皇崩御で番組自体がなかった日を除きことし3月まで35年間、1回も休むことなく毎週ほぼ9時間の生放送を続けてきた。人気コーナーが数々ある。例えば歯に衣着せずニュースを斬る「朝刊ひろい読み」、身近な出来事を伝える「10時のうちあけ話」、道内で人知れず頑張る人を紹介する「北の出会い」

 ▼いつも軽妙なおしゃべりに笑わされ、人情味あふれる話に泣かされた。それが味気ない車での移動をどれだけ楽しく有意義な時間にしてくれたことか。ラジオを離れてもディナーショーや舞台で歌い、また語りと活躍の場を広げていた。まさに本道を代表するエンターテイナーの一人である。日高さんは「芸人」と呼ばれた方がうれしいかもしれないが

 ▼06年10月7日のラジオを聴いて思わず書き留めたメモが手元にある。こんな言葉である。「命ってものは神様からのいただきものだ。しかし、その命をいただいて、あとどう使って生きていくかってことは自分でやらなきゃいけない」。それを身をもって示し続けた生き方だった。ご冥福を祈る。


日本の将来人口

2018年04月03日 07時00分

 大事な試験を控え勉強に本腰を入れねばならないのに、だらだらと先延ばしにした揚げ句直前になって慌てて一夜漬け―。ほめられたことではないが、ほとんどの人が身に覚えのあることだろう

 ▼試験に限ったことではない。ダイエットや禁煙も同じである。この一箱を吸い終わったら本気出して始めるぞ。きょう目いっぱいケーキを食べたらあしたからは頑張れる。かくしてあしたはあさってになり、さらにまた…。ところで米国の行動経済学者ダン・アリエリー教授は、課題提出を先延ばしする学生にはいつも感心させられるそうだ。それは「遅れたわけを説明するために、つくり話や言いわけや家族の不幸をでっちあげる創造性を持ちあわせているから」(『予想どおりに不合理』早川書房)。もちろん皮肉である

 ▼日本の人口減対策もまた、おしなべて先延ばしの感が強い。しかも言い訳が次から次と出てくる。いわく、財政不足で予算を回せない、高齢化の進行が速すぎる、子どもは工場生産品とは違う。国立社会保障・人口問題研究所が先頃、深刻な推計を公表した。日本の総人口は2045年に15年比16.3%減の1億642万人となり、7割を超える市区町村で2割以上人口が減るというのだ。本道はさらに勢いが急で25.6%減の400万人。3分の2以上の市区町村が5000人未満に陥るとのこと

 ▼対策を先延ばしにした将来の姿である。もう猶予はない。少子高齢化の歯止め、地域の立て直し、デフレ脱却。創造性は言い訳のためでなく、効果ある具体策を実行するためにこそ使いたい。


新1年生を事故から守る

2018年04月02日 07時00分

 新1年生だろう。朝の通勤途中に小学校へ通う練習をしている様子の子どもたちと度々すれ違うようになった。ランドセルは本番までとってあるのか、体と対比すると大き過ぎるリュックを背負い、一人で、またときには友達と一緒に元気よく歩いていく

 ▼まだ早い時期には母親が付き添っている姿も見掛けたが、最近はほとんど子どもたちだけだ。だいぶ慣れたのかもしれない。入学式は今週6日。もうすぐである。新入学と聞くと、大野咲椰さん(小1・当時)のこんなかわいい詩を思い出す。「あのね すごく どきどき してたの だって みんなに給食を つくってあげるのかと おもってたから」(『ことばのしっぽ』中央公論新社)。これからいろいろなことを覚えていくのだ

 ▼給食はもちろん、新しい友達との出会い、世界を広げる勉強など子どもにとって学校は胸躍る場所に違いない。一方で親御さんらは毎日、無事家に帰ってくるまで気が気ではなかろう。中でも一番の心配は交通事故である。道警本部が過去5カ年の統計を基に「小学生の交通事故実態」を調べたところ、学年別で小1の傷者数が最も多いと分かったそうだ。先月公表していた。全学年合計1737人のうち318人が小1という

 ▼事故内容の分析から道警は「男子」「6―7月」「通学時間帯」「飛び出し」「自宅から500m以内」に特に注意するよう呼び掛けている。ただ父母がずっと見ているわけにもいかない。6日からは「春の全国交通安全運動」も始まる。地域全体で子どもたちを守る機運を高めたいものだ。


倶知安が全国1位

2018年03月30日 07時00分

 この時期になると、家庭菜園が気になってうずうずしている人も多いだろう。良い種や苗が手に入るだろうか、土の状態は―。出来は支度次第なだけに最初が肝心だ

 ▼チェコの作家カレル・チャペックも『園芸家12カ月』(中公文庫)にこう書いている。「未来は芽の姿でわたしたちといっしょにいる。いま、わたしたちといっしょにいないものは、将来もいない。芽が私たちに見えないのは、土の下にあるからだ」。種が健やかに過ごせる環境が土の中にあり、十分に栄養を得られて初めて発芽する。土づくりをおろそかにしては元気な芽など出ないし、未来もほほ笑まないというわけ

 ▼まちづくりも同じでないか。国土交通省が27日発表した公示地価を見て、そんなことを考えさせられた。住宅地と商業地、どちらも上昇率全国1位が倶知安町だったからである。今や押しも押されもせぬ訪日外国人のメッカ、ニセコ地区を擁する本道の一大観光拠点だが、恵まれた自然と運だけでここまで来れたわけではない。ニセコを愛する人々が丹精込めて育ててきた結果なのである。筆者も40年近く前からスキーや登山で訪れているが、そのころから居心地の良い喫茶店や民宿が幾つもあった。当時決して条件は良くなかったはず。それでも「土作り」を始めている人はいたのである

 ▼この滋養豊かな土があったからこそオーストラリア人ら訪日外国人も芽を出すことができたのだろう。未来にこれだけ大きな実を付ける営みが過去あった事実を知ると、地域にほれ込む人がいることの大切さを思わずにはいられない。


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