コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 274

船出はしたものの

2017年09月07日 09時03分

 今はどうか分からないが、昔の少年なら一度はジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』を読んで胸を躍らせたことがあるのではないか

 ▼帆船でニュージーランド1周の旅をするはずだった少年たちが、遭難した揚げ句見知らぬ島に流れ着き、力を合わせて生き抜く物語である。ゴードン、ブリアン、ドノバンといった名前を懐かしく思い出す人もいよう。冒険の始まりは港を出て早々、大嵐に見舞われたことだった。さてこちらも意気揚々と船出したまでは良かったが、少年たち同様いきなり荒波にもまれる展開になっているようだ。政治の海で針路を失っていた民進党丸の新たな船長に就いた前原誠司氏のことである。共に船を引っ張っていく人物を選ぶ役員人事でつまずいた

 ▼一度は前原氏の抜てきで内定していた山尾志桜里元政調会長の幹事長起用が、力量や経験の不足、不祥事などを理由に撤回を余儀なくされたのである。かじ取りのまずさが露呈したわけで、リーダーとしての資質にも疑問符が付いた。5日の両院議員総会で幹事長に決まったのは当選6回の大島敦元総務副大臣。代表選で敗れた枝野幸男元官房長官も代表代行に納まった。役員にはこの他、政調会長に階猛氏、国対委員長に松野頼久氏、選対委員長に長妻昭氏といった面々が並ぶ。何だか船頭ばかり多いようだ

 ▼物語の15人の少年たちはときにけんかもしたが、たいていの場面では認め合い助け合い、ついに一人も欠けることなく故郷に帰ることができた。手遅れにならないうちに、民進党の皆さんも再読してみてはどうか。


秋篠宮眞子様婚約

2017年09月06日 09時20分

 中学や高校の授業で、古文の時間となると決まって睡魔に襲われたという人は少なくないだろう

 ▼日本語とはいえ千年以上も前の文章となると、見たこともない単語がたくさん出てくるし読み方も違う。主語がないため誰が誰に話しているかも理解できない。全くお手上げである。日本に生まれたからには「源氏物語」や「徒然草」くらい原文のまますらすら読めるようになりたいものだが、どうも望みは薄いようだ。とはいえ古文も意味や背景が分かると面白い。例えば和歌は主に男女のやりとりに妙がある。典型を8世紀後半に編まれた最古の和歌集「万葉集」に見つけた

 ▼まず大津皇子が石川郎女に向けこう詠んだ。「あしひきの山のしづくに妹待つとわが立ち濡れぬ山のしづくに」。愛する君を待っていたら山の滴に濡れてしまったというのである。受けた郎女はこんな歌を返す。「吾を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくにならましものを」。あなたを濡らしてしまったその山の滴に私はなりたい。想像すると実に奥ゆかしくいじらしいやりとりだが、最近似たような光景をテレビで見た。秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さんの婚約発表記者会見である

 ▼相手の印象を問われた場面で、眞子さまは「最初にひかれたのは太陽のような明るい笑顔」とお答えになり、小室さんは「私のことを月のように静かに見守ってくださる存在」と返していた。和歌でこそないものの、この絶妙なやりとりからはお互いが抱く愛情の深さと信頼の強さが豊かに感じられる。古文と違い目の覚める思いがした。


北朝鮮が核実験を強行

2017年09月05日 09時04分

 小欄で度々取り上げている江戸時代後期の経世家二宮尊徳は、きのう4日(旧暦7月23日)で生誕230年を迎えた。その思想を聞き書きした『二宮翁夜話』には今も教えられることが多い

 ▼最近だとこんな例えが、現実感を伴い鋭く迫ってくるようだ。何をしてもうまくいかないとの相談を受けた二宮翁の答えである。「夫汝が願ふ所は瓜を植えて茄子を欲し、麦を蒔て米を欲するなり。願ふことならざるに非ず」。あなたは別の作物を植えておきながら、欲しいものができないと悩んでいる。誤った方法を選んでいてはうまくいかないのも当たり前。ナスを実らせるにはナスの種が必要なように、期待した成果を得るにはそれに見合った行動が欠かせない。翁はそう諭したのである

