コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 307

新たな一年

2017年01月05日 09時55分

 新しい年が来た、と誰もが何の疑問もなく受け入れているが、この年というもの、長年付き合っていてもどうにもつかみどころがない

 ▼星新一もそうだったとみえて、エッセイ『きまぐれ星のメモ』(角川文庫)では、まず100年間がどんな長さなのか実感することから始めていた。「地球ができてから今までの時間を東京タワーの高さであらわすと」、100年間は「一枚の切手の厚みに相当する」といった具合。つまり1年間というのは、地球の歴史と比べると1枚の切手の100分の1の厚みしかないというわけ。いやはや想像すると何とも心細い。一方で星氏はこうも言っている。この最新の切手には、「過去のどの時代ともくらべようのないほどの重大さが、ぎっしりとつまっている」

 ▼それもそのはず。電話やテレビ、コンピューターがちまたにあふれ、自動車や飛行機が普及し、人類が宇宙への進出を果たしたのは、ここ100年の話なのである。こんな急激な変化は地球の歴史上かつてなかった。そんな時代の今である。ことしも切手100分の1には収まり切らないほどの出来事があるに違いない。トランプ米大統領誕生、反グローバリズムの激化、民族主義の台頭…。既存の秩序を押し破り、波乱の芽は伸びつつある

 ▼日本とて無縁ではいられまい。星氏はこぼしていた。「東京タワーの高さほどの過去を持ちながら、切手の厚さ以下の未来を予測しようにも、方程式の作りようがない」。さあ、2017年。新たな方程式を作って未来を手に入れるのはどこの国の誰になるのか。


2017年は丁酉

2016年12月29日 11時30分

 いよいよ年の瀬も押し詰まってきた。ことしはまさに申年。大荒れの年だったと言っていいだろう

 ▼小欄でもその都度触れてきたのでここでは繰り返さないが、政治、経済はもちろんのこと、社会、災害、スポーツまで、国内に限らず世界中が騒がしかったのだから徹底したものである。まあ悪いことばかりでもなかったが。さて来年はどんな年になるのか。恒例により「干支(えと)」の教えるところを紹介したい。来る2017年は「丁酉(ひのととり)」である。「丁」とは壮年の男子を意味するという。いわば働き盛りで、結果を出せるまでに力をつけてきた段階。成長期の頂点は過ぎたが、脂が乗っているため盛んに前へ出ようとする。活発で発展的な動きが特徴だ

 ▼一方、「酉」の原義はニワトリでなく、「果実が極限まで熟した状態」をいうのだとか。成長期は終わったものの、最高の成果が得られるところに来ている。おいしく食べるのか、それとも熟れすぎて腐らすのか、大きな分かれ目に立つ。脂が乗った「丁」と、極限まで熟した「酉」の合わさったのが「丁酉」なのである。両者の勢いに違いがあるのにお気付きと思う。つまり代替わりしたばかりの二代目社長と、まだ鼻息の荒い会長が一緒に会社を経営するようなもの。吉と出れば大化けするが、凶となれば悲惨な末路をたどる

 ▼ことしは既存の秩序や常識が覆された年だったが、どうやら来年も一筋縄ではいかなそうだ。ただ上手にかじを取れば発展が見込める上に、熟した果実も味わえる。できれば好機をトリ込みたい。


年末の大掃除

2016年12月28日 09時38分

 きょうが仕事納めという人も多かろう。ことし一年も無事働けたと肩の力が抜ける日である。もっとも息をつくのもつかの間、家に帰ればすぐに雑巾を持たされ大掃除に駆り出されるかもしれぬ

 ▼家事評論家桑井いねさんが、随筆「暮れの大掃除」で12月に入ってから順にすす払い、拭き掃除、畳替え、神棚や仏壇の手入れと進めていく昔の習慣に触れていたが、今は年末に追い立てられてするのがほとんどでないか。安倍首相が米ハワイの真珠湾を訪問中だ。真珠湾攻撃の犠牲者を、オバマ米大統領とともに慰霊するためである。北方領土問題や平和条約について話し合った先日のプーチン露大統領との首脳会談に続く、戦後政治の大掃除の一環だろう。追い立てられたのかどうか、どちらの日程も年末に詰め込まれた

