コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 97

デジタル教科書

2021年05月31日 09時00分

 今どきはデジタル化されていない職場の方が珍しいのでないか。机の上にパソコンのある風景が当たり前になって久しい。ただ、これだけ長く使っているのに、パソコンの達人はさほど増えていない

 ▼急に文字入力ができなくなった、ネットワークにつながらない、自動アップデートされた後にいつものソフトが使えなくなった―。毎日のようにトラブルは起こるが、きっと自分では解決できない人がほとんどだろう。詳しい人がいないとお手上げ、壊れても代替機がない、気付くとパソコンのご機嫌伺いで半日つぶしていたりして。いい歳をした大人が多数集まった職場にしてこの体たらくである。デジタル教科書の導入が今後加速される小学校では、一体どんなことになるのやら

 ▼この春から全国で実証事業が始まったが、学校現場の混乱は決して小さくないらしい。文部科学省にはデジタル教科書端末の不具合や子どもたちの操作能力のばらつき、通信環境の不安定さなど多くの問題が寄せられているそうだ。児童生徒のアカウント管理、使い方説明、トラブル対応は原則、先生に任される。得意な人ばかりではなかろう。授業や関連業務だけでも大変なのに、その上これでは子どもたちとも十分に向き合えまい

 ▼文科省の有識者会議が27日、本格導入に備え教育効果や通信環境格差、健康面への影響を検証すべきとする第1次報告案をまとめた。大切なのは教育の質を高めることで紙かデジタルかではないと政府にくぎも刺した。職場で動かないパソコンと格闘しながら深くうなずく人もいるに違いない。


ワクチン接種

2021年05月28日 09時00分

 兵法武経七書の一つとして日本でも古くから読まれている中国の『李衛公問対』には、勝利を目指す上では攻めも守りも一体との教えがあるという

 ▼守屋洋氏が『《中国古典》役に立つ兵法120』(三笠書房)で三国時代の逸話を引きながら解説していた。長く厳しい戦いに疲れていた曹操に、参謀が「堅陣を布いて守りを固め、敵の喉首にくらいついて、すでに半年にわたって前進をはばんで来ました」と現状を説明。その上でこう進言したそうだ。「敵の攻勢は今が限度。やがて膠着状態の破れるときが必ずまいります。そのときこそ奇計をもって、一気に決着をつけるのです」。日本での新型コロナウイルスとの戦いも、いよいよ雌雄を決するときが近づいているようだ

 ▼この1年余り、国民の自由と一部の経済活動を大きく犠牲にしてウイルスの前進を阻んできた。そんな我慢続きの日々も終わる。ようやくウイルス絶対有利の形勢を逆転させる機会が訪れたのだ。一気に決着をつける奇計はワクチンである。1日当たりの接種回数は、26日を見ると高齢者28万回、医療従事者14万回の合計42万回。予約手続き、打ち手、会場確保といった態勢が整わない中での実績としては悪くない。これなら政府目標の1日100万回も実現できるのでないか

 ▼欧米の例から高齢者の接種が済むと感染拡大も抑えられることが分かっている。今は7月末の全高齢者2回接種を目指し一気に突き進むしかない。今月末が期限だった緊急事態宣言も対象地域全てで延長される見込みだ。攻めのために固める最後の守りだろう。


今夏の電力需給

2021年05月27日 09時00分

 萩原朔太郎の詩に「死なない蛸」がある。内容も題名そのまま不穏な雰囲気が漂う。ストレスのかかる環境に置かれると自分の足を食べてしまうタコの習性を効果的に盛り込んだ一編である

 ▼作品の中のタコは飢えていた。中段の一節を引く。「彼は自分の足をもいで食つた。まづその一本を。それから次の一本を」。そしてついには、「身体全体を食ひつくしてしまった」。後には何も残らないほど、完全にである。経済産業省が25日、「今夏の電力需給はここ数年で最も厳しい」とする見通しを示したとの報に触れ、その詩を思い出した。日本も自らの体を食うことで需要期の電力を確保してきたが、そろそろ限界に来ているのでないか。電力政策の手際の悪さが目立つ

