コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 93

反ワクチンのデマ

2021年06月28日 09時00分

 どこから来たかは諸説あって判然としないものの、日本には古くから「天邪鬼」(あまのじゃく)と呼ばれる意地の悪い妖怪がいると伝えられる。寺の門前などでにらみを利かす仁王や毘沙門天の像に踏みつけられている小さな鬼がそれだ

 ▼『日本妖怪大辞典』(画・水木しげる、角川文庫)を見てみると、「人の意に逆らい、他人の心中を察する能力に優れ、口真似や物真似をして人をからかう」のが特徴だという。新型コロナウイルスのワクチン接種加速とともに目立ってきたワクチン反対論者たちも、この天邪鬼に魅入られているのでないか。仕組みを理解し、正しくリスク評価した上で注意を喚起するならまだ分かる。違うのだ

 ▼例えば、ワクチンが細胞核を破ってDNAに触れ遺伝子を組み換えてしまうだの、マイクロチップが入っていて無線の5G経由で行動を把握されるだの、荒唐無稽な主張ばかり。接種後2年たったマウスが全部死んだとの話まであるそうだ。2年前にワクチンはなかったのだが。24日には接種に反対する医師や地方議員ら450人が厚生労働省に嘆願書を提出した。間違った情報に惑わされる人がいないことを願うばかりである。こうした流れに危機感を抱いたのだろう。河野ワクチン担当大臣の対応は素早かった

 ▼同日、各局のテレビ番組に相次いで出演。ブログも更新し、デマを流す目的は自分の金もうけにつなげたいか、科学よりもイデオロギーにとらわれているかだとバッサリ。先頭に立ってデマを撃退する様子には、寺の門前で天邪鬼をこらしめる仁王の趣がある。


赤木ファイル

2021年06月25日 09時00分

 ミステリー作家東野圭吾の『白鳥とコウモリ』(幻冬舎)に犯罪の本質を鋭く突いた部分があった。弁護士の妻が娘に〝お父さんはこう言ってた〟と教えるのである

 ▼「真相なんてね、そう簡単にわかるものじゃないの。わかったとしても大したものじゃない」。実は当の犯人も自身の動機がよく分かっていないという。「本人なりにいろいろあったんだろうけど、結局のところは浅い考えで発作的に行動しただけ」。森友学園への国有地売却を巡り、財務省が決裁文書を改ざんした事件もやはり同省が浅い考えで行動したものだったようだ。加担させられたのを苦に自殺した近畿財務局職員赤木俊夫さんが残した備忘録「赤木ファイル」で裏付けられた

 ▼当時、安倍前首相と昭恵夫人が売却に直接関わったと野党が国会で厳しく追及。マスコミぐるみの大騒動に発展していた。そんな中で佐川宣寿元理財局長が経緯について虚偽の答弁をし、つじつまを合わせる形で現場に改ざんを強いたのだ。財務省の罪は重い。今回もう一つはっきりしたのは売却に安倍夫妻の関与がなかった事実である。学園を厚遇したと受け取られる箇所を削除せよと本省から指示されたとき、「現場としては厚遇した事実もない」と強く反論した旨がファイルに記されていた

 ▼政治家を利用しようともくろむ学園に悩まされはしたろうが、手続きに後ろ暗いところはなかったのだ。自らの仕事に誇りを持つ赤木さんは、この案件も公正に事を運んだに違いない。真相は得てして単純なもの。野党とマスコミのあの大騒ぎは何だったのか。


吉本興業、宇宙へ

2021年06月24日 09時00分

 明石家さんまやダウンタウン、千鳥といった有名芸人を数多く擁する「お笑い」の総本山といえば吉本興業(大阪)だろう。本道出身のタカアンドトシも所属している

 ▼ご存じとは思うが芸人に限らず音楽アーティストや俳優、スポーツ選手などそのマネジメント活動は幅広い。ただ、グループ傘下に「よしもとロボット研究所」があるのを知っている人は少ないのでないか。芸人のコンビ名でなく本物の会社である。エンターテインメントコンテンツの企画監修・開発に特化し、「人を笑わせることのできる」ロボットを作るのが目的なのだとか。吉本流の冗談のようだがさにあらず。客を笑顔にする吉本のノウハウをロボットに投入し、新たなコミュニケーション体験を生み出そうという野心的な試みである

