コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 281

夏の交通安全運動

2017年07月14日 09時14分

 二連から成る山本隆さんの詩に目が留まった。『あなたにあいたくて生まれてきた詩』(新潮文庫)の一編である。題は「かぞく」。前段の一連はこうつづられる

 ▼「おとうちゃんがおった/おかあちゃんがおった/おじいちゃんがおった/おばあちゃんがおった/いもうともおったしぼくもおった」。三世代6人で仲良く暮らしている家族なのだろう。家族だんらんを楽しむごく当たり前の幸せな風景が目に浮かぶ。さて、後段の二連も紹介したい。こう続くのである。「おかあちゃんもおる/おじいちゃんもおる/おばあちゃんもおる/いもうともおるしぼくもおる/みんなはいつまでおれっだらーか/ぼくはいつまでおれっだらーか」

 ▼お気付きと思うが、二連では「おとうちゃん」の文字が消えている。父の突然の死に際して「ぼく」である山本さんが書いた詩だという。家族の中に開いた大きな穴を見て悲しみ恐れ、「みんなは」「ぼくは」いつまで一緒にいられるのかと心が悲鳴を上げているのである。毎日必ずそこに座っていた人が、きょうはもういない。そんな悪夢のような現実をつくり出すものの一つが交通事故である。小樽で海水浴帰りの女性4人が飲酒運転の男にひき逃げされ死傷した事故からきのうで3年がたつ

 ▼旭川で女性教諭がやはり飲酒運転の男に衝突され亡くなった事故はつい先日判決が出た。突然奪われた子ども、妻、母の命。いくら時間がたっても、厳しい判決が出ても家族の穴は埋まらない。夏の交通安全運動が始まっている。ドライバーにはいま一度自覚を促したい。


九州北部豪雨から1週間

2017年07月13日 09時15分

 歌人窪田空穂が1923年の関東大震災に際してこんな歌を詠んでいた。「東京に地平線を見ぬここにして思ひかけねば見つつ驚く」。それまでは建物が立ち並び見通しが利かなかったのに、全て倒壊して何もなくなってしまうと、思いがけず地平線が見えたというのである

 ▼見慣れた風景を突然失う。災害は違えど九州北部豪雨に襲われた人も同じ経験をしたのでないか。記録的大雨を観測してから1週間が過ぎた。ところが激しい雨と土砂崩れ、大量の流木のため自衛隊や警察、消防などの必死の救助活動は難航。事態は長期化の様相を呈している。福岡県内には依然連絡の取れない人が20人以上いるほか、大分県日田市では数カ所の集落合わせてまだ多くの人が孤立しているそうだ。亡くなった人も両県で27人を超える

 ▼帰る場所も大切な畑も失い、身の安全もままならない。住民の皆さんの心痛はいかばかりか。しかもようやく大雨が終わったかと思えば、30度を超える厳しい暑さが追い打ちをかけている。今回は植林されたスギの保水力や山の適正な管理、きめ細かな内水氾濫対策の遅れといった人為的な問題も指摘された。ただ、5日の朝倉市のように24時間雨量が516㍉にも達するのでは…

 ▼心配なのはこのところ毎年、日本のどこかで想像を超える大雨が降るようになったことである。もはや災害というより攻撃と捉えるべきなのかもしれない。安倍首相はきのう、現地を視察した。テロとの戦いに向け法整備を終えたばかりだが、災害との戦いも新たな段階に入っているのではないか。


125年ぶりの暑さ

2017年07月12日 09時30分

 札幌農学校で2代目教頭を務めた米国の土木技術者ウイリアム・ホイラーは、本道気象観測の父でもあった。氏が開拓使から「荒寒のやせ地で開拓するには、気象観測が必要」と要望を受け、1876(明治9)年に札幌区東創成通(現中央区南2東1)で観測に当たったのが始まりだそう

 ▼観測開始は日本で3番目。明治政府はそれだけ本道農業の成功に賭けていたわけである。「札幌管区気象台の歴史」に学んだ。氏は79(明治12)年12月に任期を終えて帰国した。ただその後も気象台の前身札幌測候所を中心に観測と研究は続けられ、92(明治25)年、とうとう天気予報を発表できるところまでこぎ着けたのだとか。当時は道庁の塔の上に旗を掲げて周知を図ったらしい

