コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 278

未来予想図

2017年08月05日 09時10分

 ネット上で今週の初め、とある出来事が物議を醸した。テレビ朝日がHPで「ザ・スクープスペシャル」の番組内容を告知した件である。問題はそのタイトル。「ビキニ事件63年目の真実~フクシマの未来予想図~」となっていたのである

 ▼水爆実験があった米マーシャル諸島の現在を取材したものだが、福島をわざわざ片仮名で表記し、水爆実験と結び付けて将来不安をかき立てる宣伝文句に大きな批判が起こった。ただでさえ放射能に関する誤解と偏見に悩まされている福島である。いまだ風評被害やいじめに苦しむ人も少なくないと聞く。そんな中でのこの無神経なタイトル付け。良識を疑われても仕方ない。テレビ朝日は騒ぎになったその日のうちに文言を削除したそうだ

 ▼福島県は震災後、県民の思いを伝えるアニメ「みらいへの手紙」を制作し続けている。11通目となる今回の「手紙」では、谷村新司氏が県内外から寄せられた「ふくしまへの想い」825通を基に作った歌「雲のかなた」が使われた。現実と向き合いながら、これからも愛する福島を大切にしていきたいとの内容だが、歌詞の中にこんな一節があった。「10 years after 未来図は この手の中にある」

 ▼テレビ朝日の番組は、広島原爆記念日のあす放送予定だった。水爆実験と原発事故、原爆をつなげることで恐怖心をあおり、視聴率を上げようとしたのだろう。しかも未来まで予想してやろうと。何もテレビ朝日に「未来予想図」を示してもらうまでもない。福島の未来は、もう「この手の中にある」そうだ。


安倍内閣改造

2017年08月04日 09時28分

 甲斐から信濃へと領国拡大に成功した戦国武将武田信玄の戦における基本理念は「不敗主義」にあったらしい。歴史作家の百瀬明治氏がエッセイ「名勝負・決戦川中島」に書いている

 ▼「不敗主義」は中国の兵書『孫子』にある教えで、「必勝の条件はなかなかつくり出せないが、不敗の態勢をかためることは可能」との実際的考えに基づいた戦法だという。信玄は川中島の戦いでも徹底して主力決戦を避けたそうだ。上杉謙信の支配地に入り込み、その陣をたたいては引き、たたいては引きを繰り返した。決して無理押しはせず、大きな戦いもしないが確実に相手の勢力を削っていく。この戦法には謙信もほとほと手を焼いたのだとか

 ▼安倍首相がきのう、懸案だった内閣改造を済ませた。信玄に倣ったわけでもあるまいが、閣僚の顔ぶれを見ると今次内閣はどうやら「不敗主義」で行くようである。勝つためでなく、負けないための布陣。好戦的態度は封印し、堅実に支持率を上げていこうとの作戦ではないか。麻生副総理や菅官房長官、石井国交相ら基軸の大臣は変えず、今後矢面に立たされる文科相に林芳正氏、防衛相に小野寺五典氏と経験のある人物を充てた。意外といえば首相と距離のある野田聖子氏を総務相に、辛口の河野太郎氏を外相にしたことくらいか

 ▼首相は信玄のこんな言葉を胸に刻んでおくといい。「下々の批判、能々聞き届け、縦(たとえ)如何様に腹立ち候ふ共堪忍して、隠密を以て工夫すべき」。人の話をよく聴き冷静に対処する。それができる内閣なら支持率も上がってこよう。


正しい使い方

2017年08月03日 09時20分

 誰もが一度や二度、似たような経験をしているのではないか。例えば少し高い棚の上の物を取りたかったとする。ところが、脚立も踏み台も見当たらない。そこで目に付いたのが百科事典。重くて平たいから安定しそうだし、何冊か重ねれば高さもちょうどいい

 ▼いざ実行してみると、これが案外と狭く足元もグラグラする。それでも上の物に手を伸ばすと注意がそちらに向き足元はお留守。あわや転倒というわけだ。実際には事故になることなどほとんどないだろう。ただ、いつもうまくいくとも限らないのである。代わりに使えそうに見えても、やはり人が乗れるように安定性も形状も考慮して作られた専用の道具とは違うのである

