コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 91

まん延防止措置解除

2021年07月10日 09時00分

まん延防止措置解除

 本道に適用されていた「まん延防止等重点措置」が、あしたいっぱいで解除される。それで生活が劇的に変わるわけではないものの、長い冬がやっと終わりに近づいてきた気がしないでもない

 ▼「屈みては見上げては春確かめぬ」那須野房子。実際の季節は既に夏だが、ようやく春が来たようなものだろう。新型コロナウイルスのせいで、感染拡大だ緊急事態だワクチンだと、季節をしみじみ感じる間もありはしない。振り返れば本道も5月9日に札幌がまん延防止の対象となったのを皮切りに、6月1日からの全道への緊急事態宣言とその延長、まん延防止への移行と身動きを制限される日々が長期に及んだ

 ▼多くの感染者と家族が苦しんだのはもちろん、飲食や観光を中心に生活の糧を奪われた人も少なくない。学校での対面授業がなくなった子どもや若者は、友人らと関係を深める機会まで奪われた。いつまでもこんな状態を続けるわけにはいかない。破綻や貧困、自殺といった大きな影響は遅れて出るのだ。ただ、札幌市に関しては当面、引き締めを全面解除せず、各種要請は様子を見ながら徐々に緩めていく方針という。減っていた感染に反転の兆しがあり、ワクチン接種がまだ十分に進んでいない今の本道では仕方あるまい。弱い立場にある人へは一層の目配りをしてもらいたい

 ▼とはいえしばらく会えずにいた祖父母の家へ気軽に行ける日もきっとそう遠くない。伊舎堂仁さんの一首を思い出す。「ばあちゃん家いきたくならない? 冬に窓あけてソーセージゆでてたら」。もう少しの辛抱だろう。


買収事件一律不起訴

2021年07月09日 09時00分

 いつのころからか警察が自転車泥棒の取り締まりを強めるようになった。警官が道端で自転車に乗っている人を止め、本人の物かどうか確認する光景が日常化して久しい

 ▼盗難捜査は本来、被害届が出てから始まるものだが、自転車泥棒に関しては犯人検挙とは別の目的もあるのだという。気軽に盗んで罪を罪とも思わなくなると、さらに悪質な犯行に走る例が多い。早い段階で、それに歯止めをかけようというのだ。軽い気持ちでも出来心でも犯罪であれば一定の制裁を科される。社会秩序を維持するためにはゆるがせにできない約束事だろう。ところでこちらの決定は、そんな大事な共通認識に反してはいないか

 ▼2019年7月の参院選を巡る買収事件で有罪となった河井克行元法相側から、当時現金を受け取った地元政治家ら100人全員を東京地検特捜部が不起訴にしたのである。河井被告が主導した事件で、河井側が一方的に現金を渡しただけだからなのだという。受け取った事実は変わらないのだが。過去にはもっと小さな選挙違反事件で、1万円程度の現金を受け取って起訴された例もある。河井事件では最も多い人で300万円、少ない人でも10万円はポケットに入れていたらしい。自転車どころか車が買える人までいそうである

 ▼蜜に群がる虫のごとく、選挙となると金に寄ってくる政治家や有権者が絶えない。これが全くのおとがめなしなら、〝とりあえず受け取っても後で何とでも言い訳ができる〟と勘違いする者がまた現れても不思議はない。一律不起訴は歯止めを壊すようなものだ。


泊原発敷地に活断層なし

2021年07月08日 09時00分

 原子力規制委員会で初代委員長を務めた田中俊一氏は原子力発電について、「原子力宗教」の言葉を使って懸念を表明していた。「2000年、3000年先の未来まで、原子力のエネルギーで賄うと言う人が未だにいるんですよ。燃料サイクルにこだわって。それは、ちょっと行き過ぎだと思います」

 ▼サイクル技術にも限界が見える。原子力をこの先永遠に頼れるエネルギー源と信じるのは無理だというのである。当時担当大臣だった細野豪志衆院議員が2月に出した『東電福島原発事故 自己調査報告』(徳間書店)の中で語っていた。一方で燃料の海外依存や脱炭素、再生エネルギーの効率の低さから原子力発電はまだ「相当な長期間は必要」とも指摘している。氏に同意する人も多いのでないか