 ▼札幌の人々は流れる汗をぬぐいながら旗を見上げたのではないか。どうやらかなり暑い年だったようだ。札幌もおとといまで真夏日が4日続いていた。7月上旬時点でのこの日数は、天気予報が始まった92年以来、125年ぶりだという。札幌だけでなく旭川や北見、帯広といった主要都市も連日厳しい暑さに見舞われている。10日は全道173の観測地点のうち実に74地点で真夏日を記録した。明治中期と同じ経験などめったにできないとはいえ、正直に言って迷惑な話である

 ▼「炎昼のこもれば病むと異ならず」大野林火。しつこく続く暑さのため、熱中症が原因と思われる救急搬送が相次いでいるそうだ。中にはバテて体力を落としている人もいよう。天気予報に罪はないが、つい恨めしく眺めてしまうきょうこのごろである。


沖ノ島が世界遺産に

2017年07月11日 09時45分

 遠い歴史のことを考えるとき、自分の頭の中には出来の悪い紙芝居のような中身しかないことに気付きいつもがっかりする。ほとんどが教科書で学んだぶつ切りの知識だけだからだろう。実際は古代にも、今と変わらぬ生き生きとした人々の暮らしがあったはずである

 ▼そんな紙芝居の知識に命を吹き込んでくれる朗報が飛び込んできた。「海の正倉院」とも称される沖ノ島(福岡県)の世界遺産登録が決まったのだ。ポーランドで開かれているユネスコ世界遺産委員会で、9日に決議された。区分は文化遺産で、「一覧表」に記載される名称は「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」。古代祭祀(さいし)の変遷を示す4世紀から9世紀の間の考古遺跡が、ほぼ手つかずの状態で現代まで残されているという

 ▼興味深いのは、この国家的祭祀が対外交流のための海上安全を願うものだったことである。文化や技術を求め、精力的に新羅や高句麗といった朝鮮半島と行き来していた当時の人々の姿が目に浮かぶ。その時代、平和な交流ばかりでなく戦いや中国の政変による渡来人の大量流入もあった。いずれも日本が国として成立する上で大きな役割を果たした出来事である

 ▼安倍首相と文在寅韓国大統領が先週、初会談を開き、交互に相手国を訪問する「シャトル外交」の再開で一致した。せっかくだから慌てずじっくり取り組もうではないか。日韓は時に友好を深め、時にぶつかりながら互いを成長させてきた。折しも世界遺産登録が決まった「沖ノ島」は、そんな密接な歴史を証明するものでもある。


北方領土が特区?

2017年07月08日 09時00分

 発達した交通と情報化により世界は狭くなったといわれる。ただ実際には人それぞれだろう。世界になど関心がない人も多い

 ▼『テルマエ・ロマエ』の作品で知られる漫画家のヤマザキマリさんはそれをもったいないと考えているそうだ。著書『国境のない生き方』(小学館新書)で、頭の中の地図を「町でもなく、国でもなく、自分が生きているこの地球」にまで広げられれば、ものの見え方が変わると勧めていた。ロシアが6日、北方領土の経済特区「先行発展地域」指定を決めたとの報を聞き、ヤマザキさんの言葉を思い出した。人口の0.4%しかいない極東地域の辺境に随分な力の入れようではないかと思ったのだが、どうやら筆者の頭の中の地図が狭すぎたようだ

 ▼ロシアは歴史上、いつも良港を開ける海を欲してきた。国土面積こそ世界一なものの、北の海は氷に閉ざされ、西の海は欧州諸国に押さえられていたためである。国際的にはいわば袋のネズミ。まあ、袋もネズミも桁違いに大きいのだが。しかも国土面積の2割に当たる欧州側地域に人口の7割が集中しているため、極東は半ば忘れられた存在だった。ところが世界が狭くなったことで東の玄関としてがぜん価値が出てきたのである

 ▼モスクワ―国後間7000㌔も昔なら移動を諦める距離だが空路充実の今はどうか。ちなみに東京―ハワイ間が6000㌔である。情報通信にも不利はない。もしロシアが本気で開発に乗り出せば北方領土返還は一層遠のこう。日本も頭の中の地図を見直し、早急に戦略を練り直すべきではないか。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • web企画
  • 北海道水替事業協同組合
  • オノデラ

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,467)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,290)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,181)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,080)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (811)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。