コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 254

名護市長選挙

2018年02月06日 07時00分

 いつのころからだろうか。「オールジャパン」が「日本の総力を挙げて」の意味合いで使われるようになったのは。昔から単に全日本を表す言葉としては普及していた。ただ国際大会で日本の結束や一体感を強調する用語としては使われていなかったように思う

 ▼サッカーのワールドカップやワールド・ベースボール・クラシックで日本代表が活躍し始めたころからだった気もするが、はっきりしたことは分からない。結束や一体感を意味する「オール」が気になったのは、おとといの日曜日に投開票が行われた沖縄県名護市長選挙の報に触れたからである。翁長雄志知事らが先頭に立ついわゆる「オール沖縄」の応援を受けて戦った現職の稲嶺進氏が敗れ、自民、公明両党が推薦した新人の渡具知武豊氏が勝利を収めた

 ▼得票数は稲嶺氏の1万6931票に対し、渡具知氏が2万389票。投票率76.9%でこれだけ大きな差がついたわけだから、今回、稲嶺氏側に「オール」の実態はなかったということだろう。辺野古基地問題に翻弄(ほんろう)される市民の心は複雑だったに違いない。『平成川柳傑作選』(毎日新聞出版)にこんな句があった。「本当は支持率じゃなく期待率」マーちゃん。政治全般に言えることだが選挙も同じである

 ▼市民は基地問題より身近な市政を重視する渡具知氏に期待したわけだ。市民の選択に早速けちをつける政治家やメディアもあるようだがやめた方がいい。結束の「オール」も行き過ぎてオール・オア・ナッシング(全てか無か)になるなら、民主主義は健全さを失う。


河野外務大臣

2018年02月03日 07時00分

 旧佐賀藩士で1871(明治4)年に政府の外務卿となった副島種臣は、外交交渉に優れた人物であったらしい。占部賢志中村学園大教授が以前、雑誌『文藝春秋』に寄稿した一文を読んだことがある

 ▼こんなことがあったそうだ。副島が清国を訪問した際、各国の公使が国際儀礼無視の古式な礼を強いる清国に困っているのを知った。そこで副島が談判に乗り出し、清国に国際常識と信義の大切さを説いたのである。かたくなな清国に対し副島は一歩も引かない。交渉は1カ月余り続いたという。ついに皇帝との謁見(えっけん)を拒否して帰国する決意を示した副島に清国が折れ、やっと解決したのだとか。その胆力に「欧米だけではない。当の清国までが敬意を表した」と中村教授は記す

 ▼明治時代中後期に欧米列強との不平等条約改正を実現させた陸奥宗光や小村寿太郎もそうだが、日本の外交史には時折り傑物ともいえる外務大臣が現れる。さてこの人はどうだろう。今の河野太郎外務大臣のことである。昨年8月の就任から半年、世界を縦横に駆け回り、「意外にも」と言っては失礼だが抜群の存在感を放っている。ことしに入ってからだけでもパキスタン、ミャンマー、中東、カナダ、中国と大臣室の席が温まる暇もない

 ▼つい先日の中国では関係改善に努める傍ら、硬い表情で知られる女性報道官華春瑩氏と二人で笑顔の写真を撮りツイッターに投稿。皆をあっと言わせた。行動力に加えてSNSでの発信力も河野氏の強みだろう。副島ほどの実績はまだないが不思議と期待したくなる人である。


自立支援施設で火災

2018年02月02日 07時00分

 おとといからきのうにかけての深夜、消防車のサイレン音に不安を感じた札幌市民は多かったろう。西区に住む筆者も0時半頃から鳴り始めたその音を聞いていた。すぐに消防出動情報につないでみると、東区北17東1で火災発生とのこと

 ▼距離が離れている割には随分とサイレンがけたたましく響く。少し気にはなったものの、規模の大きな火災のためこちらの区からも応援が出たのかもしれぬと考えつつ就寝した。その時、何が起こっていたか。朝のテレビニュースがトップで伝えているのを見て分かった。生活困窮者のための自立支援施設「そしあるハイム」の内部が全焼し、入居者16人のうち男女合わせて11人が亡くなったのである