 ▼70歳代の女性が足専用の家庭用電気マッサージ器を他の部分で使っていて死亡した事故が最近あったと聞き、そんな自らの過去の失敗を思い出した。マッサージ器はローラー型で、女性は布カバーを外し、首の下に置いて作動させていたところ服が巻き込まれ窒息死したという。この器具は「的場電機製作所」が1988年に販売を始めた「シェイプアップローラーⅡ」で、姉妹機も含め過去に同様の事故が発生しているため厚労省と同社が使用中止を呼び掛けていたそうだ

 ▼同じかは分からないが、昔、筆者の母も足用の似た器具を持っていた。布カバーこそ外していなかったものの、首にも使っていたと記憶にある。単純な構造ゆえいろいろ応用できたのだろう。何に付け用途外の使い方はしないに越したことはない。百科事典だって時に大けがの原因になるのだから。


白鵬の年寄株

2017年08月02日 09時10分

 米歌手ジョン・デンバーの名曲の一つに「故郷に帰りたい」(和題)がある。オリビア・ニュートン・ジョンが歌って大ヒットした「カントリー・ロード」と言った方がピンとくるかもしれない

 ▼郷愁を誘うこんな歌詞があった。―故郷へと続く道よ、連れて行ってくれないか、私の心が今も住むあの西バージニアの母なる山に―。働く場所を求めて故郷を離れたのではないか。時間がたっても忘れられないのだろう。思い出に浸るだけでなく、自分の仕事を成し遂げた暁には故郷に帰ってのんびり暮らしたい。そう考える人は少なくないに違いない。故国モンゴルへの愛着の強さを考えると、大相撲の横綱白鵬も似た思いを抱いているのではないか

 ▼それだけに悩みも深いはずである。日本の国籍を取得すべきか否か。現在の日本相撲協会の規定では、国籍が日本でなければ年寄株が持てない。白鵬は部屋を持って後進を育てたいとの希望があるが、親方になるためにはモンゴル国籍を捨てねばならないのである。先の名古屋場所で幕内最高の優勝39回、通算1050勝の大記録を打ち立てた白鵬も規定には勝てない。国籍規定など古くからあるわけでもなし、固いこと言わなくても、との素人考えも出るがそうもいかないようだ

 ▼ただ、国技だからというなら既に横綱としてこれだけの成績を収めているし、協会秩序のためというなら柔軟な対応もできる。日本国籍を取得する方向との報も聞こえているが内心は複雑だろう。故郷へと続く道が途絶えてしまうようなものである。はて何か妙案はないものか。


安倍内閣改造

2017年08月01日 09時36分

 戦前の児童文学界の第一人者、小川未明の童話に「赤いろうそくと人魚」がある。ご存じの人も多いだろう。とある町に住むろうそく売りの老夫婦が人魚の赤ちゃんを拾って大切に育てる話だ

 ▼人魚が驚くほど美しい娘に成長したころ、一人の香具師(やし)が見世物にするから売ってくれとやって来る。老夫婦は大金に目がくらみ人魚を渡してしまう。それからは海が荒れるようになり、海難事故が相次ぐのである。老夫婦の優しさはメッキで、金の亡者が地金だったというわけ。地金とはその人の隠された本性だから、それがあらわになると他人に付け込まれやすいし自分の脇も甘くなる。見ていると最近の安倍首相も、また地金を出して失敗しているなと思わずにいられない

 ▼まず稲田朋美氏のことである。28日、持ちこたえられず防衛相を辞任したが、異例の抜てきまでして入閣させた首相は最後まで稲田氏を守ろうとした。戦後日本の自虐史観否定など首相と思想信条を同じくすることがその理由らしい。国有地の安値払い下げが疑惑を持たれた森友学園問題もそう。どうやら空騒ぎだったようだが、もともと道徳教育を重視する籠池理事長の教育方針に首相が共鳴したのが発端である

 ▼デフレ脱却に力を注いでいるうちは良かった。ところが地金であろういわゆるタカ派的性格が出ると足元をすくわれる。「戦後レジームからの脱却」をうたい文句にした一次内閣時と同様でないか。あさってには政権浮揚を期して内閣改造が行われるという。さて新装安倍丸の行方は安定航海か、それとも難破か。


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