コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 262

豊洲市場は随契に

2017年12月06日 07時00分

 わがままも行き過ぎると身を滅ぼすと教えているのだろう。グリム童話の「漁師とその妻」である

 ▼ある日、漁師が大きな魚を捕まえた。ところがその魚は「どうか逃がしてくれ」と頼む。優しい漁師が頼みを聞き、手ぶらで帰ると妻は激怒。なぜお礼を要求しないのかというのだ。漁師は海に戻り、妻が望む立派な家をお願いする。夢がかなった妻は次に城、今度は女王の座、ついには世界の支配者に、と増長し…。結末はお察しの通り。突然の大嵐に全て流され、粗末な家での貧乏暮らしに逆戻りである。さて、この漁師の妻、あれもこれも欲しがって、結局何も進められなくなっている小池東京都知事の姿と重なって見えるのは気のせいか

 ▼というのも、また小池氏の政策に疑問を投げ掛ける事態が持ち上がっているのである。豊洲市場の追加工事を発注する一般競争入札が不調続きのため、随意契約への変更を検討しているのだとか。ことし3月に経費を抑えるためとして入札改革を断行したばかりだった。工事は土壌汚染対策として行うものだが、予定した9件のうち落札したのは2件のみ。参加業者が辞退したり、予定価格を大幅に上回ったりと一向に決まらない。そもそも小池氏自身が複雑にした豊洲問題の後処理工事を、短工期、安値で施工業者に投げようというのだから入札が成立しないのも当たり前

 ▼五輪会場の見直し、築地市場の豊洲移転、希望の党立ち上げと、都知事就任以来、思うままに女王ぶりを発揮してきたが何か形にできたものがあっただろうか。これでは大嵐も避けられまい。


天皇陛下の退位日決まる

2017年12月05日 07時00分

 先の大戦前後に活躍した無頼派の文学者坂口安吾は、日本の歴史にも造詣が深かった。作品の端々に歴史をひもとくことで得られた洞察がのぞく

 ▼例えば『堕落論』にはこんな一節がある。「すくなくとも日本の政治家達は自己の永遠の隆盛を約束する手段として絶対君主の必要性を嗅ぎつけていた」。為政者らが自らの権威付けのために、天皇を利用してきた事実を説いたものだ。日本には過去あまたの実例がある。日本の戦後は、政治家や軍部によるこうした天皇の政治利用を不可能とするところから始まった。誰もが知るところである。ただ、政治から距離を置いたとはいえ、昭和天皇はついに戦争の影から逃れられなかったのでないか

 ▼その影から離れ、正真正銘、平和の時代を体現されてきたのが1989年に即位した今上陛下である。被災地での励まし、激戦地への慰霊の旅、文化学術活動への目配り。政治に距離を置く一方で国民には寄り添い、膝詰めにするほど近い関係を築こうと努めてこられた。そんな陛下の退位が19年4月30日に決まったそうだ。「本当にお疲れさまでした」。胸をなで下ろし、心の中でそうねぎらっている人も多いに違いない。退位を望む思いが込められた昨年のビデオメッセージを見て以来、一向に進まない議論に国民はやきもきしていた

 ▼即位してから一貫して困っている人、苦しんでいる人、頑張っている人に手を差し伸べてきた陛下である。安吾には想像もつかない天皇の姿だろう。現在の日本に必要な象徴の役割とは何か。誰よりも真剣に考え続けた方である。


縄文の笑顔?

2017年12月02日 07時00分

 視線には物理的なエネルギーなどないはずなのに、なぜか力を感じることがある。どこかから見られている気がしてふと顔を上げると、ばっちり目が合うという経験は誰にでもあるのではないか

 ▼それにちなんだ笑い話を一つ。視線を感じ、そちらに顔を向けると見知らぬ女性と目が合った。おや俺に気があるのかとニヤけかけたところで、社会の窓が全開になっていることに気付く。道理で視線が刺さるわけである。さて、こちらも何かを語り掛けているようで目の印象は強い。木古内町幸連5遺跡から出土した「人の顔」が描かれた石製品のことである。縄文時代中期後半、約4300年前の物らしい。道埋蔵文化財センターが先日、発表した