 ▼残念ながら金正恩朝鮮労働党委員長はいまだこの真理に気付いていないようだ。北朝鮮が3日、再び核実験を強行した。国際社会、とりわけ米国に認められるには、核兵器を保有するしかないとの妄念にとらわれているのだろう。世界に存在感を示す方法なら他に幾つもある。国内産業の育成、内需拡大、善隣外交、貿易を軸にした相互経済協力―。それらを選べば時間はかかってもどこからも文句がでないばかりか、名指導者として評価も高まろう。もちろん拉致問題の解決は前提だが

 ▼ところが北朝鮮がしているのはコメが欲しいのにムギどころか脅迫の種をまき、怒りを実らせているだけ。しかも今回はICBM用の水爆実験で危機の段階を一気に引き上げた。北朝鮮の「願ふこと」はさらに遠ざかってしまったろう。


訪日外国人の数

2017年09月04日 10時12分

 英国の女性イザベラ・バードが日本を旅したのは1878(明治11)年のことだった。18歳の男を通訳兼従者に雇っただけの二人連れで、東北と北海道を徒歩や馬で回ったのである

 ▼当時のことゆえ外国人を見たことのある日本人などほとんどいない。山形県米沢では出発しようと宿から出てみると、彼女を見物するため1500人もの人が集まっていたそうだ。寝部屋の障子が穴だらけになったこともあったらしい。地方に住む者にとって、外国人を見るのは一生に一度あるかないかの出来事だったろう。ぶしつけだとは分かっていても、好奇心は抑えられなかったようだ。明治の話と笑ってはいられない。日本では割と最近までこれと似たような状況だったのである

 ▼今は違う。観光庁がおととい発表した宿泊旅行統計によると、6月の外国人延べ宿泊者数は616万人で2007年の調査開始以来最高を記録した。前年同月比は三大都市圏の6.5%増に対し、地方が14.7%増。地方の大きな伸びが目立つ。先日、釧路市内の海岸で行方不明になっていた中国人女性が遺体となって発見された。多くの人が無事を祈っていただけに残念なことだ。それもあって再認識したのだが、このところ外国人が日本で事件や事故に遭ったとの報道をよく見る

▼年間2400万人(16年)の外国人が訪れているとなればそれも当然。10年前の3倍、50年前の55倍である。もはや障子に穴を開けて外国人を珍しがる世の中ではない。今はこれだけの外国人と共に暮らす現実を、しっかり受け止める必要があるのだろう。


国別影響力格付け

2017年09月01日 09時21分

 大阪万博のテーマソング「世界の国からこんにちは」を作詞した島田陽子さんの詩に、「うち 知ってんねん」がある。冒頭の一節を紹介したい。こんな内容である

 ▼「あの子/かなわんねん/かくれてて/おどかしやるし/そうじは/なまけやるし/わるさばっかし/しやんねん/そやけど/よわい子ォには/やさしいねん/うち/知ってんねん」。鋭い観察眼で、一見悪い子の「あの子」の心根の優しさを見抜く。「人の背中は見えるがわが背中は見えぬ」とことわざにある通り、良きにつけ悪しきにつけ案外他人のことは客観視できるものだ。それは人に限らず国も同じではないか

 ▼英国BBCが数年に一度調査している国別の影響力格付けがことしも発表になった。他国が対象国をどう見ているか数字で表すものである。日本は肯定的見方56%、否定的見方24%で対象国中3位。思いのほか他国から高く評価されているのが分かる。1位はカナダで肯定61%、否定15%、2位がドイツで肯定59%、否定21%。日本は前回2014年に比べ肯定が6ポイント増、否定が4ポイント減と評価は上向き。社会や経済の安定が他国には模範的と映ったようだ

 ▼一方で最も評価を落としたのは米国である。肯定が5ポイント減の34%、否定が6ポイント増の49%で12位だった。トランプ政権の迷走と社会の分断が心もとなく見えたらしい。「あの子」の心根の優しさを見抜いた「うち」ならトランプ大統領の良さも見つけられたかもしれないが、他国の目はそれほど甘くない。日本もあぐらをかいてばかりではいつ厳しい目にさらされるか。


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