コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 259

進む少子高齢化

2017年12月27日 07時00分

 いつごろからだろう。日本で夫婦と子ども一人の核家族が目立つようになったのは。「たったこれだけの家族であるよ子を二人のあひだにおきて山道のぼる」河野裕子。そんな情景が当たり前の昨今である

 ▼政府の「国民生活基礎調査」を見ると1980年代後半のバブル期以降に、世帯員数の減少が顕著になってきたようだ。当時、多くの人にはまだ危機感がなかったが少子高齢化は既に影を落としていたのである。ことしの出生数(推計)が94万1000人と2年続けて100万人を割る見通しになったとの報に触れ、あらためて少子高齢化の深刻さに思い至った次第。厚生労働省が先週末に発表した「人口動態統計」の年間推計で明らかになったことである

 ▼一方で、死亡数は戦後最も多い134万4000人に上るのだとか。その結果、死亡数から出生数を引いた自然減数は40万3000人に達するという。例えは良くないが、日本というバケツの底に大きな穴が開いている様子を想像すると分かりやすい。日本人絶滅、時限爆弾、人口動態上の死刑囚。これらは少子高齢化を表した言葉である。英「フィナンシャル・タイムズ」のデイヴィッド・ピリング元東京支局長が著書『日本・喪失と再起の物語』(早川書房)で紹介していた

 ▼安倍政権も教育の無償化や子育て支援などを打ち出してはいるものの、「焼け石に水」が現実だ。何せ先の統計では婚姻件数自体が落ち続けている実態も示されているのである。子ども以前に「二人のあひだ」さえできないのなら、あとはどんな手が残されているのか。


キタサンブラック

2017年12月26日 07時00分

 相撲の星取表で「黒星」は負けを意味する。慣用句で「頭の黒い鼠」といえば泥棒のことだ。言い合いが高じて「白黒をはっきりさせよう」となれば、それは正邪をはっきりさせようという宣言。もちろん黒が邪の方である

 ▼黒い色には決まって悪や汚れ、敗北といった否定的イメージが付きまとう。これは英語のブラックも同様である。ところが先の日曜日には、このブラックが日本中を大いに湧かせ、明るくした。ほかでもない。ことしのJRAグランプリ「第62回有馬記念」(G1)を制した「キタサンブラック」のことである。先行逃げ切りで圧倒的強さを見せつけての勝利だった。テレビの前で胸を熱くした人も多かったのでないか

 ▼まさに王者の走り。最終コーナーを回っても全くスピードが落ちず、ゴールに飛び込んだときには2着に1馬身半も差をつけていた。武豊騎手の手綱さばきもさえていたのだろう。ただそれもこの馬の類いまれな実力あってこそ。G1レース7冠と賞金王は伊達ではない。道産子にとって一層うれしいのは馬主が知内町出身の歌手北島三郎さんで、生産も日高町のヤナガワ牧場ということである。勝手な想像ではあるが、北海道にも大きな潜在力があるのを忘れるな―と励ますような走りだった。ブラックも能力は高いのになかなか結果を出せなかった馬である

 ▼ともあれブラックもこの有馬で引退。敗北の黒でなく大黒柱だった存在をわれわれは失う。人間も負けられない。自分こそが次のブラックに。本道を盛り上げてくれるそんな人物が来年現れるのを待ちたい。


千島海溝超巨大地震

2017年12月23日 07時00分

 歌人与謝野晶子は1923年9月の関東大震災を、当時教壇に立っていた神田の文化学院で経験した。地獄のような光景を目にしたはずだが『大震後第一春の歌』にはこんな記述がある

 ▼「おお大地震と猛火、その急激な襲来にも我我は堪えた。一難また一難、何んでも来よ、それを踏み越えて行く用意がしかと何時でもある」。神にも仏にも頼ることを嫌い、人間性のみを信用して生きた晶子らしい一文ではないか。どんな困難をも乗り越える力が人間にあるのは事実だろう。これまでも数々の悲惨な自然災害から立ち直ってきたのがその証拠である。とはいえ自然災害が襲いかかってくるのを座して待つのでなく、被害を最小限に抑えるようしっかり備えておくのも大切だ

