文章表現やコミュニケーション能力の指導をしている山田ズーニーさんは、長年勤めたベネッセを辞めて独立した後、自分の言葉が突然無力になる経験をしたそうだ
▼誰に何をどう言っても、理解されなくなったらしい。会社時代と同じことを、同じ手続きで話しているのにもかかわらずである。『あなたの話はなぜ「通じない」のか』(筑摩書房)で当時を振り返っていた。「翼をもがれ」たような気がしたという。言葉に力が戻ってきたのは、3年ほどたってからだったようだ。それでようやく分かったのだとか。「言葉が通じないのは、通じるだけの信頼関係がないからだ」と。肩書や所属に原因があったわけではなかったのである
▼この人の場合も、精一杯やっているのになぜ私の言葉が多くの人に受け入れられないのかと、歯がみし続けた10カ月でなかったか。蓮舫氏のことである。おとといの記者会見で、民進党代表を辞任する意思を明らかにした。国民との信頼関係ができなかったということだろう。NHK放送文化研究所の月例調査によると、蓮舫氏代表就任直後の民進党支持率は9.9%。悪くない滑り出しだった。ところが翌月にはもう落ち始め、今月はとうとう5.8%である
▼相手の人格を攻撃する弁舌や一貫しない二重国籍の説明を聞かされ続けては、信頼が育たないのも当たり前。ただ蓮舫氏にのみ責任を負わせるのは不公平だろう。代表を支えようとの気概が民進党からはまるで感じられなかった。それぞれ別の方を向き信頼関係も築けない党が国民に信頼されるわけもない。