コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 83

藤井聡太が三冠

2021年09月15日 09時00分

 日本の人気ロックバンド「BUMP OF CHICKEN」(バンプ・オブ・チキン)の楽曲の一つに『アンサー』がある。自分の生きるべき道を見つけたときの高揚感を歌ったものだ

 ▼中にこんな一節があった。「だからもう 忘れない 忘れない 二度ともう 迷わない 迷わない 心臓が動いてる事の 吸って吐いてが続く事の 心がずっと熱い事の 確かな理由が」。実はこれ、将棋アニメの主題歌である。15歳でプロ棋士になった少年の青春を描く『3月のライオン』(羽海野チカ)の歌だが、題材は同じ将棋でも村田英雄さんの「吹けば飛ぶような」『王将』(西條八十作詞、船村徹作曲)とはずいぶん趣が違う

 ▼この人に似つかわしいのは、もちろん『アンサー』の方だろう。将棋の藤井聡太さんである。おととい、第6期叡王戦5番勝負の最終戦第5局で豊島将之叡王を下してタイトルを奪い、既に持っている棋聖と王位に加え三冠を達成した。19歳1カ月での三冠同時保持は史上最年少という。将棋界の〝レジェンド〟羽生善治九段の記録22歳3カ月を28年ぶりに更新したそうだ。マスコミをはじめ周りは大騒ぎだが、藤井三冠は至って冷静である。対局後の会見でも「タイトルの数より、自分にとってはどこまで強くなれるかが一番大事」と発言。道を究めるに余念がない。冠は結果にすぎないというわけだ

 ▼藤井三冠にとって将棋は呼吸をするように自然で、心が熱くなるものなのだろう。見ているこちらまで不思議と胸が弾む。来月は竜王戦だ。今度はどんな強さを見せてくれるのか。


弱さ

2021年09月14日 09時00分

 おとといからきのうにかけ、全道で暴風が吹き荒れた。竜巻注意情報がひっきりなしに出ていたくらいである。甚大な被害は伝えられていないものの、気付けば外に置いてあった物がなくなっていたという人も多いのでないか。風は固定されていない物を容赦なく吹き飛ばす。弱い所を決して見逃さない

 ▼本欄にも度々登場する歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は新型コロナウイルスもそれと同じだと指摘する。ウイルスが猛威を振るった結果、目くらましの覆いが飛ばされ、社会の弱い部分が明るみに出たというのである。著書『エマニュエル・トッドの思考地図』(筑摩書房)に記していた。コロナ禍の世の中の様子を眺めると、なるほど納得せざるを得ない

 ▼日本の弱さは何だろう。トッド氏は言及していないが、その大きな一つは生活の糧を失った若者や社会的弱者、学びの場や友だちと楽しく遊ぶ機会を奪われた子どもたちへの冷淡さかもしれない。大変な時期だからと我慢を強いるばかりである。折しも自民党総裁選へ向けた動きが活発になっている。立候補予定者の主張も聞こえ始めた。ただ、今のところ天下国家を声高に論じる人はいても、子どもたちの苦境について親身に語る人はいないようだ。残念なことである

 ▼日本では高齢化対策の手厚さに比べ少子化対策の中途半端さが目立つ。子ども関連の施策の弱さもその延長線上にあろう。健やかに育つ若年層がたくさんいなければ政治家がいくら天下国家を論じても無意味だ。総裁選候補者にはその辺の自覚がどの程度おありだろうか。


9.11

2021年09月11日 09時00分

 まずありえない事象が現実に起こってしまうことを「ブラック・スワン(黒い白鳥)」という。不確実性科学とリスク管理について研究する認識論者ナシーム・ニコラス・タレブが同名の著書(ダイヤモンド社)で提唱した考え方である

 ▼その特徴は「普通は起こらない」「とても大きな衝撃がある」「事後には予測が可能」の三つ。世の中が大混乱に陥った後で、この簡単なことがなぜ分からなかったかと嘆くのだ。典型的な例が2001年のきょう起こったアメリカ同時多発テロ事件である。あれからもう20年もたつとは信じられない。イスラム過激派テロリスト集団アルカイダにハイジャックされた旅客機が、ワールドトレードセンターに次々と突っ込んでいく映像は多くの人の脳裏にいまだ焼き付いたままでないか

