コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 265

先週の日ロ首脳会談

2017年11月14日 07時00分

 本田技研工業の礎を築いた本田宗一郎と藤沢武夫は細かな話しをせずとも互いを理解していたという。理念を共有していたからこそのことである

 ▼その理念とは本田氏が言った「人間の生命に関することなんだから、その点にいちばん気を付けなければならない」(『経営に終わりはない』文春文庫)。根底にあるものが確固としてぶれないのだから、後は「あうんの呼吸」でそれぞれが自分の仕事をすればよかった。あうんの呼吸はそういったビジネスの世界だけでなく、いろいろな場面に登場する。外交の場も例外ではない。先週、APECに合わせて行われた日ロ首脳会談。安倍首相とプーチン大統領の間にもやはり、あうんの呼吸があったように見えた

 ▼プーチン氏は衆院選の大勝に祝意を述べた後、「これでわれわれの計画が実現できる」と喜び、首相も北方領土の共同経済活動具体化や平和条約締結に向け前進していく決意を語ったという。多くを語らずとも、分かり合えている雰囲気ではなかったか。いや日本が受け取るのは空手形ばかり。プーチン氏に手玉に取られているだけと冷ややかに見る向きもあろう。ただ、ロシア事情に詳しい評論家佐藤優氏は領土交渉が水面下で進んでいると見る

 ▼近著『ゼロからわかる「世界の読み方」』(新潮社)で、来年3月のロシア大統領選でプーチン氏が再選され権力基盤が固まれば事態は動くと分析していた。今回の首相再選が「あ」、来るロ大統領選が「うん」というわけだ。根底に平和と経済の理念を共有している限り呼吸が乱れることもない。


新語・流行語大賞

2017年11月13日 09時27分

 もうそんな時季か―、と気付かせてくれる季節の便りがある。暑中見舞いや年賀状だけでなく、虫の声や旬の野菜、果物もその一つに数えられよう

 ▼「街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る」木下利玄。ミカンは鮮やかな色と爽やかな香気で冬の訪れを知らせてくれる。今ではこれも年の瀬がすぐそこまで来ていることを思い出させてくれる便りの一つだろう。「ユーキャン新語・流行語大賞」である。ことしも30のノミネート語が決まった。忘れているもの、はなから知らないものもあるが、ざっと見て特徴があるとすれば政治絡みが多いことだろう。「忖度(そんたく)」から始まり「働き方改革」「共謀罪」と12ある

 ▼確かに、トランプ米大統領就任、相次ぐ北朝鮮の挑発、森友・加計問題による国会停滞、急な衆院選、野党再編と波乱の年だった。中でも「フェイクニュース」「Jアラート」はことしを切り取るにふさわしい。まあ、「ちーがーうーだーろー!」を挙げるのは違うと思うが。ほっとするのは将棋界からの「ひふみん」と「藤井フィーバー」か。劇的な新旧交代はもちろん、加藤一二三九段と藤井聡太四段の個性的な人柄に多くの人が魅了された。二人なら「インスタ映え」もしそうだ。日本人で初めて100m10秒の壁を破った桐生祥秀選手の「9・98」も印象深い

 ▼昨年の大賞はプロ野球広島の快進撃を例えた「神ってる」だったが、さてことしは。と、あらためて眺めると案外これぞという候補が見当たらない。どうやら「空前絶後の」豊作とはいかなかったようだ。


犯罪被害者支援

2017年11月10日 07時00分

 殺人事件の犯罪被害者家族は時にこうした言葉を口にすることがあるという。「2度殺されたようなものだ」。命を奪われた上にあらぬ噂まで流され、社会的信用も失わされる実態があるからだ

 ▼噂ばかりではない。好奇の目、根拠のない中傷、心ない言動。全て無理解から来るものである。殺人に限らない。性的暴行をはじめ多くの犯罪の被害者とその家族にとって、今の日本はそれほど優しい社会ではないようだ。道はその現状を打開するためこれまでもいろいろ手を打ってきたが、取り組みを一歩進めようと今度は「犯罪被害者等支援条例」を制定することにしたそうだ。7日の道議会環境生活委員会に素案を報告。おとといからは、道民を対象に意見の募集も始めた