 ▼脱炭素に傾斜し火力発電への投資環境を悪化させながら、原子力発電を動かさない分の穴埋めは火力にさせている。運用は電力各社任せとはいえ、政策の縛りがあるため自由度は低い。当然、燃料は輸入頼りだから費用はかさむ一方である。そうした無理がたたって老朽火力設備休廃止の時期が集中。受給危機を招いた。政府は電気料負担を重くするのに、安心は保証しない。国民の富を一本また一本と、もいで食いながらしのいできたのだ。大規模太陽光発電に歯止めをかけないのもその一つ。炭素を固定する森林を壊す例が多く、不安定な発電量が需給バランスを崩してもいる

 ▼7月の供給予備率は7地域で周波数維持に綱渡りを要求される3.7%。経産省は無策を棚に上げ節電を呼び掛けるという。まだ国民を食うつもりらしい。


スーパームーンと皆既月食

2021年05月26日 09時00分

 日本人は古くから月に特別な親しみを持って暮らしてきた。万物の源で神とあがめられる太陽と違い、人の側により近い存在と考えられていたのである

 ▼古典和歌を見ると分かりやすい。留学したまま唐で一生を過ごした安倍仲麿は日本の方に上がった月を眺めてこう詠んだ。「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも」。この月は今、春日の地も照らしているのだ、と望郷の念を強めていたのである。このときの月は仲麿にとって、自身と故郷を結ぶ絆のようなものだったろう。藤原道長のこの歌もよく知られている。「此の世をば我世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」。満月のごとく一点の欠けもない素晴らしきわが人生、とはいかにも権勢を誇った道長らしい。自分を月に投影しているのだ

 ▼月を愛でる文化は、今も昔も変わらない。さて今夜はどんな印象を与えてくれるのか。きょうはことし1年で一番大きな満月「スーパームーン」と皆既月食が同時に起こる貴重な日である。気掛かりは空模様だが、本道は夜まで晴れが続く見込みという。期待してよさそうである。月全体が地球の影に覆われる皆既食は午後8時9分頃から始まり、同18分頃最大になるそうだ。見落としはしないと思うが注目は南東の方向、高度角15度付近である

 ▼「ひさびさにかへり来れる村の上に低く大きく月いでにけり」土屋文明。赤銅色に染まる巨大な月はきっと壮観だろう。次にスーパームーンと皆既月食が重なるのは12年後。きょうの月を「コロナ禍にいでし月」と思い出す日になるのかも。


逃げたニシキヘビ発見

2021年05月25日 09時00分

 童話は子どものころに触れる機会の多い読み物だが、大人になってからの方が中身を深く理解できることも多い。『青い鳥』(メーテルリンク)もその一つだろう。チルチルとミチルの兄妹が幸せの青い鳥を探して旅をする物語である

 ▼二人は〝思い出の国〟や〝夜のごてん〟、〝未来の国〟を訪れ、いったん捕まえはするものの、国を出ると色が変わったり死んでしまったり。とうとう見つけられないまま家に戻る。ところが家の鳥かごをのぞいてみると、そこにはあれほど求めていた青い鳥の羽が―。遠くを旅しても見つからないはずである。幸せは身近にあったのだ。人生経験を重ねると現実の生活にもそんな例が少なくないと気付く
 
 ▼人騒がせな話だが、こちらも近隣住民がほっとしたという点ではある意味、幸せと言っていいのかもしれない。横浜市のアパートから逃げ出し、大人数による周辺の大捜索にもかかわらず行方が分からなかったニシキヘビが、16日ぶりに当のアパートの屋根裏で発見された。いくら外を探しても見つからないはず。頭の上にいたのだ。換気のため窓を開けておいたと飼い主が話したため、外に出たと考えられていたのである。体長3・5mのニシキヘビに巻き付かれると大人でも簡単に窒息するとあって、警察や消防が出動して大捕物になっていた

 ▼周辺をくまなく調べ、万策尽きて振り出しの家に戻るとそこに求めていたヘビの姿があったというわけ。見つけたのは日本爬虫類両生類協会理事長の白輪剛史という方だったそう。やはり長年の経験がものをいったようだ。


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