 ▼そのことを思わされたのは、十勝沖から択捉沖にかけての千島海溝沿いで超巨大地震の発生が切迫している―との報があったためである。政府の地震調査研究推進本部が先頃発表した。確率は30年以内に最大40%というから穏やかでない。マグニチュード(M)8・8程度以上の超巨大地震がこの地域で発生する周期は約340―380年。前回から既に400年が経過しているため、いつ起こってもおかしくないそうだ

 ▼筆者も釧路で釧路沖と東方沖を経験したが、あのすさまじい地震でもM7・5と8・2である。マグニチュードは数値が0・2上がるとエネルギーが2倍になる。さらに巨大津波も加わるとしたら…。晶子は震災の1年後にこう書いた。「明日に、明後日に来る。私達は油断なく其れに身構える」。肝に銘じたい。


忘年会

2017年12月22日 07時00分

 もう何度目だろうかと記憶があやふやになっている人もいるのではないか。忘年会シーズンたけなわである。会社の同僚と、友人と、趣味の仲間と、愚痴ったり笑ったりしながら飲むのは愉快なものだ

 ▼ところでそこに水を差す話だが、このところ何軒か居酒屋を見てきて少々気落ちさせられたことがある。それは例えば5000円のコースを頼んだとして、以前と比べ明らかに料理の質と量が落ちていることである。「おいおいこの鍋、肉は表面に薄くあるだけで下は全部野菜だぞ」。最近そんな経験をした人も多いと思うのだがどうだろう。食べ物に文句を言う趣味はないのだが、肉や魚、カニといった華やかな具の目立たぬ鍋ほど寂しいものはない。料理の品数が少ないのも拍子抜けである

 ▼実感としてはここ5年くらいで、質と量が共に2―3割は落ちているような…。つまり実質的な値上げということだろう。道理で支払っている料金は昔と変わらないはずなのに、満足するには足りない気がするわけだ。居酒屋をはじめ外食産業では食材費の高騰もさることながら、どこも人手不足で人件費がかさんでいるらしい。全体の雇用改善を背景に、過酷な現場には人が集まらなくなっているのだとか

 ▼さらに追い打ちをかけるようで申し訳ないが、加えて言えば現在までにビール大手4社が来春から値上げで足並みをそろえることも決まっている。こうなると5000円コースのカニ鍋も、カニかま鍋に化けてしまうかもしれぬ。愚痴ばかり連ねたが、忘年会のつもりで笑って流してもらえれば幸いである。


リニア中央新幹線

2017年12月21日 07時00分

 慣用句に「危ない橋を渡る」の言葉があるが、使われ方は大きく二つに分かれるようだ。一つは金もうけのために、もう一つが成し遂げたい目標達成のために、である。この事件に関わった人物たちの思いは一体どちらだったのだろう

 ▼国家的プロジェクト・リニア中央新幹線建設工事を巡り明らかになった、大手ゼネコン4社による受注調整のことである。東京地検特捜部などが独占禁止法違反容疑で捜査を始めた。これまでの報道によると、JR東海などが既に発注を終えた工事22件のうち15件を、これらゼネコン4社を代表者とするJVが受注しているという。さらに各JVはこの15件をそれぞれ3―4件ずつ、ほぼ均等に受注しているそうだ

 ▼確かにきれいな分散具合である。建設に縁もゆかりもない人の目には異様な結果としか映らないかもしれない。一方でプロジェクト管理の観点から、2027年の東京―名古屋間先行開業を実現するためには、適切な仕事配分だと見ている人も案外多いのでないか。日本屈指の難工事区間を幾つも抱える事業である。施工できる会社も指揮できる技術者も限られる。予定通りに開業するには最高の技術を持った会社を集め、協力して事に当たるのが合理的なはず

 ▼もちろん法をないがしろにするのは論外だ。ただリニアはインフラ輸出の要。成功が至上命題である。重要なのは適正な価格で受注し、高い品質と安全を確保することだろう。建設会社があえて危ない橋を渡らずに済む、柔軟な業者選定方法が採用されていても良かったのではと思わずにいられない。


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