コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 266

ピラミッドに謎の部屋

2017年11月07日 07時00分

 子どものころ、ジュール・ヴェルヌのSF冒険小説『地底旅行』に胸を躍らせた人は多いのでないか。映画化された作品の方をご存じの人もいよう

 ▼大学教授が古文書に挟まっていた暗号の覚書を解読し地底世界の存在を知る。教授はそれを頼りにアイスランドの火口から地底に下り、やがて巨大な空洞に到達。特殊な電気現象で照らされたその空洞には大きなキノコの森があり、失われた古代生物が歩き回っていた。今も思い出すだけでわくわくした気分になる。未知のものへの憧れだろうか。つい最近、現実にもそんな気分を味わわせてくれたニュースがあった。エジプト・ギザのクフ王ピラミッドの内部に未知の大空間があることが分かったというのだ

 ▼形状は不明なものの、長さ30m以上の広い部屋の可能性もある。名古屋大や高エネルギー加速器研究機構などが加わる国際研究チームが発表した。2日付の英科学誌ネイチャーにも掲載されたそうだから、ピラミッドものによくある怪しい話ではあるまい。内部はもともと空洞だらけで謎の部屋ではないとの説もある。ただ、もし空洞から4500年前の遺物が手付かずの状態で見つかれば、歴史を塗り替える大発見になることは間違いない

 ▼使われたのは巨大建造物を透視できる「ミュオグラフィ」。素粒子ミューオンをX線のように働かせたものだ。日本が世界の先頭を走る技術で福島第1原発の廃炉調査にも採用されている。鍵となるのは暗号でなくミューオンの解読。日本の技術で世界最古の文明の謎に到達できたとしたら二重にうれしい。


自殺志願者を標的に

2017年11月03日 07時00分

 多くの若者が身を投じた学生運動もやや下火になりかけたころの歌である。「都会では 自殺する若者が増えている 今朝来た新聞の片隅に書いていた」

 ▼ご存じの人も少なくないだろう。シンガーソングライター井上陽水さんの『傘がない』である。当時はといえば、変革を求めた学生運動の行き詰まりや日米安保体制強化が進む政治状況、功利主義に染まった会社社会に絶望感を抱いていた若者が多かったようだ。日本特有の窮屈な人間関係にも原因があると指摘された自殺だが、その数は現在、随分と減っている。まだ3万人以上だと思い込んでいる人もかなりいよう。実は、昨年は2万1897人。22年前の好況時の水準に戻った。不況が大きく影響していたということだろう

 ▼全年代で自殺は減っている。若者も例外でない。それは喜んでいいのだが、知らぬうちに昔はなかった深い闇が静かに広がってもいたようだ。インターネットを介し自殺志願者が犯罪に巻き込まれる事件が相次いでいるのである。若者9人を殺害し、部屋に隠していたとして逮捕された白石隆浩容疑者も、ツイッターで志願者を物色していた。金銭や快楽のために絶望のふちにいる人を餌食にした行為は卑劣というほかない

 ▼自殺を話題にするツイッターを見ると、志願者とほう助者の臆面もない書き込みに暗たんとする。減ったとはいえ若さ故の短慮から命を捨てようとする若者はこれからも後を絶たないだろう。自殺も、新たな犯罪者の出現も防ぐためには、現実社会とネット世界、両方を変えていく知恵と工夫がいる。


いじめが過去最多に

2017年11月02日 07時00分

 第2次大戦時のこと。日本の軍隊内では苛烈ないじめが横行していたそうだ。中でも規律や慣習に疎い新兵や要領の悪い者が、古参兵に目を付けられたという

 ▼その体験談を集めた『軍隊』(松谷みよ子編、立風書房)に詳しい。ビンタ、殴る、蹴るは当たり前。犬になれと命令し四つんばいで走らせたり、セミのまねをせよと延々と木にしがみつかせたり、人としての尊厳を奪い辱めるものがほとんどだったようだ。緊張状態にある閉鎖社会で歯止めもないとき、いじめは起きやすい。厄介なのはそれが秩序や規律の維持という「正義」の仮面をかぶっていることだろう。子どもは大人の鏡。軍隊ほど極端ではないが学校もまた同調圧力が強い社会。似たような条件に置かれた子どもがいじめに走るのも不思議はない

