コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 275

台風15号近付く

2017年08月31日 09時19分

 コンソン、チャンスー、ミンドゥル、ライオンロック、コンパス―と聞いてピンとくる人は、かなりの物知りだろう。民族料理の専門店ではない

 ▼答えは、昨年8月に相次いで本道を襲った台風の「呼名」。順に6、7、9、10、11号となる。日本など14カ国で構成する台風委員会が決めた名前だそう。ちなみに大災害をもたらした10号ライオンロックは、香港の獅子の形をした岩山が由来とのこと。道理で荒々しい。「台風の逸れめくるめくジャズセッション」米村哲雄。台風が来るとイベントは軒並み中止になる。昨年は楽しみを数々台無しにされ、歯がみした人も少なくなかったろう。きょうで8月も終わりだが、幸い現在のところ本道に接近・上陸した台風は一つもない

 ▼札幌管区気象台によると昨年は平年に比べ太平洋高気圧の勢力が強く、日本の南海上で発生した台風が東にそれないまま真っすぐ本道に向け北上する例が目立ったという。エルニーニョ現象の影響で海面水温が高かったことも災いした。ところで8月が終わったからといって安心はできない。大型の台風15号が近づいている。気になるのは太平洋高気圧だが、どうやら今もまた強いらしい。東への進路をふさがれると、強い勢力を維持したまま9月3日ごろ本道に上陸する可能性があるそうだ

 ▼道路を寸断し、川を氾濫させ、農作物に壊滅的な被害を与えた昨年の悪夢が脳裏をよぎる。「一天を曇らせもせず厄日過ぐ」鎌田つた枝。それを期待したいものだが、あすの「防災の日」を機に災害への心構えだけは新たにしておきたい。


Jアラートにびっくり

2017年08月30日 09時25分

 風采の上がらぬ中年男性ウォルター・ミティ氏には空想癖があり、何かきっかけがあるとすぐに心が現実から離れてしまう。車を運転していると海軍飛行艇の勇気ある大佐となり、手袋をはくとすご腕の名医になるという具合

 ▼といってもこれ、実在の人物でなくジェイムズ・サーバーのユーモア短編「虹をつかむ男」に登場する男性である。普段の生活がパッとしないからか、必ず自分を英雄に仕立てるのが特徴だ。もしかするとミティ氏と同じ空想癖があるのかもしれない。写真用にポーズを決めると世界を手玉にとったつもりになり、脅しを口にすると米国が恐れをなして許しを請うてくる気になり…と。金正恩朝鮮労働党委員長のことである

 ▼北朝鮮がきのう午前5時58分、また弾道ミサイルの発射を強行した。しかも本道上空を通過し襟裳岬の東方約1180㌔の海上に落下したそうだ。朝早くからスマホなどの緊急速報メールや全国瞬時警報システム「Jアラート」に安眠を破られた人も多かったろう。今回は日本に事前通告なしの奇襲だった。安倍首相も談話で述べていた通り、「これまでにない深刻かつ重大な脅威」だろう。米国を気にしてグアム方向を避けたことで、逆に日本への攻撃能力は確かだと強く印象付ける結果になった

 ▼金氏は今、こう思い描いて笑っているかもしれない。核兵器とミサイルを万全にした暁には国際社会で確固たる地位を築ける。それを実現した自分は国の偉大な英雄だ―。そうはいかない。ばかげた空想がすぎた。現実の国際社会は包囲網を一段と狭めよう。


違法さい帯血医療

2017年08月29日 09時20分

 人の理解力というのも案外あやふやなものであるらしい。こんな話がある。自閉症の子どもを持つ親がいろいろ治療法を試した末、わが子は食事療法で治ったと考えた

 ▼ただそれは統計的にも医学的にもありえない。ではなぜそう信じたのか。この治療法が良いと聞き、試したときに偶然症状が改善したからである。人は期待していた出来事が起こると、たとえそれが誤りでも正しい答えを見つけたと思い込むという。米国の心理学者が書いた『錯覚の科学』(文芸春秋)に教えられた。著者はこう注意を促す。「圧倒的な科学的証拠や統計値も、たった一人の個人的体験がもつ絶大な影響力にはかなわない」。知識や知能に関係なく、人は誰でも見たいものを見せてくれる物語の方に引っ張られる傾向があるのだとか

