コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 276

枯れすすき?

2017年08月24日 09時25分

 好む好まざるとに関わらず、一度聴いたら頭から離れない歌謡曲がある。さくらと一郎の『昭和枯れすすき』(山田孝雄作詞)もその一つではないか

 ▼1番はよくご存じと思うが2番はこんな歌詞だった。「ふまれても/耐えた/そう/傷つきながら/淋しさを/かみしめ/夢を持とうと/話した/しあわせなんか/望まぬが/人並みでいたい/流れ星見つめ/二人は枯れすすき」。鬼気迫る歌声が今も頭の中に響く。この二人を枯れすすきというつもりはないのだが、歌詞がぴったりくるのでつい連想してしまった次第。民進党代表戦に立候補している前原誠司、枝野幸男両氏のことである。民主党政権が陥落して以来、耐え、傷つきながらも政権奪還の夢を話し合ってきただろう

 ▼ついでに言うと両氏は、この歌の底にある悲愴(ひそう)感と似たような雰囲気を常に漂わせている印象がある。ただの気のせいなのか。もっとも、世論調査で支持率はいつも1桁、離党も相次ぐ今の状況では笑ってもいられまい。民主党政権で閣僚を務めた仲とはいえ、両氏の考え方には開きもあるようだ。主な違いは消費税増税と憲法改正論議、共産党との共闘の3点だろう。前原氏が増税と憲法論議に積極的なのに対し枝野氏は消極的。また前原氏が共闘を見直す考えを表明する一方、枝野氏は前向きの姿勢を崩していない

 ▼さて議員と党員、サポーターはどう評価するのか。ちなみに応援する国会議員は前原氏側が高木義明元文科相、枝野氏側が菅直人元首相らだという。やはり枯れすすき…、でないと思いたいのだが。


大空と大地の中で

2017年08月23日 09時46分

 旅をしているといろいろな事情で予定に遅れの出ることがある。誰しも経験することではないか。『古今和歌集』の選者、紀貫之は土佐から京へ船で帰る途中、悪天に悩まされた。『土佐日記』に書いている

 ▼一度船出はしたものの、黒い雲が出て風も吹いてきたため港に引き返したことがあったそうだ。海が荒れ船はその場で足止め。貫之はこう言って嘆くのである。「船かへる。この間に雨ふりぬ。いとわびし」。早く帰りたいのに船は動かない。いらいらはつのり、ついに「何ごともおもほえず」の心持ち、つまり無気力に陥ってしまったそうだ。同船者たちも同じと見えて気晴らしを考える人も出てきた。何をしたか。歌を詠んだそうだ

 ▼この話を思い出したのは、歌手松山千春さんが20日、出発が遅れ険悪な雰囲気が漂い始めた全日空機内で代表曲「大空と大地の中で」を熱唱し、場を和ませたとの報を聞いたからである。和歌と曲との違いはあるにせよ、今も昔も歌は人の心を癒やすものであるらしい。Uターンラッシュによる保安検査場の混雑で、新千歳発大阪行きの便の乗客は1時間以上待機していたという。偶然乗り合わせた松山さんは機長に許可を得てマイクを握り、検査場の頑張りを伝えながら乗客もねぎらい、歌を披露したそうだ

 ▼なかなかできることではあるまい。ただ道産子なら「千春らしいな」との感想も出よう。歌が終わると乗客は拍手喝采。場も明るくなったらしい。貫之も歌が詠まれると船内で笑いが起こったと記していた。人の情に触れた旅はきっと宝物になったろう。


日韓徴用工問題

2017年08月22日 09時07分

 一流の手品師になれるかどうかの分かれ目は、「はったり」をいかに鮮やかに利かせられるかにあるらしい。心理学の学位も持つ手品師スティーブ・コーエン氏が著書『超一流の心理術』で明かしていた

 ▼「はったり」を観客に信じさせるには、自信を持ち断固とした口調でゆっくり話すことが重要だそう。才能のある手品師はどんな場合でも不安を外に出さずそれができるという。大胆不敵でなければならないのだ。コーエン氏は、この技術は一般の仕事でも使えると指摘する。例えば取引先との商談で妥当と思う以上の金額を提示してみよと勧めるのだ。そのときも気を付けるのは「それが当然の料金であるかのように振る舞うこと」

