コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 285

阿寒摩周国立公園

2017年06月16日 09時31分

 古来、アイヌ民族は生まれたばかりの赤ちゃんに名前を付けなかったそうだ。かわいい名前を付けると悪い神様に見つかってしまうからだという

 ▼名前が付くのは8歳ころ。個性や特徴も現れてきて、将来に託す希望を見極めながらの名付けもしやすくなるのだとか。例えば男の子なら「いつも獲物に出会う」を意味するトゥカンコロ、女の子なら「食べる物に不自由しない」を意味するハルコロといった具合である。そこへいくと近年幅を利かすいわゆる「キラキラネーム」などは、個性も希望もあったものではない。語感と響きだけのこと。まあ、文句を言う筋合いのことでもないが。とはいえ、やはり「名は体を表す」方が分かりやすい。人だけでなく国立公園もである

 ▼13日の環境省中央環境審議会で、阿寒国立公園の名称を「阿寒摩周国立公園」に変更することが決まったそうだ。朗報だろう。これまでは阿寒と摩周両方の努力で成功させてきた事業が、一方の名前だけで語られていたようなものだった。景勝地神ノ子池周辺も区域に加えられたという。この名称変更、今後いろいろと良い効果をもたらすのではないか。その一つがJR北海道単独で維持困難とされる釧網本線の問題である

 ▼この路線は釧路から行くと釧路湿原、阿寒(現行)両国立公園の内懐を走り、知床国立公園の入り口にいざなう。三つの国立公園を一本のローカル線で楽しめるのはここくらいだろう。個性や特徴を正しく表した「阿寒摩周」になれば認知度も上がる。知恵も試されようが、大きく育つ予感は小さくない。


グリーンスリーブス

2017年06月15日 09時04分

 若い人にはなじみがないのかもしれないが、年配の方なら「グリーンスリーブス」の曲をよくご存じなのではないか。題名にピンとこなくても、聞けば「ああ、これか」とすぐに思い出すに違いない

 ▼内容は別れてしまった緑の袖の女性への未練を歌ったもの。私は長いことあなたを愛していたのに、あなたは私を投げ捨てた。そばにいるだけで満ち足りていたのに、とこんな調子。哀感漂うイングランド民謡である。英国のメイ首相も今頃、「あなた方国民は私を投げ捨てた」とため息をつきながら、そんな自国の民謡を口ずさんでいるかもしれない。圧倒的支持を受けて就任してまだ1年もたっていないのに、急速に求心力を失っているのである

 ▼EU離脱を問う国民投票から一定の時間が過ぎ、どうやら国民の頭も少し冷えてきたらしい。メイ首相の強硬路線、いわゆる「ハード・ブレグジット」を警戒する穏健派が台頭しているのだ。その結果が、先週の英下院総選挙での与党・保守党の過半数割れである。揺れ動く人の心を、長いこと一つにとどめておくのは難しい。メイ首相はそれを実感しているだろう。とはいえ、政治が生き物なのは何も英国に限った話ではない

 ▼NHKの最新政治意識月例調査によると、6月は安倍内閣を支持する人が減り、しない人が増える結果となった。どちらも2カ月連続である。野党の攻めが功を奏したというより、近頃の内閣の少々高飛車な態度が国民の鼻についたのでないか。国民の気持ちを見誤ると、安倍首相まで「グリーンスリーブス」を歌う羽目になる。


藤井聡太四段

2017年06月14日 09時50分

 その文章からは、芳ヶ江国際ピアノコンクールでの優勝を目指して競い合う若手ピアニストたちの喜びや苦悩が痛いほど伝わってくる。といってもこれ、本当の話ではない

 ▼ことし直木賞を受賞した恩田陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)である。登場するのはピアノ界のサラブレッドや一度は夢を諦めた青年、母の死の衝撃で長らく演奏ができなかった少女。皆それぞれ、絶対に負けられない理由を抱えている。もう一人、物語に大きなうねりを起こす人物がいる。それは風間塵という16歳の青年。養蜂家の父と共に各地を転々としているため家にはピアノもないのだが、ひょんなことから音楽家ホフマンに天賦の才を見いだされ、圧倒的な技術と表現力を身に付けるのである

