コラム「透視図」

詰め合わせ

2016年01月16日 08時50分

 ▼江戸末期の歌人橘曙覧の歌集『独楽吟』に、「たのしみはたのむをよびて門あけて物もて来つる使ひえし時」がある。思わぬ贈り物が家に届いたときの喜びを歌ったらしい。当時の贈答品が何だったかは分からないが、今の歳暮や中元なら、詰め合わせが一般的だろうか。食べ物であれば単品でもおいしいものが幾種類か入っているのだからうれしい。ふたを開けたときの見た目の華やかさも楽しいものだ。

 ▼芸能界のアイドルグループも、そんな詰め合わせの妙があるのではないか。浮き沈みの激しいこの世界で、長年、人気「商品」であり続けるには、単品での魅力を増しながら全体の価値を上げていく工夫がいる。成功例の代表格は「世界に一つだけの花」などのヒット曲で知られる男性5人グループ「SMAP」だろう。現在もテレビはじめ各方面から引っ張りだこの彼らだが、13日にスポーツ紙が解散説を報じた。降って湧いた情報にはファンのみならず、多くの人が驚いたようだ。

 ▼ことしはCDデビューから25周年だそうである。ファン層が幅広いのもうなずける。テレビで見ない日はないくらいの活躍ぶりだから、もし本当に解散ということになれば、惜しむ声があふれるに違いない。分裂、離党、新党結成と、何やら忙しく派手な動きを見せている割に国民から冷めた目で見られている政界の住民には、うらやましい話だろう。与党と並び立つ存在感もないのでは新党も空しいのではないか。単なる寄せ集めを詰め合わせただけでは、もらってもうれしくない。


きのうの地震

2016年01月15日 08時51分

 ▼きのうの地震には少なからず肝を冷やした。札幌市中央区の本社にいたが昼休みのため気を緩めていた。そんなところに突然鳴り響いた緊急地震速報である。直後に大きな揺れが来た。何もできぬまま、ただ揺れが収まるのを待った。震源は浦河沖約50km、マグニチュードは6・7だったという。札幌は震度4だったが、函館市、浦河町、様似町、新冠町、東通村(青森県)では震度5弱を記録したという。

 ▼釧路支社で勤務していた時、釧路沖地震(1993年)と北海道東方沖地震(94年)を相次いで経験した。どちらも震度6である。そんな大きな地震は初めてだったから、ひどく動揺したことを思い出す。特に釧路沖は縦揺れが激しく、慌てて外からアパートの部屋に戻ると、大型の重いテレビが吹っ飛び、ストーブの上のやかんはひっくり返って水浸し、本棚の本も散乱していた。偶然外で作業していたためけがはしなかったが、部屋で横になっていたらと思うと今でもぞっとする。

 ▼当時は発生翌日から被災状況の取材で管内を飛び回った。液状化でマンホールが1m以上浮き上がった風景をご記憶の人もいよう。道路は分断され、港湾施設や河川堤防も亀裂が入って危険な状態。関係官庁や建設業者が、昼夜を分かたず復旧に奔走している姿も見た。今月17日は阪神淡路大震災から21年目だ。3月11日は東日本大震災から5年目である。どれだけ教訓は生かされているだろうか。今回、大きな被害はないようで幸いだったが、備えの大切さをいま一度肝に銘じたい。


灯油値下がり

2016年01月14日 09時02分

 ▼先日、車にガソリンを入れに行ったら、108円の表示が出ていて少々驚いた。いつの間に110円を切っていたのか。灯油を見ると58円とあり、こちらも相当に安い。需要期故、家計には大助かりである。資源エネルギー庁の価格調査でも、4日時点のレギュラーガソリンは120円で10週連続、灯油は68円で25週連続それぞれ値下がりしていた。これでお小遣いも増額、は捕らぬタヌキのなんとやらか。

 ▼この価格低下、もろ手を挙げて喜んでばかりもいられないらしい。新興国の景気低迷や世界情勢の悪化が反映したものだというのである。聞くところをまとめるとこうだ。まず中国経済の減速により原油需要が大きく減り、中国頼みだった新興国の需要も落ちる。米国はシェールガス開発が進み輸入を削減中。この間、中東産油国は政治と宗教の対立が激化し減産調整に至らず。結果、在庫がだぶつき、原油価格は低下の一途をたどるのみ。どうやらそんな仕組みになっているという。