 ▼そんな夢物語で病気に苦しむ人を錯覚させ、暴利をむさぼろうとしたのだろう。医師ら6人が、破綻した「民間バンク」から流出したさい帯血で違法再生医療を行い逮捕された事件のことである。がんや美容に効くとの触れ込みで患者を集め、数百万円の医療費を請求していたらしい。ところが有効性や安全性には根拠がなく、国への届け出もしていなかった。いわゆる「えせ医療」である

 ▼医師に「治る」と言われれば悩んでいる人ほど信じてしまう。そこに付け込まれたわけだが、問題は「えせ」に身も心も捧げているうち標準治療を受ける金も時間も失ってしまうこと。人を錯覚に陥れるうその夢物語をはびこらせないためにも、国は「えせ」撲滅のための法整備を急いだ方がいい。


日勝峠10月末開通

2017年08月26日 09時20分

 直後の無残な光景をテレビや写真で目にした人なら誰でも、たった1年余りで、と驚きの念に打たれたのではないか。274号日勝峠のことである

 ▼昨年8月の台風で甚大な被害を受けて以来通行止めが続いているが、10月末開通のめどが立ったそうだ。道開発局などが発表した。幸い道東自動車道が当面の機能を肩代わりしてくれてはいる。ただ道央と道東を結ぶ大動脈が切れたままというのは、心細いものだった。ここに至るまでにはどれだけの技術と労力がつぎ込まれたのだろう。動脈手術の本家で、天皇陛下の冠動脈バイパス手術も執刀した天野篤順天堂医院心臓血管外科科長の言葉を思い出す。NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でこんなことを語っていた

 ▼「常に『ばか』がつくぐらい実直にやってますよ。一途一心という気持ちで」。ごまかしなしが信条だそう。陸の動脈たる日勝峠の復旧を担当した建設関係者も、同じ思いだったに違いない。遅れるとそれだけ地域の体力は奪われていく。多くの箇所で土砂崩れが起き、地盤ごと消失した道路もあった。流された橋もある。傷は大きく深く、状況は絶望的だったと言っていい。それが生活や物流、観光の要衝としてにぎわっていた日勝峠の変わり果てた姿だった

 ▼ところが調査・測量・設計、資機材や人の手配を経て着工したにもかかわらず、わずか1年での開通である。現場は山中で難所ばかり。絶妙なメスさばきがあったのだろう。関係者の熱意と技術力には全く頭が下がる。大手術を乗り越えた地域にもようやく笑顔が戻ろう。


旬のもの

2017年08月25日 09時10分

 通勤途中にふと街路樹のナナカマドを見上げると、既に赤い実を鈴なりにしたものが幾本かあった。つい先日まで咲き誇っていたアジサイもいつの間にかしおれている

 ▼二十四節気の処暑を過ぎたばかりでまだ暑い日が続くものの、秋は確実に近づいているらしい。冬の影がちらついて少々寂しくなるが、この時期ならではの楽しみもあるから沈んでばかりもいられぬ。それは枝豆やとうきびといった畑の恵みである。「枝豆や三寸飛んで口に入る」正岡子規。豆を手で押し出して食べる面白さと自然の甘さが最大の魅力だろう。「がむしゃらにたうもろこしを一人食ふ」藤森好美。とうきびを食べている間は一心不乱で、話などしている余裕はない

 ▼最近は筆者も週末になるたび近在の野菜直売所に足を運ぶ。やはりファンが多いとみえて、早い時間から山と積まれた商品には人が群がっていて、飛ぶように売れていく。収穫後は味が落ちる一方のため早く帰って急いでゆでたいのだ。考えることは皆同じである。枝豆もとうきびも大きな鍋でゆでたらざるに上げ、端から片付けていくのが北海道流。食べるとおいしいのはもちろん、活力も湧いてくるから不思議である

 ▼食を通じて人生に悩む人々を救う活動を続けていた佐藤初女さんは著書『おむすびの祈り』(集英社文庫)に、「食べ物をおいしいと思っていただくときには、細胞が動いて、体のすみずみまでエネルギーが伝わっていく」と記していた。なるほど、旬とはそういうことか。たぶんあのナナカマドの実をついばんでいた野鳥も同じだろう。


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