 ▼このところ日本は毎年、電力危機に襲われる。昨冬も本州各地で供給予備率が数%に落ち、いつブラックアウトが起きてもおかしくなかった。胆振東部地震を経験した本道はその怖さを身に染みて知っている。安定したベース電源の確保が望まれるところだが、本道で最近一つ大きな動きがあった。原子力規制委員会が2日、北電泊原発の敷地内にある断層を〝活断層ではない〟と判断したのである

 ▼委員会のかたくなさに北電の不手際も重なり、審査に8年もかかってしまった。科学的検証に時間を要したというより、互いへの不信感でこじれにこじれた感が否めない。とはいえこれで再稼働に向け最大の難関は越えた。田中氏の言うように次のベース電源が見つかるまで、もうひと働きしてもらいたい。


大谷翔平選手

2021年07月07日 09時00分

 子どものころは「ウルトラマン」や「仮面ライダー」といった特撮ヒーローに憧れていたが、大人になってわが子と一緒にその手のテレビ番組を見るとつい笑ってしまう。〝わかる〟とうなずく人も少なくないのでないか

 ▼ここぞという場面で一撃必殺の技を繰り出し、入れ代わり立ち代わり襲ってくる怪人や怪獣をバッタバッタとなぎ倒す。ヒーローの強さが度を越しているし、話の展開も都合が良すぎるのである。そんなすごいヒーローは空想の世界にしかいない。大人なら誰もが知る事実だろう。ところが最近、ほら話としか思えないほど現実離れした活躍を見せてくれる人がいる。米大リーグ、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手だ

 ▼打席に立てば必ずホームランをかっ飛ばし、4日までの通算31号は両リーグ単独トップの成績。シーズン前半で松井秀喜さん(ヤンキース)の持つ日本人年間最多記録に並んだ。強さが度を越している。これが物語ならご都合主義が過ぎると笑われてもおかしくない。何せ6月28日のヤンキース戦から7試合で打った安打が全てホームランである。合間には投手としてマウンドに上がり、またある時には果敢に盗塁も決める。その上、人柄も絶賛されているというのだから感心するほかない

 ▼来週開催されるオールスター戦ではファン投票で指名打者に選ばれ、スタメン入り。選手間投票でも先発投手の一人に選ばれ、大リーグ史上初の「投手兼指名打者」で登録された。それが日本人なのである。大谷選手、実は君、空想の世界から抜け出してきたのではないか。


熱海土石流災害

2021年07月06日 09時00分

 戦国時代の合戦で山城を防衛するためよく使われた戦法に、攻め寄せる敵軍に上から大石や大木を転げ落とす攻撃があった。九州統一をもくろむ島津義久が高橋紹運の守る筑前(福岡県)の山城に攻め入った岩屋城の戦いが有名である

 ▼城を守る側は山上にたくさんの大石や大木を備えておき、敵を十分引きつけたところでそれらを次々と落としていく。最初だけ力を加えてやれば後は重力が勝手に仕事をしてくれた。静岡県熱海市で3日発生した大規模土石流災害は、上流部の盛り土部分を起点に崩落していることが分かったという。一帯は上流から下流まで土石流警戒区域だ。下流域の市街地を攻撃する意図があったわけではあるまいが、最も危ない最上流部の谷に崩れやすい盛り土をしていたとは信じ難い

 ▼因果関係はまだはっきり分かっていないものの、大量の盛り土が全て流失していることから、被害を甚大にしたのは間違いない。こう言っては何だが、山上に破壊兵器が置かれていたようなものだろう。土石流が建物や車を巻き込みながら流れ下る映像は衝撃だった。少なくとも130棟が被災し、安否不明者もかなりの数に上るそうだ。自衛隊や警察、消防が懸命の捜索を続けている。多くの人の無事が確認されるといいのだが

 ▼県も開発行為による盛り土があった事実を把握し、災害との関係を検証する構えと聞く。ただ、現地は土石流警戒区域の最上流部。地域を熟知しているはずの行政が開発行為を止めなかった責任も問われよう。地形を一体的に捉える昔の知恵が忘れられていなかったか。


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