 ▼一流ならぬ凡人にはなかなか難しいが、この人物にはその種の才能があるのかもしれない。韓国の文在寅大統領である。先週、日韓間で既に解決済みの徴用工問題を蒸し返し、個人請求権は残っていると発言した。高値どころかないものをあるというのだから大胆不敵である。請求は当然であるかのような振る舞いだが、徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で決着している。しかも文氏は、徴用工への補償は国内事案とした05年の盧武鉉政権の見解作成にも関わっていた

 ▼変わり身の技も見事に決めた手品で出したかったのは、どうやらハトでなく国民の歓心。狙い通り国民からは喝采を浴びたらしい。ただ日本からすると演者は違えどネタはいつもの日本たたき。「はったり」とまでは言わないが、種も仕掛けも結果も知っている手品ほどつまらないものはない。


「病は気から」解明

2017年08月19日 09時10分

 物理学者のアインシュタインは1922年10月、欧州から日本に向かう船上にいた。講演に招かれたためだが、そこで気の病に取りつかれたそうだ

 ▼比企寿美子さんのエッセイ「船上のドクトル」に教えられたことである。アインシュタインは長旅により体調を崩し、胃腸に異常も感じられたことから自分は直腸がんに違いないと思い込んでしまったのだとか。それを悲観して、ノイローゼにもなってしまったらしい。幸いなことに、船にはたまたまドイツ語の堪能な日本人医師が乗り合わせていて、すぐに丁寧な診察を受けられた。診断は旅の疲れ。今なら過度のストレスによる身体反応といったところか。結果を聞いたアインシュタインは気が晴れ、速やかに回復したという

 ▼そんなアインシュタインである。存命ならこの研究にさぞかし興味を引かれたろう。村上正晃北大教授(免疫学)のチームが、ストレスが胃腸の病気や突然死につながる仕組みを解明し、オンライン科学誌イーライフに発表したそうだ。チームはマウスに慢性的ストレスを与えた上で、自分の神経を攻撃する免疫細胞を注入。7割にも上った死亡例を調べ、ストレスで脳に発した炎症が胃腸や心臓に悪影響をもたらす事実を突き止めた

 ▼追い込まれると必ず胃の不調を訴える人も、都合の良い逃げ口上を言っているだけではなかったわけだ。さて、お盆も終わり、月曜から再び仕事フル回転の毎日が始まる。うんざりしている人も多かろう。ただ、「病は気から」である。過度なストレスが生じぬよう職場全体で配慮できればいい。


夏の長雨

2017年08月18日 09時09分

 もう20年近く前の話だが、宮之浦岳を登山がてら縄文杉を見るため屋久島を訪れたことがある。淀川登山口から荒川に縦走するルートで、日程は2泊3日

 ▼本道とは趣を異にする山容や樹齢数千年といわれる杉の巨木、こけむした深い森には胸を打たれた。ただ、全行程のうち雨に当たらなかったのは最初と最後の数時間のみ。さすがに「屋久島では、1カ月に35日雨が降る」と聞かされただけあると感心したものだ。もちろん「1カ月に35日」は大げさだが、東京や仙台に暮らす人もそろそろそんな気分にとらわれているのでないか。両地域とも記録的長雨に見舞われている。東京では今月1日からきのうまで17日、仙台でも7月22日からきのうまで27日連続で雨が降ったそうだ

 ▼「水面に刺さる一瞬水ならず輪をひらきつつ走る雨脚」時田則雄。そんな光景が毎日のことらしい。特に東京では統計開始以来2番目、8月としては22日連続して降った1977年に次ぐ長さとのこと。かなりうっとうしい記録だが。雨だけでなく日照不足と低温も困りものだ。関東では野菜が値上がりを始め、夏物商戦やレジャーも軒並み低迷していると聞く。消費は湿るばかりだろう

 ▼内閣府は先頃、ことし4―6月期のGDP速報値を発表した。実質で前期比1.0%増、年率換算で4.0%増と好調だった。けん引役の一つは個人消費である。それがここにきて天候不順の急ブレーキ。実はこの天気、全国的な傾向という。1カ月で35日とは言わないがせめて半分は晴れてくれないと、消費も心も上向きそうにない。


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