 ▼中身を見ると、個人の尊厳にふさわしい処遇の保障や二次被害が生じない配慮、必要な支援の継続を基本理念にうたい、国と道、市町村、民間支援団体の責務を明確にしている。被害者の安心とともに道民の意識改革を意図したものだろう。被害者らの尊厳と権利を守る活動を続ける「全国被害者支援ネットワーク」がHPに、殺人事件で突然父を亡くした女性のこんな声を載せていた。「加害者以外にも『無理解な社会』という敵に立ち向かわねばならなくなる」。血を吐くような叫びに聞こえる

 ▼現在世間を騒がせている座間の連続殺人でも、被害者の私事を暴くような報道が目に付く。ただでさえ心を痛めている遺族が「2度殺された」心境に陥らないか。もし自分が被害者の家族だったら、との想像力だけは失わずにいたい。


浅草仲見世の家賃

2017年11月09日 07時00分

 縁日と聞くといまだに心がはやるという人も少なくないだろう。普段目にできないものがずらりと並び宝物を探すような気持ちになる。祭りのときに開かれるため一年に何度もあるものではないが、楽しみたいなら別の手もある

 ▼常設の仲見世にこちらから出掛けて行けばいい。浅草仲見世がその代表格となろう。筆者も一度訪れたことがあるが大変なにぎわいで、一軒一軒のぞいて歩くだけで祭り気分を満喫できた。「浅草の夜のにぎはひにまぎれ入りまぎれ出で来しさびしき心」石川啄木。20代前半に浅草かいわいで遊んでいた啄木にとっても、仲見世はなじみの場所だったのでないか。その浅草仲見世商店街が今、家賃騒動で揺れに揺れている

 ▼来年1月から家賃を現行の約16倍に値上げしたいと浅草寺から提示されたという。商店街には現在89の店があり、広さ10―20m²の小口店がほとんど。この10m²当たり月1万5千円の家賃を25万円に上げるとのこと。風神雷神もびっくりしているに違いない。ことし7月に東京都から建物の所有権を買い取った浅草寺が、周辺の家賃相場に合わせようとしているのだとか。これまでが破格の安さだったのだ

 ▼16倍となれば廃業する店も出よう。新陳代謝も必要だが金太郎あめ化した全国の街を思うと心配である。そこにしかない店、活気ある全体のたたずまいがいかに大切か。目先の利にとらわれて金の玉子を生むガチョウを殺してしまう童話もあった。下手をすれば東京観光に大きな傷を付けかねない。せっかくの宝物である。円満に解決してほしい。


日米首脳会談

2017年11月08日 07時00分

 昨年11月の参院TPP特別委員会での安倍首相の答弁を思い出す。民進党議員が、首相が大統領選終盤の9月に訪米した際、クリントン氏にだけ会い、トランプ氏に会わなかったのは「間が悪い」と質問したときのことである

 ▼首相は福田赳夫元首相の「外交は水の上を泳ぐアヒルのようなもの」との言葉を引き、やんわりと反論。世界の首脳の中で一番にトランプ氏と会談できたのもその外交手法のおかげと述べた。首相はその心を「上はスーッと行っているが、水かきの部分はなかなか見えない」と説明。つまり、はたから見ればクリントン氏にだけ会い満足して帰ってきたように思えるかもしれないが、水面下ではトランプ陣営への働き掛けも積極的にしていたということである

 ▼今回の日米首脳会談の成功も、そうした「水かき」を絶え間なく続けてきた結果なのだろう。安倍首相とトランプ大統領の個人的な信頼関係は一層強まったように見える。安定を欠く国際社会にあっては貴重なつながりでないか。対話を引き出すための北朝鮮への圧力強化であらためて意見の一致を見たことは、日米が先頭に立ち国連決議の履行を求めていく姿勢の表れだろう。これが中露に流されがちな国連の漂流を防ぐための、いかりの役割を果たせればいいのだが

 ▼首相が拉致被害者を大統領に引き合わせたのも、拉致問題の悲しい現実を世界中の人々に知ってもらう良い機会となったはず。国政ではここしばらく水上でのジタバタが目立った首相だが、首脳会談では水かきの部分も見せずにスーッと泳ぎ切ったようだ。


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