 ▼当時、備えは薄かった。テロは容易だったと識者も後から指摘している。あの日を境に、米国のみならず世界は大きく変わった。テロとの戦いが国際的な最優先事項の一つになったのである。NHKが先日、興味深いニュースを伝えていた。最近実施された米国の世論調査で、「自国がテロの脅威からより安全になった」と考える人が10年前と比べ大幅に減少したというのである。テロとの戦いに費やしたこの20年で、安心感は醸成されなかったらしい

 ▼掃討したはずのタリバンが先月、再び支配者としてアフガニスタンに戻ってきたのも不安に拍車をかけているようだ。何よりブラック・スワンの存在に皆が気付いてしまった。できるのは羽ばたかせないよう知恵を絞ることのみである。


IR汚職

2021年09月10日 09時00分

 仲間が集まって手軽に遊べるテーブルゲームといえば、まずトランプの名が挙がるのではないか。ババ抜き、7並べ、大富豪―といろいろ楽しめるのが魅力である

 ▼中でもポーカーが一番好きという人も少なくあるまい。「ルールは5分で覚えられるが、極めるには一生かかる」との言葉があるくらい単純だが奥の深いゲームである。トランプの中でも特に駆け引きの要素が強いブラフの技術が求められるからだろう。ブラフとはうそのこと。簡単にいうと自分の役が最弱でも強い役を持っているふりをし、相手が場から降りるよう仕向けて勝つ技である。素人には少々難しいものの、これで勝つと〝してやったり〟の思いがあって実に気分がいい

 ▼ギャンブルに絡む事件だけに、この人も盛大にブラフをかけてみたのかもしれない。秋元司衆院議員である。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を巡る汚職事件で自身の無罪を強く主張したが、東京地裁に意見をことごとく退けられ、7日に実刑判決を受けた。収賄と組織犯罪処罰法違反で懲役4年である。裁判長は特に秋元議員が保釈中に手を染めた証人買収について「最低限の順法精神すら欠如している」と断罪。反省を求めた

 ▼秋元議員も贈賄側の中国企業から金品などを受け取った事実は大筋で認めている。ただ、それは賄賂でなかったと反論しているのだ。当時IR担当の内閣府副大臣だったことを考えると言い訳として苦しい。ポーカーにはこんな言葉もある。「降りない相手にはブラフするな」。秋元議員は即日控訴したが、さてどうなるか。


キラキラネーム

2021年09月09日 09時00分

 平成の時代に急増した現象にいわゆる「キラキラネーム」がある。言葉の意味や響きの良さを優先し、わが子に常識外れの名前を付けることだ。「天使(えんじぇる)」、「心(ぴゅあ)」という具合である。中には「今鹿(なうしか)」まであるそうだからもう何があってもおかしくない

 ▼文筆家の伊東ひとみさんがその実態に迫った『キラキラネームの大研究』(新潮新書)によると実は昔からあることだという。人の名前ではないが平安期にはイチゴを「覆盆子」、つゆくさを「鴨頭草」と表記していたそうだ。漢名をそのまま使っていたのである。日本人はそのころから和の言葉の響きを大切にし、漢字にはあまり頓着しなかったらしい

 ▼江戸や明治のころにも同じ傾向は見られたようだ。元からあった大和言葉を、後から入ってきた漢字に無理やり当てはめざるを得なかった歴史から生まれた日本ならではの文化というわけ。そこに英語まで加わったのだから、ネーム界が混沌とするのも当たり前である。公序良俗に反しない限りどんな名前を付けようと親の自由。誰にも文句を言われる筋合いはない。ただ役所には声を大にして言いたいことがあるようだ。漢字と読みがかけ離れているため、戸籍のデータ化がなかなか進まないというのである

 ▼上川陽子法相が7日、読み仮名の記載と漢字本来の読み方との違いをどの程度許容するかの検討に入る方針を表明した。現場の方々には同情する。いかに文化とはいえ、「王冠」を「てぃあら」と読ませるような名前ばかりでは作業が一向にはかどるまい。


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