コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 309

今年もあと半月

2016年12月15日 10時00分

 ことしも残すところあと半月である。年末に向け片付けねばならないことは山積みだが、同時に来年の用意もしておかねばならぬ

 ▼あれこれ考えていると面倒くさくなり、結局何も手を付けないまま日が過ぎていく。と、まあこれは当方のいつもの話。ただ、ご同輩も結構多いのでないか。そんな中でも忘れないのは来年の手帳の確保である。これがないと予定を記入しておけないため、後でひどい目に遭ってしまう。ところでことしは「申年は荒れる」の言葉通り、国内、国外共に波乱続きで、片付けねばならない問題が山積する年だったようだ。国外の出来事を見ていくと、アジアでは北朝鮮の相次ぐミサイル発射、中国の仲裁裁判所判決無視、韓国の朴槿恵大統領弾劾決定があった。共通するのは政権基盤の揺らぎだろう

 ▼欧州では英国のEU離脱、米国ではトランプ氏の次期大統領選勝利の大番狂わせがあった。グローバル経済に国民が「ノー」を突き付けたものだ。中東周辺ではテロと内戦の激化が続く。翻って国内に目を移すと、まず最大震度7を記録し、長期間余震が続いた熊本地震を忘れるわけにはいかない。災害対応と復興に重い課題を残した。消費税率かさ上げ再延期、東京都知事交代、天皇陛下退位意向表明…。宿題がありすぎて少々途方に暮れる

 ▼そしてきょうとあす、ここ日本で安倍、プーチンの日露首脳会談が行われる。まな板に上るのは北方領土問題だ。戦後以来の超が付く難問である。もし事態が前向きに動けば、手帳に新たな予定を書き加えることもできるのだが。


今年の漢字は「金」

2016年12月14日 10時00分

 昭和を代表する作詞家の一人である阿久悠はかつて、マスコミのニュース報道に抜けていることとしてこんな指摘をしていた

 ▼「気分とか感性、もっといい言い方をすれば〈時代の風〉のようなもの、これは正確には記録されていない」(『ただ時の過ぎゆかぬように』岩波書店)。起きた出来事そのものよりも、それが人々の心にどんな波紋を広げ、社会に影響を与えていくかの方がよっぽど大事だというのである。〈時代の風〉を的確につかみ、「勝手にしやがれ」「UFO」など数々のヒット曲を通してそれを伝えてきた氏ならではの主張ではないか。実際、派手な上っ面にばかり気を取られ、肝心の本質を捉え損なっている例は案外多いものだ

 ▼さて、歌ではないが、こちらも〈時代の風〉を教えてくれるものの一つだろう。日本漢字能力検定協会恒例の「今年の漢字」である。選ばれたのは「金」だった。リオデジャネイロ五輪での日本の金メダルラッシュや、政治と金の問題の続出がその理由だという。謎掛けではないが、しばし「そのこころ」を考えてみる。すると前者の「金」からは世界と互角に渡り合う日本の力強い若者の姿が、一方で後者の「金」からは今も変わらず裏取引を繰り広げる旧態依然たる政界の面々の顔が目に浮かんできた

 ▼新しい価値観と古い価値観。いわば真逆のものが同じ「金」一文字に込められたわけで、何とも皮肉というほかない。多分、この新旧対立や世代交代の動きこそが、〈時代の風〉なのだろう。押しとどめることはできない。乗るか、飛ばされるか。


オートファジー

2016年12月13日 11時58分

 先の週末は近年記憶にないほど体を酷使したという人も多かろう。そう、雪かきである。道内全域ではないが、札幌と一部地域でこの時期としては珍しいドカ雪が降った

 ▼札幌管区気象台によると、きのう午前9時現在の積雪は札幌が平年比4・2倍の63cm、恵庭は5・6倍の56cmにも達したそうだ。網走も4・2倍の38cmである。土曜の朝起きて外を眺め、見なかったことにしたいと思ったのは筆者だけであるまい。こう一気に降られたのでは家族総出で雪かきをするほかないと、慌ててホームセンターに向かったのだが考えることは皆同じ。除雪器具売り場は年末の市場のような大にぎわいである。スコップなどが文字通り飛ぶように売れていく。なかなかの壮観だった