 ▼きょうの慰霊で安倍首相は戦争の惨禍を二度と繰り返さないことを誓い、かつて敵対していた日米両国が現在、緊密な同盟関係にある歴史を希望の印として世界に「和解の力」を訴えるそうだ。最近、「過去は変えられる」との論を聞くようになった。常識に反するようだが、要は事態が改善されると過去はただの苦痛から、成長のための跳躍台へと認識が変わることをいうらしい

 ▼評論家十返千鶴子さんにとって12月8日という過去は「鉛を飲んだような重い気分と深い衝撃」(随筆「忘れられない日」)だったそうだ。米国民は同じ苦い記憶に加え、いまだ憤りも感じていよう。安倍首相の慰霊が日米両国民の心を掃き清め、過去や未来を変えるきっかけになればいいのだが。


新潟大火

2016年12月27日 10時02分

 陸から海に向かって吹き、船を出すのに好都合な風を「だし風」と呼ぶそうだ。船出に良いだけではなく地域によっては稲作にも役立ったらしい

 ▼民謡「生保内節」(秋田県)では冒頭こう歌われている。「吹けや生保内東風(だし)/七日も八日も/吹けば宝風/ノオ/稲みのる」。山を越えて運ばれてきた暖かい空気が、稲の生長を促したのだろう。東北の日本海側では主に海向きの風になるフェーン現象である。夏は熱風に悩まされるものの、寒冷期は比較的暖かな風が吹く。特徴は寒暖どちらにせよ、乾燥した強風になること。もとより風に罪などないが、今回は悪条件が重なり大変な災害を招いたようだ

 ▼新潟県糸魚川市で先週起きた大火のことである。たった1軒から始まった火災は30時間にわたって燃え続け、150棟を超える家屋、計約4万m²を焼いたという。新潟県内では幾つかの「だし風」が発生するが、糸魚川市では姫川を下ってくる「姫川だし」が知られる。火はそれに乗ったらしい。乾燥した強風が終日吹き続けたその日に、木造密集地域の風上で火の手が上がったのである。当日の市内最大瞬間風速が24mあったというから手の付けようもなかったろう。被災した方々は不運というほかない。本当にお気の毒である

 ▼ただ人ごとではない。「だし風」はなくとも、木造密集地域は日本国中どこにでもある。例えば先週のような大雪に見舞われた札幌の住宅地で火事が起こればどうなるか。言い古された言葉とばかにせず、いま一度胸の内で拍子木を鳴らしたい。火の用心。


もんじゅ廃炉

2016年12月23日 11時10分

 もう何十年も前の話だが、アルカリイオン水生成器なるものを買ったことがある。出始めのころだったから相当値は張った。健康に良いとの触れ込みだったと記憶している

 ▼ところがこの代物、頻繁にフィルターを替えねばならぬし掃除も大変。定期的な部品交換が必要な上に、よく故障するときた。その費用がまた高いのである。狭い台所なのに場所もとる。結局すぐ使わなくなり、ただの置き物と化してしまった。家庭に起こった出来事で、扱う物が害のない水だから笑い話で済ませられる。成り行きは似ていても、これが国の一大事業で、扱う物が危険度の高い放射性物質となるとどうにも笑えない

 ▼高速増殖炉「もんじゅ」のことである。政府が正式に廃炉を決めたそうだ。消費した以上の核燃料を生み出す「夢の原子炉」として開発が始まったものの、事故や不具合が相次いだ上、内部の無責任体質も露呈し、ついに道半ばで引導を渡された。初臨界から約22年で稼働したのは250日だけだったという。人は昔から、外部エネルギーの供給なしに運動を続ける永久機関を夢見てきた。物理学的には実現不可能だが、もんじゅがそれに準ずる画期的技術だったのは事実。資源小国の日本としてはぜひとも成功させたかったはずである

 ▼頓挫したのはひとえに、ずさんで隠蔽(いんぺい)癖も抜けなかった旧動燃からの組織体質故だろう。政府は今後、次の段階の「実証炉」開発に入るそうだが、代わり映えしない組織体質なら結局置き物と化し無駄になるだけ。よく肝に銘じておくべきだろう。


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