コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 94

夏至

2021年06月21日 09時00分

 就寝してさほど時間がたっていないのに、ふと目が覚めてしまうときがある。つい先日もそうだった。気付くとカーテンの隙間から差し込む光が昼間のように明るい。しまった寝坊だと慌てて時計を見ると午前4時半。驚いて損をした

 ▼百人一首にも「夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ」の歌がある。夕方と思っていたら夜が明けていたというのも大げさだが、感覚としてはとてもよく分かる。きょうは夏至。日の出から日の入りまでの時間が一年で最も長い日である。その分、夜は短い。現代歌人栗木京子さんの一首を思い出す。「さびしさに北限ありや六月のゆふべ歩けど歩けど暮れず」。寂しさを紛らせてくれる夜はなかなか訪れず、来てもすぐに終わるのである

 ▼札幌では例年、北海道神宮例祭(札幌まつり)のみこしが笛や太鼓を景気よく鳴らして街を練り歩き、夏至の先触れをしてくれていた。ところがことしもコロナ禍で中止。まったくもって季節感がぼやけること甚だしい。とはいえ夏至とくればいよいよ夏らしくなってくるはず、と期待する向きにはいささか残念なお知らせだろう。札幌管区気象台が17日発表した1カ月予報によると、今週は北からの冷たい高気圧の影響で平年並みかやや寒い日が多いという。ただ今月末からは一転、急に暑くなるというから、体がついていかないかもしれない。熱中症や体調管理には十分注意したいものだ

 ▼「冬至夏至けふは夏至なる月日かな」及川貞。きょうから冬至に向け昼が徐々に短くなっていくと思うと、少し寂しい気も。


緊急事態宣言解除

2021年06月18日 09時00分

 お酒を主題にした随想を読んでいると、思わず膝を打つような名調子に触れることが多い。酔いのなごりで、いつもより作者のペンに勢いがつくのだろうか

 ▼例えば漫画家赤塚不二夫の「紹興酒とお茶割り」。こんな一文があった。「旅と酒―ほんとうに不思議なものだ。どうして旅に出ると、うまい酒に出会うのであろう。東京でどんな高級なウイスキーを飲まされても、あの旅情にひたりつつの酒にはかてない」。作家で翻訳家の常盤新平は自分というものが見えてきた経緯を「偉大な酒場」にこう記している。「酒場があったから、呑みながら、他人と自分を比較することができた。かなしいかな、どの客もみんなすぐれて見えた」

 ▼そんなお酒を介しての出会いや、自分発見から遠ざかって久しい。全て新型コロナウイルスのせいである。不要不急の外出はできるだけ避け、集まってお酒を飲むのもご法度となれば、新たな体験が生まれるはずもない。とはいえ外飲み派の雌伏の生活も、もう少しの辛抱だ。政府は10都道府県に出している緊急事態宣言を、沖縄を除き、20日いっぱいで解除することに決めた。本道など7都道府県はまん延防止等重点措置に移行するそうだ。一時期、感染が急拡大していた札幌もきのうは44人。やっとほっとできる数字になってきた

 ▼本道はワクチン接種が他府県に比べ立ち遅れているが、徐々に追い付いていくに違いない。そうすれば、酒場での酒類提供や旅行も少しずつ元に戻っていこう。気軽に旅行し、ふらりと入った酒場で話に花を咲かせられる日が待ち遠しい。


内閣不信任決議案

2021年06月17日 09時00分

 ノンフィクション作家の髙橋秀実さんは、受け身がとてもうまいそうだ。高校、大学はもちろん、勤めていた会社でも柔道部に所属していたという。エッセーに記していた。受け身こそが柔道の本質、との考えの持ち主なのだとか

 ▼ところが昨今のルールは「自分からいかないと『消極的』だと判断されて『指導』を取られてしまう。やむなく積極的なふりをさせられているだけでこれは本来の柔道ではない」と嘆く。しかも近頃は柔道に限らず仕事でも生活でも「受け身ではダメ」と言う人が増え、閉口しているらしい。おととい内閣不信任決議案を提出した立憲民主党など野党4党も、わが意を得たりとうなずくのでないか。もし提出を見送っていたら支持者に消極的と判断され、批判は免れなかったろう