 ▼将棋界に大きなうねりを起こしながら快進撃を続ける藤井聡太四段を見ていて、この風間青年を思い起こさずにはいられなかった。天才と呼んで差し支えあるまい。何せ小4で入門したその日に師匠の杉本昌隆七段を破ったと聞く。プロ棋士とはいえまだ14歳、中学3年生である。多感な年頃だろうに超が付くほど熱心な研究を毎日しているらしい。現在、公式戦歴代2位の25連勝中だ

 ▼恩田さんは小説で師匠ホフマンに、風間青年は「ギフト」だが「災厄」にもなると語らせていた。決めるのは皆さんだ、とも。世間の浮かれ騒ぎを見ていると、さもありなん。実力は非凡でも14歳である。絶対に負けられないとの重圧は一局ごと増していよう。天からの贈り物を台無しにしないためにも、もう少し静かに見守りたいもの。


未来投資戦略

2017年06月13日 10時13分

 自信を持って始めた事なのに周囲からは理解も協力も得られず、にっちもさっちもいかなくなる。そんな経験の一度や二度、誰にでもあるのでないか

 ▼当方はそんなとき、二宮尊徳のこんな言葉を思い出す。「尊い大道も、文字にして書物にしただけでは、世の中を潤すことなく、役立つことはない」(『二宮翁夜話』PHP研究所)。書物は氷のようなもの。そのままで水のように役立つわけがないとの教えである。書物も事業計画も同じだろう。翁は続けてこう説く。凍った書物は「胸中の温気によって、その内容をよく溶かして」元の水に戻して使いなさい。つまり、ありがたい言葉の羅列で満足するのでなく、日々実践するための具体策を考えることが大事というのである

 ▼さてその点、こちらは翁のお眼鏡にかなうものになっているかどうか。政府が先週、新たな成長戦略「未来投資戦略2017」を閣議決定した。タイトルは「Society5.0の実現に向けた改革」。最初から手ごわい氷である。この「5.0」、あらゆる産業や社会生活にIoTやAI、ロボットといった革新技術を取り入れ、さまざまな課題を解決するらしい。実にありがたい話ではある

 ▼ただ、政府や官僚は氷を作るのは得意だが、溶かして使いやすい水にすることは苦手である。それも踏まえてか、新戦略には失敗を恐れず挑戦できる仕組みもあるそうだ。アベノミクス第3の矢となる新戦略である。未来の日本の隅々にまで行き渡る豊かな水になるのか、凍った書物のまま終わるのか、政府の胸中の温気やいかに。


前川文書再調査

2017年06月10日 09時10分

 トランプ米大統領はその名前に反し、カードゲームはあまりお得意でないのかもしれない。大事な場面で深慮なく手の内を見せてしまう傾向があるようだ

 ▼就任後、コミー前FBI長官を手なずけようとしたときもそうだったらしい。コミー氏を夕食に招き繰り返し自分への「忠誠」を求めたという。別の日にはロシア米大統領選干渉疑惑の渦中にあったフリン前大統領補佐官の捜査中止を迫ったこともあったそうだ。「ババ抜き」ゲームの最中に、ジョーカーを見せながら相手にそれを引けと言っているようなもの。分かりやすい圧力である。コミー氏がおととい、米上院情報特別委員会の公聴会でトランプ氏とのやりとりを証言した。コミー氏はその内容を詳細に記録していたらしい。いわゆる「コミー・メモ」である

 ▼どうやら昨今は洋の東西を問わず、秘密のメモがはやっているようだ。日本でも加計学園問題で官邸サイドの不当関与を告発した前川喜平前文科事務次官の「前川文書」が大層な話題である。前川氏は「文書」を証拠に、獣医学部新設が国家戦略特区の枠組みを無視し「総理のご意向」で進められたと批判。前川氏のスキャンダル情報とも相まって、開催中の「YOSAKOI」さながらマスコミや国会はお祭り騒ぎである

 ▼松野文科相はきのう、「文書」の再調査をすると発表した。徹底して調べるといい。コミー氏との違いは前川氏が「文書」作成の当事者でないこと。その人物が判明すれば、本当は誰が誰にジョーカーを引かせたかったのか、はっきり見えてくるのではないか。


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