 ▼最近の円高傾向や上海株の大幅な下げも、そんなグローバル経済の流れの中にあるようだ。こう複雑では、灯油が安くなる理由を子どもに質問されても、流行に便乗して「妖怪のせい」とけむに巻くしかない。つまり世界規模の「風が吹けば桶屋が儲かる」ということか。ただ、心配なのは東京株式市場の日経平均株価が年始から6日連続で下落したことだ。株価はきのうやっと反発したが、世界経済の不安定さが続くのであれば、安い灯油も爪に火をともすよう大事に使うほかない。


山の遭難

2016年01月13日 08時51分

 ▼自転車で走行中、交差点の一時停止標識を無視して突っ込んできた車にはねられたことがある。住宅街だったため見ていた人もいて、すぐ病院に運ばれ事なきを得た。珍しくもない出合い頭の事故だ。アルピニストの長谷川恒男は高度な登山を別にして、山の遭難も交通事故と同じと考えていたそうだ。『山に向かいて』(福武文庫)に、どちらも原因は知識や能力の不足、ルール軽視にあると書いている。

 ▼道警が8日公表した過去5年間の道内山岳遭難発生状況を見て思い出したというわけ。それによると2011年から60件(遭難者60―80人)程度だったのが、15年は100件、151人に増えた。同年からスキー場の外に出るいわゆるバックカントリーでの遭難を含めたためとのこと。今まで見えなかった新たな山岳遭難の姿が数字として現れたのだ。新雪を求めて山に入るスキーヤーやスノーボーダーは増えているが、コース外が安全から切り離されていることに無頓着なのだろう。

 ▼天候の急変、思わぬけが、道迷い。山の知識や能力を持たない者にとっては、命の危機につながることばかりだ。山で遊ぶのに免許はいらないが、その代わりとなる知識や能力は最低限身に付けておきたい。長谷川氏は「さらに素晴らしい人生を送るための場として山を選び、山にでかけて行く」と山に向かう人の心境に触れていた。登山者もバックカントリーの愛好家もそれは同じだろう。山は住宅街と違ってすぐ助けてくれる人もいない。雪山は準備のできた人だけを待っている。


真田小僧

2016年01月09日 10時10分

 ▼あす10日から、戦国時代の名将真田幸村の人生を描くNHK大河ドラマ「真田丸」が始まるそうだが、落語にも幸村の戦での計略をオチの仕掛けに使った「真田小僧」がある。父の講釈好きを知る子どもが、父の語る「真田三代記」をこっそり聞き覚えて巧みにまね、まんまと銭を巻き上げる噺だ。教えていないのに子どもは悪いことほどよく覚える。親であれば誰でも「そうそう」とうなずくに違いない。

 ▼「門前の小僧習わぬ経を読む」の例えもよく聞く。子どもの成長に周辺の環境や身近な人の言動がいかに大事かを伝えるものだろう。指揮者の佐渡裕さんも、同じ考えを持っているようだ。著書『棒を振る人生』(PHP新書)で毎年子どもたちを集めて開催する演奏会に触れ、その意味を記している。大人が「夢中になってよろこんでいる姿を見れば、子どもたちは自然に音楽に興味を持つようになる」。一生懸命になっている大人の姿を、子どもに見せることこそ大切なのだとか。

 ▼あさって11日は成人の日である。晴れやかな振り袖やスーツの若者たちが街を闊歩(かっぽ)するだろう。まずはおめでとうと言いたい。一方でこの20年、彼らの子ども時代にわれわれ大人たちがどんな一生懸命さを見せることができたのかと考えると、甚だ心もとない。新成人はデフレ期真っただ中で育った。挑戦を避けて縮こまる情けない姿ばかりを見せられてはこなかったか。新成人が悪い例をまねて縮み志向に陥ってしまわないよう、旧成人も今しばらく踏ん張らねばならぬ。


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