 ▼受け身と思われないよう積極的なふりをするしかなかったわけだ。とはいえ国会会期末直前まで提出を迷う弱気な態度は隠しようもない。本当に解散となれば困るのは自分たちだから恐れるのも当たり前。自民党の二階幹事長は当初から解散総選挙で受けて立つと繰り返していた。風向きが変わったのは菅首相がG7で一定の成果を上げて帰国してから。世論調査の支持率は下げ止まり、コロナ感染も減少に転じて解散機運は急激にしぼんだ

 ▼解散なしと踏んだ野党は安心して決議案を提出したのである。巧妙に野党の見せ場を演出した自民党も相当にたちが悪い。本末転倒、国民無視の政局芝居だろう。野党も少しは受け身を覚えた方がいい。攻めを意識するあまりいつも足元がお留守になっている。


小林亜星さん死去

2021年06月16日 09時00分

 

 脚本家の向田邦子さんは、自身が手掛けた多くのホームドラマの中でも特に視聴率の高かった作品の茶の間には、同じ特徴があると気付いたそうだ。エッセー「テレビドラマの茶の間」に記していた

 ▼「申し合わせたように、せまくて小汚い日本式のタタミの部屋だった」らしい。現実の世の中では洋風のリビングが主流になって久しいのに、視聴者がドラマに求めたのは、雑然とした畳敷きの茶の間だったのである。皆が気楽にいられる場だから、が向田さんの答え。作曲家の小林亜星さんはそんな茶の間によく似合っていた。向田さん脚本の『寺内貫太郎一家』(1974年、TBS)で頑固おやじを演じたのである。息子役の西城秀樹さんと茶の間で繰り広げる大げんかが毎週のお約束だった

 ▼その亜星さんが5月30日、東京都内の病院で亡くなっていたという。88歳だった。超が付くほどの人気作曲家なのに、テレビ番組で拝見する限り「アーティストでござい」と気取るようなところはかけらもなかった。CMソングからアニメ主題歌、歌謡曲まで、記憶に残る曲がたくさんある。日立グループの『この木なんの木』、子どもが大喜びした『ピンポンパン体操』、都はるみさんの『北の宿から』

 ▼雑誌『新潮45』(新潮社)のインタビューに以前、こう話していた。「歌は人とのコミュニケーションを願う祈りなんです」。亜星メロディーが深く心に染みるのはそうした祈りが込められているからだろう。古き良き昭和の茶の間は消えても、亜星さんの曲が消えることはない。「どこまでも行こう~」。


女性に性転換し五輪出場

2021年06月15日 09時00分

 鋭い風刺にも定評のあるSF作家小松左京がオリンピックを題材にした「超人の秘密」という短編を残している。隆盛を極め出場国が増え続ける大会に、ある年、選手が一人だけの国が初参加した話だ

 ▼常連国は「素晴らしい意気込み」と称賛したが、大会が始まるとその選手が陸上や水泳など個人競技の世界記録を全て塗り替えてしまう。他の国は不思議でならない。ついには魔法だろうとの結論に達したのだった。規定には〝魔法は禁止する〟との文言はない。裏技を使われたと考えたわけだ。各国は自分だけ後れを取るわけにはいかないと、一斉に研究を始めた。小松左京はメダル獲得のためには手段を選ばない国が多いのを皮肉っているのである

 ▼現実にドーピングは珍しくない上、巧妙さは増すばかり。パラリンピックでも、知的障害者バスケットボールでほとんど健常者のチームを編成したスペインや、視力障害者柔道に視力を偽って選手を出場させた韓国の例があった。不正を働く国は後を絶たない。これも首をかしげたくなる動きである。国際重量挙げ連盟が11日、性転換手術で男子から女子になったニュージーランドの選手が東京五輪女子87㌔超級の出場権を獲得したと発表した。こうした選手の五輪出場は初めてという

 ▼体格がものをいう超級でこの扱いは不公平でないか。トランスジェンダーの権利ばかりを尊重し、明確な体力差に目をつぶるのは五輪の目指すフェアプレー精神にも反していよう。しかも栄誉と実績を求める国や選手がこの「合法的な魔法」を使わないとも限らないのだ。


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