 ▼交通事情はといえば、道路はまず車を雪の山から掘り出すところからだからお話にならない。鉄道やバス、航空各社のダイヤも乱れに乱れ、遅延、運休が相次いだ。土日のため通勤、通学にそれほど影響がなかったことだけは幸いだったが。雪かきに疲れた土曜の夜、目に入ってきたのは大隅良典東京工業大栄誉教授の、ノーベル賞授賞式直前の表情を伝えるテレビニュース

 ▼雪にうんざりしていたからだろう、誇らしさを感じると同時に、雪にも「オートファジー」があればいいのにと愚にも付かぬことを考えていた。オートファジーはたんぱく質をアミノ酸に分解して再利用する生命現象。雪にも自ら解ける仕組みがあればこんな楽なことはない。もっとも、春にはそうなる。冬は始まったばかりなのに、もう春が待ち遠しい。


漱石100年忌

2016年12月10日 09時30分

 きのうは夏目漱石が亡くなってちょうど100年の命日だった。漱石といえば日本で最もよく知られた明治の文豪だろう。いまだに人気も高い。作品の魅力が現代でも薄れていない証拠である

 ▼漱石は文学者というだけでなく、鋭い批評家でもあった。『吾輩は猫である』のような娯楽作品にも随所に社会への痛烈な風刺が見られる。きょうは漱石に敬意を表して、ネコになったつもりで最近の出来事を眺めてみたい。「近頃、人間の集会ではIR法案なるものが話し合われているとか。なに、猫だって寝てるふりをしながらテレビの音くらい聞いているのである。ホテルやカジノを集めた統合リゾートを造るというが、全く人間の騒がしいもの好きにはあきれる。日だまりに寝転んでいる以上の幸せがこの世にあるものか

 ▼大体、主人がパチンコから帰ってきたときといったら、ただのんびり寝ているだけの吾輩を怒鳴り散らすだけ。これがカジノなんぞできた日には皮を三味線屋に売られかねない。迷惑な話だ」「TPPが本決まりになったようである。いやPPAPだったか。吾輩横文字には少々弱い。主人はアメリカ産牛肉が安く食えるなどと大層浮かれているが、国産のコメや牛乳への打撃は避けられぬというではないか。合点がいかぬ。吾輩の愛する猫まんまはどうなる

 ▼まさか知恵自慢の人間が問題に頬かむりでもあるまい。もしわれらの安楽な生活に響くようなら猫族挙げてストを打ち、金輪際、人間とは遊ばないことにするから覚悟されたい」。さて、漱石ならネコに何と語らせたろう。


情報サイトの闇

2016年12月09日 09時44分

 人買いにだまされ売られ、悲惨な一家離散の憂き目に遭う―。森鴎外の『山椒大夫』である。子ども向けの「安寿と厨子王」としてご記憶の人もいよう

 ▼物語の冒頭、厨子王ら家族が旅の途中で泊まる場所もなく困っていると、土地の者らしい中年の男が現れる。男は笑みをたたえ、礼儀正しく自己紹介してからこう述べたそうだ。「わしは旅人を救うて遣ろうと思い立った」。既に大勢の旅人を世話しているという。家族にしてみれば「地獄に仏」。言葉遣いが柔らかく、物腰も落ち着いている。うそをつくような人には見えない。すっかり信用して案内されるまま付いて行ったが…。末路はご存じの通り

 ▼そんな古い物語を思い出したのは、プロ野球球団も所有する東証1部上場のIT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)の情報まとめサイトで、商業倫理を逸脱した非常に悪質な運営手法が発覚したからである。おととい、同社の経営陣が謝罪会見を開き、第三者委員会を置いて原因の究明を図ると表明した。発端は「Welq(ウェルク)」という健康医療情報サイトだったという。性格上、内容には正確さが求められるが、記事は誤った情報や盗用がほとんど。閲覧数を稼いで利益を増やすために書き手を安使いし、いかさまの手口を教えて大量の記事を乱造していたらしい

 ▼名前で信用させ、悩む人に寄り添うふりをしながら頭の中は金もうけのことでいっぱい。こんなサイトが今、DeNAに限らず他にも数多くあるという。やれやれ、これでは人買いもはだしで逃げ出すのではないか。


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