近頃はそれほど見掛けなくなったが、子どものころ、その不思議さに目を奪われた経験を持つ人も多いのではないか。日本の伝統玩具「やじろべえ」のことである
▼江戸時代からあるそうで、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に登場する弥次郎兵衛が名の由来という。旅の振り分け荷物から来たわけだ。片方を下げればもう片方が上がる。押しても引いても姿勢は必ず元に戻って倒れない。単純だが奥深い玩具である。どうやらそのやじろべえ、最近は名前が変わり、姿も大きくなっていたため目に入らなかったようだ。今はTPPと呼ぶ。伝統にのっとって日本風に言うと環太平洋経済連携協定である
▼そもそもは2010年に当時の民主党政権が参加を表明。このとき自民党は反対の立場をとっていた。12年に政権を取り戻した自民がその後、推進に転換すると、今度は民主が反対に回る。民進党になっても方針は変わらなかったものの、24日には蓮舫代表から本心は賛成なのではと思わせる発言が出たと聞く。右を上げれば左が下がる、左を上げれば右が下がる。いやはや政治家というのは実に伝統玩具を上手に楽しむものだと感心する。こちらとしては、与野党のマンネリ化した「伝統芸」にげんなりするばかりだが
▼さらには「俺をのけ者にするな」とばかり、海の向こうからトランプ米大統領が思い切り揺さぶりをかけてくる始末。さしものTPPやじろべえも安定を保てるかどうか怪しくなってきた。もともとが政治家弥次さん喜多さんの気ままな旅である。珍道中になるのも無理ないか。