 ▼文科相が先月末発表した「児童生徒の問題行動・不登校」調査で、昨年度に認知したいじめの件数が前年度に比べ9万8676件増え、過去最多の32万3808件に上ったことが明らかになった。件数が一気に増えたのは、ことしからけんかやふざけ合いも確認の対象に加えたためだ。深刻なのは23万7921件を数えた小学校。全国で約2万校だから、単純計算で1校当たり10件以上にもなる。これでは親御さんも心配だろう

 ▼軍隊の体験談と学校調査が教えるのは、きっかけさえあればたやすくいじめが発生する日本社会の性格が、あまり変わっていない事実である。あらためて胸に刻むべきではないか。大切なのは昨今はやりの「排除」でなく「寛容」である。大人が率先したい。


与野党の質問時間

2017年11月01日 07時00分

 円柱型のホールケーキを幾人かで公平に切り分けるのはなかなか難しい。等分にしたつもりでもよく見ると、どれかが大きかったり小さかったり

 ▼こんな笑い話を聞いたことがある。切り分けの大小でいつもけんかになる兄弟がいた。ある日お母さんは宣言する。「これからはお兄ちゃんが好きなように切りなさい」。大喜びでたっぷり差をつけて切ると、お母さんが下の子に言う。「選ぶのはあなたが先になさい」。国会での質問時間というホールケーキの切り分け方を巡って今、与野党がもめているそうだ。現行の時間配分はざっと与党2割に対し野党8割だが、これでは議席数と整合性がない、と与党が見直しを求めているのである

 ▼ケーキ代の7割を支払ったのは与党なのだから、その分は食べる権利があるとの主張だろう。一方の野党は断固として反対。支払いのことはひとまず置き、せっかくの会を有意義にするためには、皆が同じ大きさに切り分けられたピースを食べるべきと徹底抗戦の構えである。衆院選での大勝を見ると、与党の言い分にも理はあろう。民意を反映するには見直しも必要でないか。ただ得票率が5割程度にとどまったことや、政策審議のためには多様な切り口が必要な点を考えれば野党への配慮も欠かせない

 ▼もっとも、野党が再び森友だ加計だと政権攻撃にのみ時間を費やし、少子高齢化や社会保障、デフレ脱却、北朝鮮といった国政の最重要課題を後回しにするならそれも無駄になる。分けられたケーキの大きさだけでなく、食べ方も国民は見ていることをお忘れなく。


ことしもあと2カ月

2017年10月31日 07時00分

本道ではきのう、吹き荒れる風と雨にひどい目に遭わされたという人が少なくなかったろう。傘を壊されたり、さすのを諦めたりでずぶ濡れになって歩いている気の毒な人を随分見掛けた

 ▼建物に入る直前だったため被害は小さかったものの、当方も強風に一瞬の隙を突かれて傘の骨を折られた一人である。「風が吹けば…」のことわざのようには今どきおけ屋がもうかるはずもないが、傘はかなり売れたに違いない。「知床の山容奪ふしまきかな」戸川幸夫。風の種類の一つに「風巻(しまき)」がある。ときに雨や雪を含んで激しく吹きすさぶ風のことをいうらしい。「し」は古語で風を意味するそう。きのうの風はまさしくそれでなかったか

 ▼風巻を連れてきたのは、迷惑も甚だしい季節外れの台風22号が形を変えた温帯低気圧。本州各地に大雨を降らせ内水氾濫など災害を引き起こした揚げ句、さらに勢力を強めて本道にやってきたのである。しかも強い冬型の気圧配置を構成したため凍えるほど寒かった。道内では28日に開通した日勝をはじめ狩勝や石北、三国といった十勝と道北の主要な峠で雪が積もった。平地でも雪がちらついた地域が何カ所かある。冬に臨む覚悟を固めよということだろう

 ▼「秋惜しむ雪吊りの縄売り出され」小林春鴎。そんなのんびりした風情はどこへやら、このすさまじい風雨で秋を惜しむ気分も街路樹の葉っぱともどもどこかへ吹き飛ばされてしまったようだ。きょうで10月も最後。これを過ぎればことしもあと2カ月である。さて、やり残したことはありませんか。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 日本仮設
  • 川崎建設
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,657)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,497)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,123)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (982)
おとなの養生訓 第109回「うろ」 ホタテの〝肝臓...
2017年03月24日 (721)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。