 ▼その吉本だが、次は宇宙に手を広げるようだ。今度こそ大風呂敷に違いないと思いきや、どうやら真剣らしい。宇宙船を開発する企業への出資と、宇宙港建設のコンソーシアムへの参加を決めたそうだ。事業主体のPDエアロスペース(愛知)がおととい、吉本興業ホールディングス子会社のよしもと統合ファンドや豊田通商から約3億9000万円を調達したと発表した。高度100㌔到達が可能な「完全再使用型無人サブオービタル機」の開発を進めるという。宇宙機は各種観測業務の他、宇宙旅行や科学実験、新規材開発に使われる

 ▼芸人へのいわゆる〝無茶振り〟が得意な吉本も黙ってはいないはず。完成した暁には「タカアンドトシアンドロボット」で宇宙珍道中を企画するかもしれない。


池袋暴走事故の今

2021年06月23日 09時00分

 公開当時、若者に人気を博した邦画に『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)がある。不治の病で命を落とした女子高生アキと、同級生朔太郎との切ない恋愛が評判を呼んだ

 ▼歌手平井堅さんが担当した主題歌『瞳をとじて』も喪失感と愛情の間で揺れる男性の心情を描いた名曲だった。歌詞にこんな一節がある。「いつかは君のこと なにも感じなくなるのかな 今の痛み抱いて 眠る方がまだ いいかな」。理不尽な運命に大切な人の命が奪われた。過去を記憶の底に沈めた方が楽なのかもしれないが、痛みがどれだけ強くとも忘れない方を選ぶ。愛情の深さゆえの決断だろう。東京の池袋で19年4月に発生した自動車暴走事故により、最愛の妻と幼い娘を亡くした松永拓也さんも同じ気持ちでないか

 ▼簡単に心の整理ができない事情もある。2人の命を奪い自動車運転死傷行為処罰法違反に問われた90歳の男は、街中を時速約96㌔で暴走した理由を車の不具合とし、自らの過失を一切認めていないのだ。この事故では他に9人が負傷。事故車両を解析した結果、異常は見つからなかった。男がパニックに陥りアクセルとブレーキを踏み間違えた疑いが濃厚だが、男はその可能性を一顧だにしない

 ▼松永さんは21日の公判で被害者参加制度を使い、直接被告を問いただした。男の答えは「私の過失はない」だ。裁判ゆえ無罪主張も当然。ただ、自らが起こした事故の重大さに比べあまりにも言葉が軽い。松永さんは妻と娘の名も質問したが男はうろ覚え。松永さんの抱える痛みなど、どこ吹く風らしい。


札幌の住宅街にヒグマ

2021年06月22日 09時00分

 神であっても兄弟同士けんかもすれば嫌みも言う。アイヌの民話「ウウェペケレ」で語られる神は実に人間くさい。「白い熊神が自ら語った話」(萱野茂『炎の馬』、すずさわ書店)もそんな話の一つ

 ▼弟の熊神が兄の熊神の宴に呼ばれ、出掛けていく。最初は歓談しているのだが、途中から子どものいない兄が子どもを授かった弟に言い掛かりを付けはじめる。「おまえばかりが幸せになりやがって」というわけだ。弟が何を言っても兄は聞く耳を持たない。そうこうしているうちに兄が火箸で殴りかかってきたため、弟はアイヌの村に逃げ下りてきた。熊神の世界もなかなか大変である。つまり昔からヒグマが里に現れる出来事はあり、その理由付けに昔話が作られたのだろう

 ▼札幌市東区周辺の住宅街をうろつき回り、18日に駆除されたヒグマも何かしらの事情があったに違いない。兄弟げんかが原因だったかどうかは知る由もないが、住み慣れた山を離れて人間の世界に飛び込むなどヒグマの習性に反する。もともと臆病で自ら人に近付くことのない生き物だ。追い詰められパニックに陥ったか、極度の空腹か。路上で男女4人を襲い重軽傷を負わせた。死者が出なかったのは不幸中の幸いだ。体長1・6m、体重160㌔の雄の個体というから人の力でどうにかできるものではない

 ▼「麻酔で眠らせて山に帰せばよかった」との批判も一部あったと聞く。人慣れしたヒグマを帰すのは危険極まりない。かわいそうだが駆除は必要な措置だった。先の民話のように神の世界へ戻って楽しく暮らしてほしい。


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