 ▼その石製品は一辺が約13cmの逆三角形。石板を顔に見立て、目や鼻、眉、ヒゲもしくは入れ墨などが黒色の顔料で描かれている。目が生き生きとしていると感じるのは瞳があるからに違いない。開眼しているだるまと、していないのとではまるで別物のごとくである。松木武彦国立歴史民俗博物館教授の『縄文とケルト』(ちくま新書)によると、「大規模な定住が進み、人口が増えてその密度も高まった」のが縄文時代中期という。形成された共同体の意識を確認するための器物やデザインといった「芸術」も同時に発達したそうだ

 ▼「荷車に春のたまねぎ弾みつつ アメリカを見たいって感じの目だね」加藤治郎。今も昔も目は口ほどにものを言う。真実は知るべくもないが、この石製品の目は優しく笑っているようにも見える。縄文美人と目が合ったのかも。


きょうから師走

2017年12月01日 07時00分

 店頭には、はや正月飾りが並び始めた。それを横目で眺めながら、そうせっつくなよと妙に落ち着かない気分になるのは筆者だけでないはずだ

 ▼「もうみんな師走の端を踏んでゐる」菅原章風。皆さんも足元を見てみるといい。もう踏んでいるはずである。きょうは12月1日。ことしも残すところあと1カ月となった。年内が期限の仕事は追い込みを掛けてきっちりと終わらせ、穏やかな気分で新年を迎えたいものだ。中には問題が複雑過ぎて、来年に持ち越さねばならないものも出てこよう。わが国のことでいえば北朝鮮への対応もその一つ。おととい、北朝鮮はまたも大陸間弾道ミサイルを発射し、日本の排他的経済水域に落下させた。今回のミサイルは米全土を射程に収めるという

 ▼日本が森友だ加計だ相撲だと内輪で騒いでいるうち、かの国は着々と他国攻撃能力を高めているようだ。金正恩朝鮮労働党委員長は年内に一定の期限を設けて開発を進め、晴れやかな気分で新年を迎えるつもりなのかもしれぬ。というのも、北朝鮮は2月からほぼ毎月、発射を強行している。国際社会の非難や制裁をまるで意に介さぬこの横暴は、開発目標にあと少しのところまで近づいている証しのようにも見える

 ▼日本にしてみれば、ことしはミサイルに始まりミサイルに終わるようなもので正直言ってしゃくな話。ただ、だからといって短気を起こしてはなるまい。「満たされず過ぎゆくものも師走かな」加藤時子。師走と焦らず、満たされずとも働き掛けを続けるほかない。外交は落ち着きを失った方が負けである。


『建築知識』12月号

2017年11月30日 07時00分

 近年、建設業界で女性の活躍が目覚ましい。事務だけでなく、現場の最前線で技術をいかんなく発揮している人も多いようだ。業界にとっては好ましい変化だろう

 ▼それとこれとは別とお叱りを受けるかもしれないが、とある女性たちが一生懸命働く姿を追った雑誌『建築知識』12月号が話題である。ご覧になった建築関係者も多いのでないか。いわゆる「萌え」系のイラストを使い、一大特集を組んでいるのである。題して「建築基準法キャラクター図鑑」。アニメやゲームに出てくるようなかわいい女の子が、複雑で難しい規制内容を分かりやすく解説してくれる。例えば「かわいいものが大好きな転任教師・堤出子」が確認申請書の記載方法、「近隣の日当たりを守る正義の味方・影尾てらす」が日影規制といった具合

 ▼女の子の姿形や髪形、衣装がそのまま法規制のポイントになっているという凝りようだ。一見おちゃらけた企画のようだが中身は意外に本格派。的を射た説明は大いに理解の助けとなろう。アニメを見て育った世代には格好の入り口である。ただ、表紙もアニメ雑誌調だから、いい年をしたおじさんが書店で手を伸ばすのは少々ためらわれる。まあ、最初からお呼びではないか

 ▼『建築知識』といえばお堅い印象があるがなかなかやるものだ。そういえば2012年にも「初音ミク」や「ルパン三世」を表紙に使い話題になっていた。建築界の門戸をさらに開いていこうとの試みなのだろう。この入り口をくぐり、建設業に携わる女性たちのような挑戦の気概あふれた人が増えるといい。


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