 ▼施設は支援事業所が借りていた木造3階、延べ約400m²の元旅館だそうだ。頼る人もないまま身を寄せ合うように暮らしていた入居者を突如襲った不幸。深夜でもあり、高齢者も多かったため容易には逃げられなかったのだろう。実に痛ましい出来事というほかない。昨年10月に施行された「住宅セーフティネット法」改正法により、民間賃貸住宅、空き家を高齢者や低所得者らのために利用する動きがこれから本格化する。今回の元旅館のように使われなくなった建物を福祉関連施設として転用する事業も近年増えてきた

 ▼既存ストック活用や生活困窮者の支援、防犯のためには有効な手法に違いない。ただ、取り組みを急ぐあまり防災がおざなりになるのでは困る。適切な施設管理と利用者の意識啓発、手間も費用もかかることだがそれだけは徹底してほしい。


受動喫煙対策

2018年02月01日 07時00分

 さて、問題である。この一文は何について書かれたものだろう。「飯を食うと米の飯が妙に苦くて脂を嘗めるようであった。全く何一つとして好いことはなかったのに、どうしてそれを我慢してあらゆる困難を克服したか分りかねる」

 ▼つらい闘病生活に耐えたのかと思えばさにあらず。実はたばこが吸えるようになるまでの経験を吐露したものである。愛煙家の物理学者寺田寅彦が随想「喫煙四十年」に記している。その困難をついに克服した結果、たばこは「実に忘れ難い不思議な慰安の霊薬」とか、吸わない人は「眼の明いているのに目隠しをしている」とまで考えるようになるのだから随分と変わるものである。たばこを吸う人なら寅彦の言に深くうなずいているに違いない

 ▼ところでそんな愛煙家の人々は今、やきもきしながら事の成り行きを見守っているのでないか。次第に狭まってくるたばこ包囲網のことである。厚生労働省がおととい、受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の原案を公表した。医療機関・小中高大学・官公庁の敷地内、事務所・ホテルの屋内での禁煙は従来検討されていた通り。注目は飲食店で、新規や大手は禁煙とする一方、小規模店は喫煙を認めることにした。さて国民はこれをどう見るか

 ▼2017年の喫煙率はJTの調査で男性28.2%、女性9%。65年に比べ男54.1ポイント、女6.7ポイント減である。それだけ病気の元だ不快だと煙を嫌う人も増えているはず。今回小規模な飲食店は逃げ道として残されたが、「不思議な慰安の霊薬」に頼る人々の立場はますます弱い。


送電線のリダンダンシー

2018年01月31日 07時00分

 おととし8月の台風で道央圏と道東圏を結ぶ国道274号日勝峠が寸断されたとき、NEXCO東日本の道東自動車道が代替路として大きな役割を果たしたのはまだ記憶に新しい

 ▼緊急搬送、物流、観光―。もし代替路がなければ、と想像すると今更ながらぞっとする思いである。リダンダンシー(冗長性)が有効に機能した好例だろう。こちらはダメでもあちらは大丈夫。インフラを整備する上での基本思想である。インフラは生命維持や経済活動など人間社会を支える土台のため、何らかの事情でその機能が停止すると生活に多大な影響が出る。道路の例を挙げたがもちろんそれだけに限らない。電気も同じだろう

 ▼そこでどうも違和感を感じずにはいられないのが、月曜からテレビや新聞が盛んに取り上げている送電線利用率のことである。ニュースを聞くと大要こんな具合だ。「電力会社の利用率がおおむね20%未満なのに、空き容量なしとの理由で再生エネルギー事業者の接続を認めないのはおかしい」。はて、リダンダンシーの視点はどこに―。例えば単純な2回線の送電線であれば常に半分は緊急時用に空けてある。つまり設備に対する利用率は最大で50%。この余裕が安定供給を担保しているのである。あと80%使えるわけではない

 ▼平均が20%未満でもピークが50%近いなら容量はギリギリ。多くの命を危険にさらす冬場の大規模停電など考えたくもない。送電線運用の工夫を訴えることは大切だろう。ただリダンダンシーの視点を欠いては電力に対していらぬ誤解を生んでしまうのでないか。


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